36話 虎牢関の戦い・後編
36章 虎牢関の戦い 後編
「本当にこんなので大丈夫なのか……?」
白んできた空を眺めながら一人呟く。
華琳に言われた通り、一人で虎牢関の門前までやって来たものの、正直言ってここまで来るのが時雨の計画より早すぎる、計画を狂わせてしまったらどうなるかわからないので、かなり不安だったりする。
とはいっても自分ひとりしかいないのだから、さして支障が出るとも思えないのだけれど……。
本当なら俺も夜襲を受けた後の事後処理等をしないといけないのだが、時雨の計画通りに進んでいる現状、曹操軍には目立った被害がない。それどころか張遼とその部下も仲間に加え、作業といえば曹操軍の中にどう組み入れるかといった話になる。
そういった事は桂花がやればいいと言われ、俺は一人虎牢関の前まで来させられたわけだ。
俺が思うにここに一人できても意味がないと思うんだよな、曹操の策を疑う訳ではないけれど、やっぱり俺が此処に来たことに何の意味があるのか分からない。
華琳が言うにはすぐに大軍が付いて来るということだったが、あの袁紹にどうやって話をつけるかが想像出来ない。
総大将である袁紹はただでさえ暴走して、莫大な被害を出した挙句、今は茫然自失となって行動不能になっているらしい。計画通りに行くかどうかも定かではないと言うのに、俺が門前に来たぐらいですんなり行軍してくれるとは思えない。
時雨の今まで仕掛けてきた罠も考慮すれば尚さらだ。
まぁ、既に落とし穴と言う落とし穴は全て袁紹が嵌ったりして処理されてしまって、後は時雨が能動的に動くことによって作動する罠ぐらいしか、脅威と思える脅威は無かったりするので、今は問題ないというか、攻め放題だったりする訳なのだけれど。
大体、俺が一人で虎牢関の前に立っていられるのも、ひとえに虎牢関に誰もいないからできることである。
「どうしたもんかな……」
わずかばかり顔をのぞかせた太陽を見ながらため息を吐いて、華琳達のいる場所へと視線を送った。
一刀が虎牢関に向かわせた後、私は一人袁紹軍の陣へと赴いた。
「あら、華琳さん。一体どうしたのかしら?」
報告で袁紹は茫然自失の状態と聞いていたのだけれど、どちらかと言えば赤くなったり、ニヤニヤしていたりと忙しく、元気な様子だった。
私が来たことで元気になったのかは分からないけれど、恐らく夜襲で私の軍が被害を受けたと思っているのだろう、思いっきりニヤニヤしてきた。
少しは自分のおかれている状況を正確に把握したほうがいいとは思うのだけれど、わざわざそんなお節介を焼いてやる義理もない、どの道この戦が終われば戦乱の時代へと突入し、敵同士になるのだ。
無能なのに人に好かれるのが腹立たしいけれど、今回はソレを利用するしかない。私と同じ趣味で邪魔してくるのも苛立たしいけれど、せいぜい有効活用させてもらうとする。
「実は……」
私は私らしからぬしおらしさで袁紹を見つめ、か細い声を出す。いかにもこの女が好きそうな女を演出してみせる。この女は何かと色目で私を見ていたし、恐らく成功するはずだ。
「な、なにかしら?」
(な、なんですのこの可愛らしさは、華琳さんあなたまさか……。いやでも、私にはもう心に決めた方が……、けれど三人で、というのもいいですわね、ウフフ)
私がやった事の重大さを知らしめるための演技は上手く行ったらしく、だらしない顔をし始める袁紹をみて、私は爆弾を投下する。
「一刀が一人で虎牢関に向かってしまったの……」
私の一言で勘違いをして浮かれていた袁紹は、冷や水を浴びせられたように一瞬にして真顔になった。私の計画では演技でのぼせ上がった袁紹に、好意を抱いているはずの一刀の存在をちらつかせて混乱させ、進軍を提案させるはずだったのだけれど、思った以上に一刀を好いているようだ。
袁紹らしいともいえる惚れ易さだけれど、これならば私がわざわざ演技する必要もなかったと、内心の疲れを色濃くしながら私は演技を続ける。こうなった以上続けるしかない。
「なんですって?」
「だから一刀が一人で紀霊のいる虎牢関に突っ込んでいってしまったの……」
(まさか一刀様が一人で! そんな……、もしかして私を危険にさらさない為にそんなことを……。けれど一刀様だけに危険は犯させはしないわ)
「私の軍は夜襲で被害を受けてすぐには動けないの……」
私はあえて助けてとは明言しない。そんなことをすれば何を請求されるかわかったものではない、それよりは自主的に行動させるほうが幾分かマシになる。
