拾い主
目が覚めると、其処には粗末な木の天井だけが見えた。
「知らない天井だ・・・・」
僕はゆっくり頭を振って頭を覚醒させようとする。
ここは何処だろう?
僕の部屋じゃなし。
教室でも医務室でもない。
寝ている間に可笑しな夢を見た。
ゆっくりと立ち上がった。まだ、頭がふらつく。気持ち悪い。
出口と思われる扉へと進む。
少しだけドキドキした。なんだか、とんでもないことに巻き込まれた気がしたから。
僕は扉を開けた先でムキムキの兵士に出会った。
彼はケイといった。純朴そうな男だった。
「お、起きたか。此処がどこか分かっているのか?」
夢ではなかったのだなということだけが分かった。
それ以外のことはさっぱりわからなかったけれど、助けてもらったことははっきりとわかった。
「助けていただきありがとうございました。申し訳ありませんがここが何処だか皆目分かりません。教えていただけませんか?」
男は一度頷いた。
「いいだろう。教えてやる。ここはスペルタクム。砂上の都市国家さ」
都市国家。これは世界史でやった。たしか民主主義がはじまったのだったか?しかし、それは随分昔のはず。バチカンのようなものだろうか?
「都市国家ですか。あの、ここは何処の大陸に存在するのですか?」
とりあえず、日本ではない。誘拐されてしまったのか。
「大陸?確かにほかにも海の向こうにはあるらしいがおれは知らんな」
「そうですか。では、日本という国には聞き覚えがありませんか?」
日本は色々な国に支援しているし、世界3位の経済大国だ。知っていたっておかしくはない。
「知らないなあ。君はそこから来たのかい?」
「はい。知らぬ間にここに」
「人さらいかなあ」
やはり、人さらいがいるのか。ソマリアか、北朝鮮みたいな国なのだろうか。
「分かりません。一体どうしたら・・・・。どうやって生きて行けばいいのか、分かりません。そういえば、連れが二人いたのですが知りませんか?」
ケイは頷いた。
「ああ、あの二人なら先に起きて職業斡旋所にいったよ。もう面接とかしてたらいいのだけれど、身寄りもないから難しいだろうね」
信頼がないのだろうなぁ。江戸時代でもやはり身元が不確かなものはなかなか安定した職種につくのは難しかったと聞く。
そのような者はその日暮らしの日雇い労働者になったと聞くが僕らもそうなってしまうのだろうか。
「僕も職業斡旋所へ行ってもよろしいですか?」
「ああ、構わないとも。その前にドーター様に挨拶していくがいい。彼女がお前を助けることを決めたのだから」
僕はそういわれ、ケイに案内され大きな宿の前に立った。
最初僕がいたのは馬車を止めておく町の本当に隅の空き地だったが今たっているそこは辺り一面に宿屋が連ねるところであった。
中に入ると上品に花が飾って会ったり、少し暗めの中に細工の凝ったランプがおいてあったりと高級感が漂う。
「タロウよ。これから会うのはケインズ家の長女ドーター様だ。くれぐれも失礼のないようにな」
「分かりましたケイさん」
ドアをノックすると中から入ってもいいという旨が伝えられたので僕とケイは中に入った。
「失礼します。このたびは助けていただき感謝いたします。この御恩は何時か必ずお返しいたします」
入るなり緊張から一息で言ってしまった。
言った後に相手の顔を見た。
赤毛で純朴そうな少女であった。
高飛車という言葉からは最も遠いような少女で、様付けされているようには見えない。
「おい、膝をつけ」
そういわれ隣をみるとケイが膝をつけていた。僕も慌てて片膝を付けた。
「失礼しました。このたびは誠にありがとうございました」
僕は改めて彼女に礼を言った。
彼女はにっこり笑って、邪気もなくただ純粋に。
「いいえ。困った時はお互いさまよ。気にしないで」
そう言ってくれた。
「そういえば貴方異国の人なのよね。この辺りの人種ではないように見えるわ」
「ええ。東方の島国日本の生まれです。ご存じありませんか?」
「知らないわね。そもそも、大陸の外の事なんてあまり知りませんもの」
彼女は気さくに話してくれた。ともすれば、昔なじみのように感じるほどに。
笑顔が絶えない人だと思った。笑顔が綺麗な人だと思った。
顔立ちは然程ではないけれど素晴らしい女性であり、美しい人だと少し話しただけで確信した。
「そういえば、まだ自己紹介がお互いまだでしたね。私は花と水の国のケリーの娘ドータ。貴方は?」
「私は日本国出身太郎です。よろしくお願いします」
彼女は大きく頷いた。
「ええ、よろしく太郎。今度あなたのお国のお話し聞かせてね」
