全国大会にいきたい
朝の日差しを浴びて、1日が始まる。
日本海側では晴れの日は貴重であるから、こんなに気持ちのいい朝の始まりは久し振りである。
顔を洗って、最低限の身形を整えると僕は庭へ出た。
早朝の空気は澄んでいて、よく研がれた刃物のように僕の肌の上を撫でてゆく。
大きく息を吸い込んで、それを体内にいれる。
身体の中に溜まっていた、欝屈とした嫌な空気が一新される。
さぁ、新しい1日を始めよう。
トレードマークの坊主頭を拭きながら、神山 太郎は考える。
どうして、朝から夫婦喧嘩をするのだろうか。
何故、そんな考えを起こしたのか、それは必定なのだった
我が父母が言い争いをしている。
下らないことだ。
どうせ、仕様もないことから言い争いになったに違いないのである。
僕は朝食を取り終えていたこともあり、早い時間ながら学校へと行くことにした。
触らぬ神に祟りなし。
関わらないのが一番いいのだ。
家を出る際に、父母は僕の教育の失敗した責任を互いに押し付けあっていた。
僕は學校へと向かった。
學校へと自転車を転がして行く。
しゃーしゃーと車輪は廻り。
目に映る風景は流れて行く。
どうして、争うのだろう。
僕は毎度決まった問いを自分自身に問いかける。
誰だって争いたくないのではという性善説に沿った希望を抱いた時期もあったが、それでは真の答えはでなかった。
分からない。解せぬ。争わない選択肢があればそちらを選択すればよいのに、我が父母を見れば分かるように下らないことでさえ争う。
昔からの問いだ。幼い頃からの。
そうして、ぼんやり自転車をこいていると一人見知った顔のものが此方に手を振っていた。
それは女の子で、優しそうな、それでいて確りしていそうな、可愛らしい少女だった。
「太郎❗おはよう」
「うん。おはよう。今朝も早いね。早苗ちゃんは」
「まぁね。それは太郎もおんなじだけどね」
早苗は腰まで伸ばした艶のある黒髪をポニーテールにして、笑顔で言った。
「部活?」
と僕。
「そっ。マネージャーだからね」
これは早苗。
「太郎も部活でしょ」
「そうだけど、自主練みたいなものだもの。大変じゃないよ」
そう僕がいうと早苗ちゃんはにっこり笑った。
「太郎は頑張っていると思うよ」
「そうかな」
「そうよ」
僕は自転車を降りて彼女と並んで歩いた。
「なぁ、ちょっと聞きたいんだけれど、この間野球部の先輩に会ったじゃん」
そう僕が言うと、早苗ちゃんは少し顔をしかめた。
「そうだね。会ったね」
「大丈夫だったの?」
「なにが?」
早苗ちゃんは珍しくイライラしているようだったので、この話題からは速やかに撤退するべきだと思った。
「いや、なんでもない」
「そう」
そう言って早苗ちゃんは俯いてしまった。
僕は彼女に聞きたかったのだ。
僕の買い物に付き合ってくれた彼女は運悪く部活の男の先輩と鉢合わせしてしまったことで何かしら不都合が合ったのではないかと言うことを。
彼女とその先輩が付き合っているという話はとうに僕の耳にも入っていたのだから。
「太郎。もっと頑張れ。日本で一等強い剣士になって!太郎なら、太郎ならなれるよ」
早苗ちゃんは無理に笑顔を取り繕って僕に言った。
彼女もこの空気をどうにかしたかったのだろう。それにしてもなんの脈絡もない。
「勿論さ。絶対になってみせる」
そう僕が言うと彼女はニッコリ、本物の笑みを浮かべてくれた。
彼女と話ながら歩いていたので結局学校に着いたのはいつもと同じ時間になった。大凡6時半。
「それじゃあ、太郎。またクラスでね!」
「うん。早苗ちゃん」
道場に向かう。
基本的には僕一人道場で掃除してから基本稽古を行っていた。
雑巾がけ、道場の顔たる玄関を掃き掃除し、前日先生が稽古付けてくださったのならばその干してあった袴を畳む。
そののち、素振り。打ち込み台に向かって打突練習。
「めん。めん」
声が一つ木霊する。
強くなりたい。
強くなりたいと思った。
手にした素振り用の木刀がずっしりと手のひらの中にあった。
絶対にインターハイに。個人でも団体でもいい。とにかくあの全国のひのき舞台で僕は、勝ちたい。




