目が覚めるとそこは
目が覚めるとそこは異国であった。
いや、異国であるのかすら分からなかった。
何となれば、其処は、そこには何にもないのだ。
あるのは砂山。例えるなら、大きな公園の砂場。
そこに僕と早苗ちゃんと大山洋一は立っていた。
僕の視界が回った。あまりに広い空間に目が回る。
おそらく、それだけではなく、混乱によるところも大きい。
「おい、太郎。ここはどこだ?」
洋一は僕に問うた。
おそらく、僕が応えられるとは一ミクロンたりとも考えてはおるまい。
「いや、すまない。僕にも分らない」
「使えない奴」
洋一はそう言って、早苗に手を差し伸べた。
「さっちゃん。大丈夫?立てる?」
「大丈夫だよ。洋一君。ちょっとびっくりしただけ」
「そうかい。きつかったらいつでも俺に言えよ。何とかしてやっからよ!」
洋一はそういって笑った。こういう所はさすがだ。締めるところを分かっている。
「おい、太郎ぼさっとするなよ。とりあえず、そのへんの様子見て来いよ」
「ああ、分かったよ」
僕は慣れない砂山に果敢に挑んだ。
砂はよく滑って上手く進めない。雪よりはましだがそれでも苦しかった。
さらに今は通学用の靴であって、長靴ではない。太陽光に熱された砂が僕の足首を襲う。
「早くしろよ太郎。さっちゃんが熱射病になっちまう」
ここはひどく暑かった。45度は軽く超えているだろうと思う。
僕も早くしたかったが砂に足をとられて上手く進めなかった。何とか砂山の天辺に行って辺りを確認しなければと進が進むたび砂に押し流せれた。
他に何か策があるはずだ。
いや、なかった。とにかく登らねばならない。山の中腹辺りまで行った後、漸く靴を脱ぐことにした。
サソリがいた際とても怖いが、足首より下まで砂に埋もれてしまっては大して違いもなかろうと、自分に言い聞かせる。
少しずつ登る。
「がんばってー、太郎。もう少しだよ」
早苗ちゃんが応援してくれている。
それだけで、疲れが見え始めていた四肢に力が戻る。
頂上に着いて辺りを見渡すと、遠くに町が見えた。
納豆一粒と同じくらいに見えるそのちっぽけなそれは間違いなく町のはずである。
僕は、背後の二人に其れを伝えるために声を張る。
「向うに町が見えるぞ!」
それを聴いた洋一はホッと息を吐いた。
それに気づいたわけではないけれど、大凡洋一の行動は読める。
「おい、太郎。お前の正面に向かえば良いのだな?」
「ああ」
洋一は早苗の手を引いて歩き出す。
僕も砂山を降りる。
何度もコケて転がりながら、降りてゆく。
痛みはなく、存外楽しい。
しかし、そんな中頭部に痛みが走った。
砂に手を突っ込んで無理矢理に止まって、その頭部に当たった物体を見た。
そこにあったのは一本の日本刀であった。
それを僕は知っていた。
何度も見たことがあった。
当然である。
その柄の皮は僕が巻いたのだ。
忘れる分けがなかった。
「何故、ここに流星刀が」
刀の銘は流星。流れ星より産出された鉄より打たれし名刀の内の一。
それは僕の部屋の鹿の角に掛けてあったはずなのに。
僕は流星刀を左手で持ちあげるとサッと抜刀した。
曇り一つない刀身が現れた。
良かった。傷はついていない。
どうして、あったのか分からないけれど取り敢えず、あたりを見渡すと砥石と布も落ちていた。
普段それを使って僕はこの刀の手入れを行っているのであったのはありがたいと思った。
そのまま、刀を腰にさせる分けもなく、右手に下げ筒の状態、すなわち腰下までだらりと下して持った。
そのあと、ゆっくりと砂山を降りる。
ずざずざ、音をたてて降りてゆく。
下まで降りるとそこには二人がこちらに向かってきているところだった。
「太郎よくやった。ほめて遣わす」
「なんのロールプレイですか、洋一君」
二人は汗だくでやってきた。気付いていなかったが僕も汗だくであった。
「太郎、その右手にあるのって・・・?」
早苗ちゃんは気付いてくれたようだ。
「流星刀だろ?」
大山先輩はそういった。
「分かりましたか?大山先輩。もう何年も見ていられないでしょうに」
「そう簡単に忘れるものかよ。その刀は元は俺のものなのだから」
そう大山先輩は言った。
「返しましょうか?大山先輩。本来の持ち主は大山家の長子たるあなたのものなのだから」
大山先輩は首を横に振った。
「もう俺のものにはなりえないだろうよ。俺は逃げちまったからなぁ。そんなことよりも、早くいこう。町は遠く、食料も水もないのだから」
その一言ののち僕らは出発した。町までは4,5キロどころではなく距離があるけれど、大丈夫なのだろうか?