そういう理由から私は袁紹からうまく言葉を引き出そうと思っていたのだけれど、どうやらその必要もないらしい。
「私が参りますわ!」
袁紹の決断は私が思っていたほどずっと早く、袁紹の一刀への想いはより深かったようで、すぐさま出撃の準備を始めてしまう。恋は人の目を曇らせてしまうが、まさかいつも女の子の目を曇らせていたこの女がこうなってしまうとは、思いもよらなかった。
「猪々子! 斗詩! 準備しなさい。一刀様を手助けするため華麗に進軍しますわよ」
そう力強く言い張った所で、そんなこと普通に考えれば出来るはずもない。
「ぇ、でも紀霊さんの所には罠がいくつも……」
「うるさいですわ。そんなもの構う余裕なんてありませんの!」
まったくもって正論を言い張る斗詩の言葉を、袁紹は一蹴する。
「そ、そんなこといっても麗羽様。夜襲に会ったため同盟軍がちゃんと動くかどうかも……」
慌てて引き止める斗詩の肩に猪々子が手を置く。
「斗詩……。あたいに任せな」
「猪々子……」
自信満々なその文醜の顔をみても顔良はまったく安心することが出来なかったようで、不安が色濃く顔に浮かんでいる。本当にご愁傷様としか思えない、こんな有能な部下を無駄にしているなんて、相変わらずのようだ。
「あたいが気合でなんとかする!」
「もぅ……」
「そろそろいいかしら?」
一通りいつものやりとりをした後で口を挟む。
「一刀の救出のために私が軍を率いていきたかったのだけれど……、麗羽がそういうなら私に残った軍の事は任せて」
「あら? それはいいですわね。頼みましたよ華琳さん」
「早く行ってあげれば一刀も喜ぶと思うわ」
最後の駄目押しの一言で袁紹はこれまでにないほどの迅速な対応で進軍の準備をしていく。
私は計画していた以上の進展を見ながら一人微笑む。
(時雨、私は欲しいものはどんなことをしてでも手に入れるのよ……)
これまでは計画通りにことが運んでいるが、ここから計画の全容を知る華琳がどう出るかわからない為、虎牢関に戻った俺は時間を無駄にすることを避け、早速部下に指示して一番広い部屋にかごめ達を集めさせた。
「悪い知らせが二つある」
集まった皆の顔が一瞬で強張るのがわかる。
「まずひとつ、夜襲で張遼が曹操軍に捕縛された。」
「な、なんだと!?」
夜襲に参加していた綾が驚かなかったことはわかるが、居残り組みで驚いたのが華雄だけだったのはさすがに予想外だ。
「なぜだ! なぜ助けてこなかった!」
予想通り、華雄は激怒してきた。ただ周りの者は思ったより冷静だった様で、早速意見を交し合う。
「華雄、霞はきっと無事……」
「恋殿のいう通りなのです! 時雨が仲間の無事を確認せずにくるわけがないのです」
恋と音々からこれほど信頼されているとは思わなかった、少し申し訳ない。けれどこの計画を変更する訳にもいかない。
「そ、そうはいうが無事でも敵の中だぞ!」
「張遼は無事だが、曹操に降ったようだ」
「「!」」
張遼が敵になったという一言が、空気を重くする。
「だが霞のことだ、恐らく俺達のへの攻めには参加しないだろう」
「……です」
「む、確かにその通りかむしれぬが……、しかしだな!」
「まぁまぁ、無事だったからそれでいいじゃん」
「話……まだ、ある」
他の者達と違ってなかなか落ち着かない華雄を、綾がなだめにかかり、隙を見てかごめが先を促す。
「もうひとつの件は既に対策を始めていが、時間がない。簡潔に言わせてもらうが月と詠が危ない、霞の事も気がかりだが、今は関わるだけの余裕がない。生憎俺の部下だけでは心許無い。直ちに虎牢関を発ち、洛陽へ向かう」
さきほどよりもずっと重い空気が辺りを押しつぶしていく。無理もない、月と詠の元に集まっているメンバーなのだ、主である者が危機に晒されているというのだから、平静でいられるはずもない。
「間に合うのですか!」
「もちろん間に合わせる。そうでなければ出立の準備などしていない。お前達も急げ」
「ならば早く行くぞ」
さきほどまで怒っていた華雄はそういうとすぐさま出て行った。以前であれば何時までも起こっていただろうが、最近では切り替えられるぐらいには成長してきている。
「ん、行く」
「恋殿、私たちも行くのです」
恋と音々も頷き、華雄の後に続いて出て行く。
「時雨……」
「なんだ?」
