偽物対贋作
決勝戦の熱気が、まだ闘技場に残っていた。
だが、実況も観客も、もういない。
魔王直々の命令で、観客席にいたモンスター達は全員退場させられていた。
実況も、「ここから先は魔王様お一人での聖域だ」と無理やり締めてから、兵士に担がれて連れて行かれた。
広い闘技場に残っているのは、俺とリリベル、武器の勇者。
そして、玉座から降りてきた魔王だけ。
「……では、始めるとしよう。」
魔王が余裕そうに腕を組む。
それだけで、空気が重くなった。
武器の勇者は、無言でポーチに手を突っ込んだ。
次々とレアアイテムを取り出していく。
身体能力を一時的に三倍にする薬を飲み。
五分間だけ、あらゆる攻撃への反応速度を極限まで上げる腕輪を折って発動し。
魔力を無理やり筋力に変換する首飾りを燃やして持続させ。
国宝級の使い切りの宝玉を噛み砕く。
バキバキと不快な音が響くたび、彼の全身から魔力が噴き上がり、その手に握られた『魔王の剣』がどす黒い光を放つ。
「行くぞ、魔王ッ!」
地面が砕けた。
一瞬で距離を詰め、魔王の剣を振り下ろす。
だが。
キィン!
魔王は軽々と受け止める。
「〈俺もその剣を持っている〉。」
武器の勇者が眉をひそめる。
魔王の手にも、まったく同じ剣が握られていた。
「誰の許しを得て、それに触れた? 贋作風情が、俺の宝を名乗るな。」
「おま! おまおま!! おまえがッ!!」
"お前が言うな"すら噛むほど、ついツッコんでしまった。
武器の勇者は、それでも止まらない。
魔王に向かって、ひたすら剣を振るう。
右から、左から、上から。
滅茶苦茶に見えるほど、がむしゃらに。
何度も弾かれ、何度も距離を詰め、何度も斬りかかる。
「無駄だ。」
魔王は、余裕そうに剣を受け流していた。
だが。
武器の勇者が、一歩下がった瞬間。
足元が光った。
「……何?」
闘技場の床に、いつの間にか大量のアイテムが埋め込まれていた。
転移封じの杭。
一定範囲の移動を制限する鎖。
魔力を乱す呪具。
空中移動を封じる結界札。
触れた相手の動きを数秒だけ止める罠。
武器の勇者が、さっきまで滅茶苦茶に暴れていたように見えたのは。
全部、これを設置するためだった。
「なるほど」
魔王は、初めて少しだけ感心したように言った。
「最初から勝つ気は無く、俺を封じるつもりだったか。」
「……気づくの遅えよ。」
武器の勇者が、血だらけの顔で笑う。
そして。
闘技場の四方に、四つの石を投げた。
赤。
青。
緑。
紫。
見た瞬間、口角が上がりそうになるのを抑えた。
「あれ……うまく行ったみたいね。」
リリベルも小声で囁く。
あの四つの魔石は、遥か昔。
初代勇者が、魔王を封印するために使ったという、伝説の封印魔石。
赤石、青石、緑石、紫石。
本物は長い歴史の中で、行方不明になっていたはずだ。
「無論、コピーだがな。」
武器の勇者が言う。
「ここ最近、詳細な資料を入手出来たのだ。コピーとは言え本物同様の効果を持っている。」
「資料を渡したのはシロ団長だけどな。」
彩魔術団のシロ団長に、古の封印術を調べてもらった結果たどり着いた。
アイテムがロストしてるなら、チート能力で出してもらえばいいじゃない。
って事でうまく唆した結果、思った通りの成果だった。
四つの魔石が光る。
赤い魔力。
青い魔力。
緑の魔力。
紫の魔力。
それらが絡み合い、巨大な封印陣を作り出す。
魔王の足元に、巨大な光の輪が広がった。
空気が震える。
闘技場そのものが、悲鳴を上げているみたいだった。
「終わりだ、魔王……!」
武器の勇者が叫ぶ。
俺も、一瞬だけ。
もしかしたら、と思った。
だが。
魔王は、笑っていた。
「〈この魔法で封印されるのは――お前だ〉」
次の瞬間。
封印陣が、反転した。
「なっ……?」
武器の勇者の足元に、光の輪が現れる。
「なっ、おい、待っ――」
光が、武器の勇者を飲み込む。
一瞬だった。
眩しい光が消えた時。
そこに、武器の勇者の姿は無かった。
代わりに。
何事もなかったように、魔王が立っていた。
◆◆◆
「……やっぱり、だめだったか。」
少しの静寂の後。
俺は、ため息をつきながら前に出る。
魔王が、こちらを見る。
「ようやく姿を見せたか、道化。」
「おや。ご存知でしたか。偽魔王陛下。」
魔王は、一瞬だけ目を細める。
だが、すぐに笑った。
「貴様が異世界の勇者であることなど、とうに見抜いていた。」
魔王――いや、偽魔王は肩を竦めた。
「だが、覗いた貴様の力は凡庸そのもの。
授かったはずのチートも、神に愛された力も見当たらぬ。故に放っておいたのだ。
王たる俺が、路傍の石ごときにわざわざ手を下す必要もあるまい?」
まー、よく次から次へと王様感ある言い回し出てくるな。
感心するわ。
お前も元は日本人だろうが。




