ギアチェン
決勝戦の組み合わせが読み上げられた瞬間、会場は今日一番の歓声に包まれた。
『武器の勇者』対『吸収の勇者』。
片や、ありとあらゆるレアアイテムを山ほど繰り出す、物量だけでここまで勝ち上がってきた男。
片や、相手の魔法も魔力も、ついでに努力まで全部吸い取って無力化する、異世界チートの教科書みたいな男。
「うわぁ……」
俺は思わず顔をしかめた。
「過去に似たような奴らと戦ったけど、マジでキツかったのを思い出したわ。」
「殺し合ってくれるなんて有難いわね。」
隣のリリベルが真顔で言う。
「そうだな。でもまあ、武器の勇者はキツイんじゃないかね。相性が悪すぎる。」
MAXハイテンションな実況の声で決勝戦がスタートする。
武器の勇者は試合開始と同時に、いつものようにアイテムをばらまいた。
炎を吐く槍。
雷を落とす短剣。
自動追尾する斧。
空中に浮かぶ百本の魔剣。
観客席から歓声や悲鳴が上がる。
『これは凄いぞォ! まさに歩く武器美術館ッッ!!』
「おおおおお!」
「すげえ!」
「あの武器はトラウマや……」
だが、その全部が。
吸収の勇者の前に展開された、巨大な魔法陣に触れた瞬間。
すうっ、と消えた。
「チッ!」
武器の勇者が舌打ちする。
一本消えた。
二本消えた。
十本消えた。
最後には、武器の勇者が放った数百の武器が、全部、魔法陣に吸い込まれて消滅した。
『いや待て待て待て』
実況が思わず素に戻る。
『武器の勇者の持ち味が、一瞬で死んだァァァ!!』
『魔力を帯びた武器とは言え、物理的に武器ごと吸っちゃうんですね。チートですね。』
俺は頭を抱えた。
武器の勇者も焦ったように、次々と別の武器を取り出す。
しかし、剣も槍も爆弾も、魔力を込め効果発動の瞬間に吸われる。
そもそも、武器の勇者が持っている強い武器は、だいたい魔力で動く。
つまり。
全部、吸われる。
「詰みでは?」
「詰みだな」
観客の誰もがそう思った、その時だった。
吸収の勇者が、一歩前に出た。
「……別に、吸うだけじゃないんだよ。」
次の瞬間。
床が砕けた。
吸収の勇者が、一瞬で武器の勇者の懐に入り込む。
「なっ――」
拳。
ただの拳。
だが、武器の勇者は十メートル以上吹き飛び、壁に叩きつけられた。
会場が静まり返る。
『お、おーっと!! 何が起きたァァ!?』
『身体能力が……上がってる?』
吸収の勇者は、握った拳を見下ろしながら、つまらなそうに言った。
「吸った魔力は、別に保管するだけじゃない。身体強化にも使える。」
『出たァァァ!! 異世界勇者の理不尽すぎるオマケ能力ッッ!!』
『オマケだからって、上限無くて雑なんですよね。あの女神。』
実際、吸収の勇者の動きは、もはや人間じゃなかった。
速い。
重い。
硬い。
もう四天王クラス、いや魔王クラスかもしれない。
武器の勇者が必死に距離を取り、最後の切り札を取り出す。
漆黒の長剣。
魔王愛用の剣。
会場がどよめいた。
「おおっ!?」
「魔王様の剣だ!」
「なんで持ってんだよ!?」
『これはァァ!! 魔王様の愛剣、《魔剣グラム》と言われるやつかァァァ!? 俺も見た事が無いのに何処で知ったのかッッ!!』
『歴史の文献からでしょうか。そんな情報だけでコピー出来るのが、さすがクソチートですね。』
武器の勇者は、その剣を振るう。
今までの武器とは違う。
魔法とか、物理とか、そんなもん超越している。
ただ純粋に、“斬る”ためだけの剣。
このありえない武器に対し、吸収の勇者も初めて表情を変えた。
だが。
それでも、届かない。
剣を振るうたび、武器の勇者の身体は殴られ、蹴られ、叩きつけられる。
魔王の剣だけは吸えないらしい。
だが、吸えないだけだ。
相手は、魔王クラスの身体能力を持っている。
いくら伝説の装備の超絶バフが掛かっていようが、身体能力の差で届かない。
「無理だろ……」
誰かが呟いた。
武器の勇者は、血だらけで転がった。
剣を杖にして立ち上がる。
吸収の勇者が近づく。
「終わりだ。」
その時だった。
武器の勇者が、急に笑った。
「……はは。」
「!?」
「そうか。そういうことか。」
わかるぞあの顔。
異世界チート主人公が、土壇場で意味不明な覚醒をする時の顔だ。
嫌な予感しかしない。
「お前、その吸収をする時に、魔法陣を出してるよな?」
吸収の勇者が眉をひそめる。
「だから何だ。」
「俺の能力は、“見たアイテムを複製する”ことだ」
「……?」
「俺はその魔法陣を、"アイテム"と認識するッ!」
会場が静まり返った。
実況も止まった。
俺は頭を抱えた。
『また始まりましたね。チート能力のトンデモ解釈が。』
武器の勇者の前に、魔法陣が展開される。
吸収の勇者のものと、まったく同じ。
『ななななんとッッ!! 吸収魔法陣をコピーして、コピー吸収魔法陣を作り出してしまったァァ!! 二つが衝突するどうなってしまうのか!!』
『フリーズしない事を祈ります。』
武器の勇者が動く。
小さな魔道具を投げたところ、吸収の勇者は慌てて魔法陣を展開する。
だが。
吸収と吸収がぶつかり合い、相殺されて消えてしまう。
「なっ――!?」
魔道具がヒットする。
そこから発生した目眩しにより、吸収の勇者の身体がほんの少し揺れた。
その無防備な胸元に。
武器の勇者の持つ、魔王の剣が綺麗に入る。
「ガッ――」
傷が深い。
コピー吸収魔法陣で身体能力が吸われているようだ。
吸収の勇者は、そのまま崩れ落ちた。
一拍遅れて、会場が爆発したような歓声に包まれる。
武器の勇者が、決勝戦を制したのだった。




