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言霊系能力者の倒し方

 三時間が経った。

 俺は、もう顎を切る係になっていた。


 偽魔王が何か言いかける。

 切る。

 再生する。

 また言いかける。

 切る。


 さすがに疲れたので、ステータス画面を組み立て椅子にして座っている。

 もう嫌だこの戦い。


「〈俺は――〉」


 切る。


「〈俺は、貴様を――〉」


 切る。


「俺は疲れな――」


 切る。

 あれ、今普通に喋ろうとしてた?

 そこで、偽魔王が止まった。


「……はぁ」


 息を吐いた。

 今。

 こいつ、ため息をついた。

 俺は、思わずピエロを見る。

 ピエロも、にやりと笑った。


「アラァ?」


「馬鹿な……」


 偽魔王が、自分の手を見る。


「なぜだ……俺は疲れないはず……」


「身体はネ。」


 ピエロが、剣を振るう。

 偽魔王の肩が斬れる。

 再生する。


「でも、心までは別なんじゃなァい?」


 それからも戦いは続き。


 開始から既に、五時間が経った。


 もはや戦いですらなかった。


 偽魔王は、ほとんど反撃しない。

 切られる。

 再生する。

 また切られる。

 その繰り返し。


 身体は無限に動く。

 でも、精神が限界だった。

 どれだけ「疲れない」と嘘をついても。

 五時間も、終わりの見えない斬り合いを続ければ。

 心は、疲れる。


「……っ」


 偽魔王の目から、完全に余裕が消えていた。

 ピエロは、そんな様子を見て、楽しそうに笑う。


「アタシ、まだまだあと十時間はいけるわヨ〜?」


 剣を、くるりと回す。


「ころしたら逃げられるからァ。殺さない程度に、ずーっといたぶってあげる♡」


 偽魔王が、ぴたりと止まった。

 呆れた顔。

 本気で理解できないものを見た顔だった。


「……貴様。」


「なァに?」


「頭がおかしいのか?」


「今さらァ?」


 ピエロも、剣を止めた。

 そして。


「そうだ、せっかくだから色々試してみまショ♡」


「何をーー」


 次の瞬間。

 ピエロが、執拗に偽魔王の股間だけを切り始めた。


「やめろォ!?」


「ちゃんと再生するか確認してるだけヨォ?」


 再生する。

 また切る。

 再生する。

 また切る。


「やめろって言ってるだろ!?」


「アラ、ちゃんと元通りになるのネ」


 次は腹を開く。


「ワァ、内臓ってこんな感じなのネ〜」


「触るなァ!!」


「これ何かしラ。腸? 胃? アラ、引っ張ったらどこまで出るのかしラ♡」


「やめろおおおおおおおおお!!」


 五時間も戦って、ようやく。

 偽魔王が、心の底から嫌そうな顔をした。


「……もういい。」


 その場に、膝をつく。


「わかった。降参だ。」


 倒れ込む。

 もう、立ち上がる気力も無いらしい。

 俺は、ほっと息を吐いた。


「……終わりました?」


「まだヨ」


 ピエロが、偽魔王の喉元に剣を当てる。


 俺は、念のためステータス画面を開きながら、ポーチから一本の短剣を出した。

 魔王軍の宝。

 レアマジックアイテム、《閻魔の短剣》。

 前にも使ったが、これに誓わせれば魔王軍へ逆らえなくなる効果を持つ。


 そう思ったのだが。


「タカトちゃ〜ん? 何処から持ってきたのォ?」


「ひっ!」


 ピエロの目が本気マジだ。


「いや、これなら確実に――」


「ダメよ。いつもいつも持ち出して……そんな都合のいいアイテムに甘えちゃダメ!」


「えぇ……」


「却下。」


 却下された。

 緊急時なんだからいいじゃん。


 ピエロは、改めて偽魔王の首に剣を当てる。


「まずは、四天王を生き返らせなサイ。」


 偽魔王が、嫌そうに顔をしかめた。


「……嫌だ。」


 ぴたり。

 剣先が、首に食い込む。


「言い直しなサイ♡」


 笑っている。

 なのに、部屋の温度が数度下がった気がした。


「……分かった。」


 偽魔王が、渋々口を開く。


「〈四天王は生存している〉」


 そう言った瞬間。

 どこか遠くで、何かが戻る気配がした。

 俺は慌ててステータス画面を開く。


 ジオウ、生存。

 カゲヌイ、生存。

 竜神、生存。

 リリベル、封印解除。


「……戻った。」


