偽魔王の倒し方?
「で。」
偽魔王は、ゆっくりとこちらに歩いてくる。
まるで、処刑台に向かう罪人を見るような目だった。
「このままだと貴様を切り落とすが、どうする?」
「それは困るかなー」
声がした。
上空。
闘技場の真上に、ふわふわと浮かぶ人影。
リリベルだった。
片手には、小さな黒い箱を持っている。
「待たせたわね。」
「ほう。」
偽魔王が、薄く笑う。
「俺の玉座の傍らに立つ栄誉を捨て、よりにもよってその雑兵を選ぶか。笑わせる。」
「雑っ……選んだのではありません。元々所有物です。」
リリベルは、何故か少し照れてるように見える。
偽魔王に対して敬語が抜けていない。
そして、黒い箱を掲げる。
「古代魔法具、《ブラックケース》よ!」
「……?」
「魔力装填! 発動! 《デッキオン》!!」
その瞬間。
箱が開いた。
中から溢れた光が、偽魔王とリリベルを一気に飲み込む。
光は巨大な球体となって闘技場の中央に浮かび、二人の姿を閉じ込めた。
俺はすぐにステータス画面を開く。
映像共有。
リリベルの胸元に付けていた魔道具からの映像が、画面に映し出される。
そこに映っていたのは。
意味の分からない空間だった。
上も下も無い。
空は赤、紫、緑がぐちゃぐちゃに混ざっていて、地面らしきものは遠くに見えるのに、次の瞬間には頭上にある。
背景は、誰かが叫びながら溶けているような、ぐにゃぐにゃした渦。
ムンクの叫びを、そのまま世界にしたみたいな景色だった。
これは魔道具とリリベルの魔力によって構築された、固有の結界――彼女の心象風景が領域に展開された「カオス空間」だ。
「なンだこノくウカんは……!」
偽魔王の声が、おかしい。
さっきまでの高圧的な口調が崩れ、言語能力が壊れていた。
「気持ち悪……」
俺ですら、映像を見ているだけで頭が痛くなる、狂気の世界。
まともな精神耐性《SAN値》を持たない者が足を踏み入れれば、それだけで思考回路がショートする。
その空間の中で、リリベルだけは平然としていた。
まるで水の中を泳ぐみたいに、上下も無い空間を自由に飛び回る。
「この空間だと、まともに考えられないでしょ?」
「きサま……!」
「でも」
リリベルが、懐から石を取り出した。
赤石。
青石。
緑石。
紫石。
さっき武器の勇者が使った、あの封印魔石だ。
俺と偽魔王の会話中、リリベルが回収していた。
「これは分かるわよね。」
「!?」
リリベルは、四つの魔石を等間隔に配置する。
ぐにゃぐにゃの空間の中で、四つの石だけが不気味なほど正確に並ぶ。
光る。
封印陣が展開される。
「ほら、お得意の〈嘘〉でも言ってごらんなさい?」
「お、オレは……!」
偽魔王が口を開く。
だが、言葉にならない。
「おレは……おれガ……ナにを……」
明らかに、能力の発動に必要な“嘘”を、最後まで言えない。
いける。
今度こそ、封印できる。
そう思いながら。
俺は、もう一つの画面を見ていた。
とある街の地下室。
調査モンスターに設置してもらった、監視用魔道具。
薄暗い部屋の中で、一人の男がベッドに眠っている。
偽魔王と、まったく同じ顔。
「……よし、動いてない。」
用心深いあいつのことだ。
絶対に、自分が死んだ時の保険を用意していると思ってステータスを覗き見したところ。
案の定、あった。
俺は事前に居場所を突き止め、監視していた。
記憶をリアルタイムでバックアップするクローン。
もし偽魔王が死ねば、こいつが目覚める。
しかも厄介なことに、偽魔王が生きている間に壊すと、肉片一つからでも増殖する仕様らしい。
だから。
壊すなら、偽魔王とのリンクが切れる一瞬。
つまり、封印された瞬間しかない。
「……三、二、一」
封印陣の光が、偽魔王を包む。
今だ。
俺はステータス画面のカッターを振るった。
防御魔法無視の、次元を超えた切断。
画面越しに、地下室のクローンを。
バラバラに、切り刻む。
――はずだった。
「え?」
切れたのは。
ベッドだけだった。
クローンは、いない。
嫌な予感がして、振り向く。
目の前にいた。
「貴様」
偽魔王と、同じ顔。
クローンが、俺のすぐ後ろに立っていた。
「うわっ!?」
慌ててステータスカッターを振るう。
腕を切る。
胴を切る。
頭を切る。
クローンの身体が、ぐちゃぐちゃに崩れる。
だが、遅かった。
崩れる寸前。
クローンは、光の球体に手を突っ込んでいた。
「な――」
球体が、内側から破れる。
リリベルの結界が、砕け散る。
封印の光も霧散する。
偽魔王が、何事もなかったように外へ出てきた。
「貴様らがあのクローンを監視していることなど、最初から承知していた。」
偽魔王が、愉快そうに笑う。
クローンの残骸が、床に転がる。
「故に奴の中身は、あらかじめ俺の都合の良いように書き換えておいたのだ。
俺が窮地に陥れば、自ずと駆けつけるようにな。」
リリベルの顔が青くなる。
まずい。
一旦引くにしても距離が近すぎる。
偽魔王が、リリベルを見る。
「では、小娘」
いつものように。
絶対に覆らないと信じている顔で。
「〈封印されるのは、お前だ〉」
霧散していた光が集約し、動き出す。
「っ――!」
リリベルの身体が、魔石の光に包まれる。
「や、ちょ――」
そのまま。
消えた。
残ったのは、地面に転がるブラックケースだけ。
最悪だ。
次の手はある。
あるけど、近い。
偽魔王が近すぎる。
今動いたら、その前に殺される。
「さて」
偽魔王が、こちらを見る。
「次は、どんな無駄な手を――」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
闘技場の壁が、爆発した。
瓦礫をぶち抜いて突っ込んできたのは。
四天王、ジオウだった。