足元は砂でコンクリートの上を歩くよりもずっと体力を消耗する。
早苗ちゃんは既に苦しそうだ。
「早苗ちゃん、苦しかったら言うんだぜ。俺がおぶってやるから。なあ、太郎お前もおぶってやろう。俺は強いんだぜ」
そう言った、洋一は汗をだらだら垂らしていた。彼も苦しいのは変わらない。やせ我慢だということは分かる。
「なんのこれしき。並大抵のことでは僕を止めることはできないぞ」
苦しい時はやせ我慢だろうとカラ元気だろうと何でもいいから気持ちを高めないといけない。そういうことは、洋一からしっかり教えてもらった。
「私も大丈夫よ。あと、100キロは余裕のよっちゃんよ」
みんなで、やせ我慢していたけれどやはり何事にも限界がある。
100分以上の時間が過ぎたと感じるころには皆の口数は極端に減っており、足元もおぼつかない。
「早苗ちゃん。大丈夫?背負おうか?」
僕がそういうと彼女立ち止まっては無理矢理笑った。
「大丈夫・・よ」
また歩き始めようとした早苗ちゃんはしかし、転んでしまった。
無理をしているのは一目瞭然であったので僕は彼女を抱き上げて進んだ。
なかなかずっしりと両の腕に重さが掛かるけれどおそらく僕よりかは10キロ以上軽いはずであり、普段の僕なら彼女が三人いたとしても持ちあげるのはたやすかったろうと思われる。
「おい、太郎大丈夫なのか?」
「これくらい楽勝さ。早苗ちゃん軽いし」
「馬鹿野郎。お前じゃねえよ。早苗ちゃんだ。熱中症じゃねえのか?」
確かにそうだ。早苗ちゃんは意識がもうろうとしているみたいだし、相当に危ない状況にあると思われた。
「そうかもしれない。だけど、休ませてあげられるところがないよ。洋一先輩、どうすればいい。一体どうすれば」
分からず思わずパニックに陥ってしまった。
洋一に当たるように叫んでしまったことに気付かぬうちに、洋一は静かに話す。
「仕方ないだろう。一刻も早く町に向かうしかない。走るぞ。着いてこい」
「わかったよ。洋一先輩」
疲れたからだを引きずって走り出す。
鉛のように重たい体を必死に動かす。早苗ちゃんを支えつつ刀を持っている右腕はなかなかにしびれてくる。
足が砂にとられ、何度も転倒しそうになるけれど、僕の腕の中には早苗がいる。倒れるわけにはいかないと無理矢理態勢をその度に立て直す。
そうしているうちにフッと意識が無くなる瞬間が出来始めた。
一瞬意識が遠くなりその後また戻る。
そんな状態の中走り続けたけれど、どうやら限界のようだ。
「すみません、洋一先輩。僕はここまでのようです。早苗ちゃんをよろしくお願いします」
身が裂ける思いだった。早苗ちゃんの危機を救うのは僕でありたかったけれど、どうやらそんなことを言っていられるほどあまくはなかった。
「ああ、分かった。さあ、こちらに早苗ちゃんを渡してくれ」
僕は残った力を総動員して慎重に洋一に早苗ちゃんを手渡した。
「お願いします。洋一先輩。早苗ちゃんを・・・・」
「任せろ。お前も少し休んだら早く来るんだ」
「分かりました。さあ、行ってください」
洋一が駆けて行くのを見ながら僕は意識を手放した。
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