 本当に、全員復活していた。


「よろしい。」


 ピエロが満足そうに頷く。


「じゃあ次ネ。」


 偽魔王の髪を掴んで、無理やり顔を上げさせる。


「アンタの能力で、こう言いなサイ。」


 にっこり笑った。


「“魔王軍が不利になる嘘は不発になる。これはどの嘘よりも最上位に適用される”」


 偽魔王が、絶句した。


「……それは」


「言いなサイ。」


「……」


 剣先が、少しだけ押し込まれる。

 血が流れる。


「……〈俺はーー〉」


 偽魔王が、ゆっくりと言う。


「〈魔王軍が不利になる嘘は不発になる。これはどの嘘よりも最上位に適用される〉」


 一瞬、空気が変わった。


 世界のルールが、一つ書き換わったみたいに。


 ピエロが、にやりと笑う。


「ありがと♡」


 そして。


 そのまま。


 偽魔王の首を、はねた。


 首が飛ぶ。

 床を転がる。

 俺は、思わず叫んだ。


「ちょ、待って下さい! 殺したらワープして逃げる〈嘘〉を――」


「しないワ。」


 ピエロが、平然と言った。


「え?」


「今、あいつ自身に言わせたでショ?」


 血を払いながら、笑う。


「“魔王軍が不利になる嘘は不発になる”って。」


 転がった首は、もう再生しない。

 身体も、動かない。


「奴の存在自体が、魔王軍にとって不利なのヨ。今決めたわ。アタシが♡」


 ピエロが、剣を肩に担ぐ。


「だから、あいつが逃げたり復活する〈嘘〉も、不発。」


 そのまま倒れた偽魔王の死体を一瞥する。

 死体は少しずつ光に変わっていった。

 異世界転生者が完全に死ぬと消えていく、あの現象だ。


 蘇る気配は無い。

 光が消えた。

 後には何も残らなかった。


「……終わりましたね。」


「そうねぇ。」


 ピエロが剣を下ろした。

 王の間が静かになる。

 崩れた柱、傷だらけの地面。

 五時間分の戦いの跡だけが残っていた。


「ところで。」


 ピエロが俺を見た。


「この異空間、いつまで続くの。」


「えっと……俺の魔力が持つ限りは続くんですけど、白石の魔力を使い切ったのでそろそろ……」


「消えるってこと?」


「たぶん十秒くらいで。」


「はやく言いなさい!!」


 ピエロが俺の手を掴んだ。

 次の瞬間、王の間全体が白く光った。

 そして。

 俺たちは砂漠の、闘技場の真ん中に戻っていた。



◆◆◆



 砂漠の夕日が闘技場を赤く染めていた。

 ピエロが腰に手を当てて、空を見上げる。


「ったく、大変だったわぁ。

アタシの城を乗っ取られて、心象風景の中で五時間も斬り合いなんて。肩がこりそう。」


「ピエロさんは肩こりするんですか。」


「するわよ。さすがのアタシでもね。」


 俺は周囲を確認した。

 ジオウさん、カゲヌイさん、竜神様。

 三人が闘技場で倒れていたが、みんな目を覚ましていた。


「……なんだ、終わったのか。」


 ジオウさんが頭をがりがりかきながら起き上がった。


「死んだと思ったでござるが……不思議な感じでござる。」


 カゲヌイさんが自分の体を確認している。

 竜神様は何も言わなかった。

 ただ真っ二つだった体が戻っていることを確認して、静かに空へ戻っていった。

 やはり口数が少ない。


「タカトちゃん。」


 ピエロが俺を呼んだ。


「はい。」


「よくやったわ。褒めてあげる。」


「ありがとうございます。」


「閻魔の短剣は宝物庫に返しておきなさいよ。」


「……はい。」


「あと今回のことは誤魔化しておいてね。

アタシがしたこと、四天王に知られたら面倒じゃない。」


「了解です。」


「いい子ね。」


 ピエロがウィンクして、そのまま砂漠の風の中に溶けるように消えた。


「タカトおおお〜!!」


 リリベルがどこからか飛んできた。


「良かった、うまく魔王様を喚べたのね!?

怖かった〜。ところで何よあのピエロ、タカトと仲良さそうに!」


 俺とリリベルは、夕日に染まる闘技場に残されていた。


 まあなんというか。


 礼を言ってやるよ、偽魔王。

 おかげでちょっとだけ。

 四天王と魔王様、みんなとの絆が深まったかな?

 なんて思った。

VS偽りの勇者 おわり



言霊系能力者の倒し方:

喋らせないように力でゴリ押す。

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