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あつまれ 勇者の森

「……本当に偽物なのかい?」


 彩魔術団の研究棟、最奥にある隠し会議室。

 普段はシロ団長が実験データや失敗作を押し込んでいる物置部屋だが、今日だけは急遽会議室として機能している。

 テーブルの上には謎の薬品瓶と実験ノートが山積みになっており、座る場所を確保するのにひと苦労だった。


「本物だよシロ団長。ステータスでしっかり確認したからね。」


「えーー……マジかぁ……」


 雨合羽を着た黒い子供型魔術師、彩魔術団長のシロが頭を抱えながら椅子にもたれかかる。

 顔が真っ黒なので表情は読みにくいが、声のトーンで動揺しているのはわかった。

 俺は椅子にもたれながら答える。


「能力名はUSO認証(エイトハンドレッド)。魔力を込めて嘘を言うと、それが現実になる。

例えば、〈俺はドラゴンに勝った〉と言えば、本当に勝った事になる。

〈俺は不死身だ〉と言えば、不死身になる。

〈俺は魔王だ〉と言えば――」


「魔王様と入れ替わる。」


 リリベルが苦々しそうに言った。


「最悪じゃない。」


「最悪だな。」


 いやほんとに。

 応用が効きすぎるんだよこの能力。


「でも」


 団長が、魔法グローブの指を組む。


「無制限じゃないんだろう?」


「その通り。ただそこが逆に問題で、今までの異世界勇者と違って、慎重すぎるんだ。」


 俺は思い返す。

 玉座の上の、あの妙に偉そうな顔。


「あいつは、自分の能力の弱点を理解してる。

だから、一気に〈俺は神だ〉とか〈世界を滅ぼせる〉とかは言わない。」


 俺はステータス画面を開き、王の間で覗き見した偽りの勇者のステータスを表示する。


「なによこのバフの数!」


「こんな感じで、少しずつ、少しずつ、嘘を積み重ねてる。

例えば、〈剣が得意だ〉〈魔法も使える〉〈硬い〉〈強い〉。

そんな感じで、嘘を何十個も積み上げて、本物の魔王並みの強さになってるわけだ。」


「慎重ねえ……」


 リリベルが顔をしかめた。


「今までの異世界勇者って、もっと頭が弱かった記憶があるわ。

俺最強ー! って自信満々に突っ込んできて、だいたい死んでいたわね。」


「そうだよね。」


 団長が頷く。


「だからこそ厄介なんだよ。慎重な能力者ほど、強い。」


「しかも、魔王城の中にいる。」


「今倒そうとしても、あちらの方が有利でしょうね。」


 うん。分かってたけど。

 改めて言われると嫌だな。


「だから、別の手が必要だね。」


 団長は立ち上がると、本棚の奥から一冊の分厚い本を取り出した。

 埃まみれだ。

 明らかに長いこと放置されてた奴だ。


「これは昔、魔王様が封印された時の資料だよ。

初代勇者と、人間側が使ってきた封印術。」


「封印術?」


「うん。本来、魔王様ほどの存在は、倒すより封じる方が早い。

その術式が、まだどこかに残っているかもしれないね。」


「……それ、今でも使えるのか?」


「分からない。」


団長は真顔で言った。

いや、黒い顔で目が光ってるだけの種族だけど多分真顔。


「何せ、千年以上前の資料だからね。」


「おお……」


「でも、調べる価値はあるんじゃない?」


 団長は本を抱えたまま、奥の資料棚の方を見た。


「この件は、僕が調査するよ。

君たちは予定通り、異世界勇者の覇者……えっと、トーナメントの準備をしてね。」


「……分かった」


 俺は立ち上がる。

 結局、やる事は変わらない。


 異世界勇者を集める。

 そして、その中から一番強い奴を選ぶ。

 いや。

 選定される。

 ワンチャンその勇者が偽魔王を倒してしまっても構わないが。

 じゃあその勇者を誰が倒すのか……結構無茶な流れだったか?



◆◆◆



 数日後。俺はある大陸の街道沿いで、大きな樹の陰に潜んでいた。

 今の俺の格好は、怪しさ満点の黒いローブに、顔を完全に隠す不気味な仮面。


(うーん、これはどう見ても安っすい不審者。)


 鏡で見たが素人制作映画の悪役感がすごい。

 だが、魔王軍の参謀が素顔で勇者に接触するわけにはいかない。これは「謎の案内人」的な演出なのだ。


「来たわよ、タカト。ターゲットの勇者一行。」


 通信魔法でリリベルの声が届く。彼女は少し離れた場所で待機中だ。

 見れば、魔物退治を終えたばかりらしい、キラキラした鎧を着た勇者パーティーが歩いてくる。

 よし、いっちょやってやるか。


 俺はバサリとローブを翻し、彼らの前に音もなく(実際は足を挫きそうになりながら)飛び出した。


「待たれよ、選ばれし強者たちよ……!」


「うわっ!? なんだお前!?」


 勇者が剣を抜こうとするが、俺はわざとらしく仰々しいジェスチャーでそれを制した。


「怪しい者ではない。私は世界の均衡を見守る……まあ、そんな感じの者だ。貴殿のこれまでの活躍、実に見事であった。そこで提案がある。」


 俺は懐から、魔王軍謹製の禍々しい招待状を取り出した。


「近々、魔王の主催により、世界最強を決める『勇者トーナメント』が開催される。

優勝賞品は……魔王との直接対決、および勝利した際の全領土の解放だ。貴殿のような英雄こそ、参加するに相応しい。」


「魔王と直接戦える……だと?」


 勇者の目が輝いた。

 あ、これ釣れたわ。やっぱり「最強」とか「トーナメント」ってワード、こいつら大好きだよな。


 実際な。チート能力を惜しみなく披露出来るのは、そこらの雑魚魔物じゃだめなんだよ。

 ある程度強い奴と大義名分あって戦った上で披露するのがカッコいい。

 その辺はわからんでもない。


「……ふん、面白い。魔王自ら首を洗って待っているというなら、行ってやろうじゃないか。

その大会、私が優勝して終わらせてやるよ!」


 おお。言ったな。

 すげえ主人公っぽい事言った。

 いやでも、こういう奴が一番最初に負けるんだよな。


 こうして俺とリリベルは、世界各国の目撃情報を元に勇者へコンタクトを取りに行った。

 結局集まったのは8人。

 王都で団結してる奴らは呼べないし、目撃情報があっても見つけられない奴もいた。

 んー少ないけどまあ偶数になっただけマシか。

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