「はい。勿論ですとも」
「あなたはこれから斡旋所へ?」
「はい。帰り方が分からないので何とかこの国で生きるすべを見つけたいのです」
「そうですか。頑張ってくださいね。そういえば、こちらをお返しいたしますわ。変わった剣ですね。我が国の幅広の剣とは全然違います」
「我が国の伝統的な武器です。祭事や儀礼的意味もあるものですが実践でも十分以上の力があるでしょう」
彼女は立てかけてあったあった流星刀を持って渡してくれた。
「とても良い品だと思います。お仕事探し頑張ってくださいね」
「はい。頑張ります」
僕は大きな声で返した。
僕とケイはその場を辞して、元の場所まで戻る。
辺りの人通りは少し減っていた。暑い時間帯だからだろう。
「タロウよ。おぬしどのような仕事につきたいと思っておるのだ?」
ケイは少し心配そうな顔で聞いてきた。
そこで僕はぼんやりと考えてきたことをこの兵士に話す。
「僕には碌な技能もないけれど力なら其れなりにあるので荷運びか、清掃員にでもなろうかと考えております」
ケイは少しだけほっとした顔で頷いた。
「できれば荷運びの仕事につくのが良いと思う。俺ぁてっきり剣闘士にでもなるかと思っちまったぜ。持ち物も剣だけだしな」
「そんな、怖そうな仕事つかないですよ。僕は平和に暮らしたいのです」
ケイは大きな笑い声をあげてあっちだぞと斡旋所の方向を指してくれた。
僕は礼を言って駆けだす。
道行く人に、道を尋ねつつ斡旋所を目指す。
おそらくは日本の職業安定所、略して職安と同じ感じなのだろう。
いずれ日本に帰るとしたって先立つものは必要であるし、それまで生き延びねばならない。
だから、安定していてそれなりに高所得な職業につかなくちゃいけない。
しかし、僕には身元を示すものがないので難しいかもしれない。
そんなことを考えながら急ぎつつ、辺りの人々の服装を確かめる。
Tシャツなど着ている人などおらず、下半身は布の生地のズボン、上半身はシャツ状だがかなり雑であった。女性はワンピースのような上下一体の服装である。
皆一様に明るい表情で、商売に励んでいた。
また、買い物していた。
かつて習った際には労働は苦役であるとした都市国家もあったというからこの都市は随分まともであり、栄えていることが分かった。
斡旋所は大通りから少し入ったところにあり、あまり盛況ではなかった。
なので、早苗と洋一を見つけだすのはそれほど難しくはなかった。
「洋一先輩、早苗ちゃん置いていくなんてひどいじゃないか。仕事は見つかった?」
早苗ちゃんと洋一の顔をよく見ずに言ったことを後悔した。
周りと服装が違うこともありすぐに見つけ声を掛けたのは失敗だったかもしれない。
二人とも焦燥を隠しきれておらず、洋一の顔には怒りが顔を見せていた。
「よう、太郎。おはよう。寝坊助さんだなあ。俺たちも早く仕事見つけないと危ないと思ったしなにか動いてないと潰れてしまいそうだったからなあ。許してくれ」
「ああ。分かったよ、洋一先輩。俺も何か探してみる」
「無駄だよ。太郎。俺たちに回ってくる仕事なんかない」
やってみなくちゃ分からない。
そう思って彼らの前に居る男に声を掛けた。
「すみません。仕事を探しているのですが?力仕事でも清掃の仕事でも構いません。なにかありませんか?」
男は面倒くさそうに耳をかいて、欠伸をしてから言った。
「悪いがお前も後ろの二人と一緒の口だろう?此処の市民権も保証人もいないのだろう?ならばここから職業を斡旋できるものは限られるし、お前の言った職業は斡旋することはできない。娘っ子を娼館ででも働かせるのだな」
洋一が怒っていた理由が分かった。
僕も視野がキュウと狭まるくらい気が立ったが、無理矢理笑顔を作った。
「ならば何か斡旋できる職種で何でも良いのです。何か仕事をください」
男はふうとため息を吐いたのち、視線を僕の腰の位置で止めた。
どうしたのだろうと思っていると男が口を開いた。
「その剣は使えるのか?」
「ええ、ある程度は。それがなにか?」
男はニヤリと笑って言う。
「荷運びと護衛二つそろっての仕事があるぞ。短期雇用だが構わないか?」
少し迷う。闘うことになるかもしれない。しかし、このままではみな乃垂れ死ぬ。
「やります。やらせてください」
「決まりだ。頑張れよ」
そういって書類を作成し始めた。
「あの僕は何をすればいいのですか?」
男は面倒くさそうに明日の朝5時ごろ此処の前に来いといった。しかも一人。契約上そうなっているそうだ。
それで説明は終わりだった。