なにかを感じ取ったのだろうか、綾とかごめが何かいいたげな瞳を向けてくる。けれどそれに答えることは出来ない。
「綾、かごめ。皆に各々が向かう場所を教えてきて欲しい。そうじゃなきゃ完璧に詠と月は助けられないからな……」
「わかった……」
黙々と出て行く二人を眺めながら思いを新たにする。二人にはつらいかもしれないがこれも必要なことなのだ
「紀霊隊長」
いつの間にか後ろに控えていたあっちゃんが一刀が一人で向かって来ているという報告を持ってくる
「なるほど……、どうやってかはよくわからんが一刀を利用して動かすのか。果たしてどこまで早くこれるかな?」
まぁ、一刀に渡した計画は一部間違っている。
とても重要なことが抜けている。
遅くても速くても結果は変わらないようになっているのだ。ただ欲を言えば楽をしたいから早く来てくれると助かるかもしれない
「ほうっておいても構わないよ。それよりも早くここを発つよ」
「っは!」
返事をした後すぐにあっちゃんの気配が消える。成長してるな……、なんてしみじみ思ってみる。
思えばここにくるまで早かったなんて事は事が終わってから考えればいいか
そんなことを思いながら自らも出立の準備へと取り掛かる。そういえば死体もいくつか見繕わなくちゃいけない……。
はぁ、計画したのはいいけどここまで来ると作業するのが気が重い、本当に気が狂わなければいいけど
そんなよくわからないことを考えつつ準備は順調に終わり、董卓軍は洛陽を目指して出立したのだった。
袁紹軍が董卓軍に突っ込むと聞いて他の陣営は呆れ半分、その勢いをどう利用しようかと画策していた、もちろんこちらも遅れを取るわけにはいかないから策を立てていたのだけれど、雪蓮がやってきたかと思うと、とんでもないことを口にした。
「もう一度戦いたいわ、あの紀霊とかいうのと」
ため息をつきながらこめかみを抑え、董卓討伐へ来てからの事を振り返る。そしてため息をついてばかりの気がしてさらに陰鬱な気持ちになりつつも、どうにか持ち直して論破して大人しくさせようと口を開く。
「蓮華も見たと思うけれど、あの罠の中進軍するだけでも厳しいというのに、袁紹に付き合って犬死でもする気なの?」
「冥琳、心配しなくても私の勘が平気だって言ってる」
再度ため息をつき、頭を軽く振る。雪蓮の勘は恐ろしく当たるのは知っている、けれど軍師としては勘便りで進軍するなんて暴挙は行えるはずもないし、それを素直に聞き届けて行動しているだけなら私の存在価値などないに等しい。
とはいえこれまでも雪蓮の勘に助けられてきたこともあるのだ。重要な局面、しかも方策が中々思い浮かばない現状だからこそ、雪蓮の意見に従って進軍する価値はあると思う。
だからといってそのまま進軍することは考えられない。どうしたものか……。
「なんだ、いいではないか。袁紹が罠をつぶしていった先跡をついてゆけば」
新たにやってきた人物を見て、さらに頭を抱えたくなった。呉の宿将黄蓋、孫策ともっとも組ませてはいけない人物が、一番きて欲しくないタイミングで来てしまった。
単純明快に物事を見る目はいいけれど、実際それを考え、実行する側のみにもなってもらいたいものだ。諸国との利害関係を考えるのなら無闇やたらと動くのは避けたい。とはいえ曹操が袁紹に対して何らかの接触を持っているのは報告を受けている。
だからといって本来ここで動くのは早すぎるといっても過言ではないのだ。けれどそれを素直に聞いてくれる者たちではないことは百も承知だ。本当に手のつけられない暴れん坊たちだが、なぜか憎めないのが困りものである。
「ねぇ……、お願いよ。私もう一度戦いたいの」
そういって雪蓮が肩によりかかって耳元で囁いてくる。全く、本当にどうしようもない。
「はぁ、わかったから離れて。貴方の為ではなく、呉の未来の為に準備に取り掛かりましょう」
「ありがと、冥琳。好きよ」
的確に私の心を揺さぶってくるのだから、本当に雪蓮には手がつけられない。でも……、悪い気分ではない。
「そう、それじゃあ雪蓮に準備は任せるわ」
「ぇっ、ちょっと冥琳。貴方がやってくれるんじゃないの!?」
とはいえちょっとした悪戯は許してもらはなくては、毎度迷惑をかけられているのだからコレぐらいは許されるはずだ。
「言い出したのは雪蓮ですから……、そこっ! 逃げたら当分の酒はないものと思ってもらいますが、いいですか?」
「うっ」
