複製チャンピオンズ
『それでは第一試合!! 武器の勇者ゴロウ対、携帯の勇者サトル!!』
ゴングが鳴る。
カァァァン!!
『始まったァァァ!!』
「行け! キュウビ!」
帽子を逆にかぶり、サトルが叫ぶ。
同時に、腰からキューブ型の道具を取り出して投げた。
ボンッ!!
煙の中から、巨大な九本尾の狐が現れた。
真っ赤な毛。鋭い牙。
そして何か妙に可愛い顔。
「あら、キュウビだわ?」
隣にいたリリベルが、思わず口に出した。
【[キュウビ]】
説明:元魔獣兵団幹部。九尾の魔物。賢く、戦闘能力もトップクラスだったが一時期から行方不明になった。
「なんであんなとこにいるのよ。」
「わふっ!」
しかもサトルにめちゃくちゃ懐いてる。
尻尾をぶんぶん振ってる。トップクラスの魔物の威厳どこ行った。
『おおっとぉ!! 携帯の勇者、いきなり魔獣兵団幹部を繰り出したァァァ!! タ・カートさん、これは!?』
『ええ。あのキュウビは本来、魔導師を三ケタは殺さないと手懐けられない代物ですが……サトルの能力、《モンスター・インポケット》によって、思考を強制的に書き換えられてますね。愛玩動物扱いです。ひどい話だ。』
一方。
武器の勇者ゴロウは、一歩も動かない。
ただ、静かに手を前に出した。
すると、空中に何十本もの剣が現れた。
『おおおおっとぉ!! 武器の勇者が大量の剣を出したァァァ!!
よく見るとあれは、歴史上の憎っくき剣聖アルガスの剣! 更には魔王軍幹部バルド様の斧まであるゥゥゥ!!』
『おお、よくご存知で。』
『実況者たるもの、知識は蓄えております!』
剣が一斉に飛ぶ。
ドドドドド!!
「わふっ!?」
キュウビが跳び回って避ける。
速い。
しかし、一本が尻尾を掠めた。
「ギャン!?」
「あっ」
美しい赤毛は、おそらく並大抵の武器を跳ね返すはず。
しかし伝説級の武器ならば掠っただけで傷をつける。
キュウビがキレた。
「グルルルルルルル!!」
「わー! まずい!」
サトルが慌てる。
キュウビは翻弄するような動きをやめ、ゴロウ目掛け超速で突っ込む。
ドゴォォ!!
地面が爆発した。
『おおっとォォ!! キュウビの突撃!! 闘技場の床が消し飛んだァァァ!!』
ゴロウが跳んでかわす。
空中で、今度は槍を出した。
槍はキュウビを避けるような軌道を描き、サトルへ一直線。
あれも歴史上の英雄の槍か? 動きが不思議だ。
だが。
「無駄だよ。守れ、[鏡の蓮華]!!」
サトルの後ろから、蓮の花を模した鏡のような、巨大な盾を持った女が現れる。
ゴロウの槍を弾き飛ばす。鉄壁の防御だ。
サトルはいつのまにか、もう一つキューブから出していたようだ。
『おおっとォォ!! 第二の魔物!! 防御型モンスター、鏡の蓮華だァァァ!!』
槍は変な軌道で、今度はゴロウを狙う。
どうやら[鏡の蓮華]はカウンター能力持ちだったようだ。
ゴロウが防御するその隙に、キュウビが背後から襲う。
ドガァ!!
「ぐっ……!」
初めて、ゴロウが膝をついた。
『おおっとォォ!! 武器の勇者、追い込まれたァァァ!!
キュウビと蓮華のコンビネーション! これは苦しいかァァァ!?』
『普通に二対一ですからね。片方だけダブルバトルは卑怯ですね。』
そんな実況は届いてないようで、サトルは得意げに笑った。
「どうだ! 俺の最強パーティだ! モンスターはまだあと四体残ってるぞ!
お前に勝ち目はない!」
……その時だった。
ゴロウが、静かに手を上げた。
その手の中には。
キューブ。
サトルが持っているのと同じ、召喚用のキューブだ。
「なっ!?」
サトルの顔が固まる。
「まさか……コピーしたのか!?」
『おおおおっとォォ!! 武器の勇者、携帯の勇者の道具をコピーしたァァァ!!』
これでキュウビが二匹にィィィ!?』
観客席がどよめく。
サトルも慌てる。
ゴロウがキューブを投げる。
「や、やばっ――」
全員がキューブに目を奪われるその瞬間。
ゴロウが消えた。
いや。走った。
速い。おそらく加速の魔道具を使っている。
一瞬で、サトルの目の前に。
「え」
混乱したサトルの懐に飛び込み、強烈な一撃を叩き込んだ。
サトルが吹き飛び、ダウンする。
一瞬の静寂の後、軽い音で床を転がるゴロウのキューブ。
『しょ……勝負あり! 勝者、ゴロウッ!!』
だが、俺は知っている。ステータスが教えてくれている。
『……解説のタ・カートです。
補足しておくと、ゴロウの能力でも『チート能力そのものから生成された道具』は完全にはコピーできません。
あれは、形だけ真似たただの鉄の箱です。
サトルが自分の能力を過信して、『自分の道具が奪われた』と錯覚したのが敗因ですね。』
『なるほどー! 心理戦だーっ!!』
歓声が上がる中、負けたサトルの足元の床が、不自然にパカリと開いた。
クイズ番組さながらの勢いで、サトルは暗黒の穴へと吸い込まれていく。
はい、ボッシュート。
穴の底では、腹を空かせた魔王軍の掃除屋たちが待ち構えている。
致命傷を負っていなかろうが関係ない。負けた勇者に用はないのだ。
気絶した勇者から指示がないので、助けてくれる可愛いモンスターももういない。
『あー……サトル選手、退場(物理)です。お疲れ様でした。さあ、興奮冷めやらぬまま第二試合へ参りましょう!!』