黄蓋が扉に向かおうとする足を静止さえ、おっかなびっくりしながらこちらを振り返る様を見て、満足げに微笑みながら発言した責任を取らせることに心の中で決めた。
「それはちと酷じゃないかのう?」
「仕事をしない者に与える物はない。これは当然のことだと思ったが、我らが黄蓋殿は納得できないと?」
笑顔を浮かべながらにじりよる私に何を感じたのかはわからないけれど、黄蓋は即座に応じて引きつった笑みを浮かべる。
「はっはっは、わしに任せておけば大丈夫じゃ」
「それじゃあ私は他にもやることがあるので」
そういって地面に伏せる孫策とため息をつく黄蓋を放って部屋を出て行く。
任せたとは言ったものの、きっと途中で仕事を放り投げるに違いない。これだけは雪蓮の勘にもひけを取らないほど確実なものだろう。
「ふふっ」
また苦労させられるというのに自然に笑みが出てしまう。まったく自分にも困ったものだと思う
さて、まずは穏を探し出してから……
まずやることを頭に思い浮かべながら着々と準備を進めていった。
劉備達は夜襲で被害はなかったものの、最も紀霊という恐怖を心に刻み込まれた陣営であった為、袁紹軍が進軍すると決めた今、袁紹の兵を借りて受けている為ついていかないといけないう状況に戸惑っていた。
「事態は思ったよりも深刻でしゅ」
第一声を発した人物が舌を噛んだことで、シリアスな雰囲気を台無しにしたのは言うまでもないだろう。
「事態は思ったよりも深刻です」
何もなかったように言いなおす諸葛亮を見て特に何か言うものはいない。
「恐らく私たちは否応なく今回の進軍に参加せざるを得ません。といっても今回は先鋒を任されるわけではないのですが」
「それでは何が問題なのだ?」
「先頭にいなかったら罠なんて怖くないのだ!」
元気よく張飛が声をあげるものの、深刻なのは罠だと思っていたのは張飛だけなので皆なんともいえぬ顔になってしまう。
「問題は私たちの軍の士気の低さです。特に愛紗さんと鈴々ちゃんが紀霊さんに倒された事が、兵士達の間で噂になってしまっています。緘口令を敷いているとはいえ、実際にその現場を目にした兵の士気の低さは危険です」
「なるほど、確かにそれは戦場では危うい」
「困ったのだ……」
張飛もやっと皆の思考に追いついたところで重い空気が皆に纏わりつく。そんな中諸葛亮が口を開く。
「実は袁紹軍が動くとあって、ほとんどの諸侯が追従していくことをよしとしています。もしかしたら私たちが掴んでいない情報がまだあるのかもしれません」
「誰か向かわせたのか?」
「はい、そろそろ帰ってくる頃かと……」
そういうと同時に物見に放っていたものが帰ってきた。
「なるほど……、どうやら孫策軍と曹操軍からの情報らしいですが先に進んでも問題はないらしいですね」
「ふむ、だがあの二人はどうやってこの情報を?」
「わかりません。ただ問題が多少軽くなったことは確かです。時間はまだわずかしかありませんが兵の皆さんを鼓舞するしかありません」
「そらばその役はまだ倒されていない私がやらせてもらおう」
趙雲が名乗りをあげ、それを見て張飛と関羽が頷く
「わかったのだ。」
「今回は我々は大人しくしておこう」
納得しかける二人を諸葛亮が押しとどめる
「いえ、お二人にも鼓舞してもらいます。そして倒されたことを事実として話して下さい。ただ、倒されたのは敵の汚い罠にかかったからということにして、実力は大した物ではないと印象付けてください。そうしたことで逆に士気が高まる、もしくは多少は回復するはずですから」
「ほんとうなのだ? 鈴々たちは倒されてしまったのだ」
「逆にじっとしていた方が、本当にやられてしまったという信憑性をあげてしまいます。それならば卑劣な罠にかかって負けてしまったが、今度は大丈夫だということを際立たせる方がいいです」
「なるほど……」
「桃香様、それでよろしいですか?」
この話し合いの間ずっと口を閉ざしていた劉備は慌てて答える。
「え、えっと。うん、それでいいんじゃないかな」
「どうかなされましたか?」
心配そうな顔で関羽が劉備を見つめる
「大丈夫だよ。皆で紀霊さんに目にもの見せよう!」
まったく違う話する劉備を見ながら皆苦笑を禁じえなかった。
「わかりました。ではこの趙子龍が紀霊を撃ち取って見せましょう!」
「違うのだ! 鈴々がやるのだ」
「いや、私が仕返しをさせてもらおう」
「ちょ、ちょっと皆さん紀霊さんには手を出さない方向で話がまとまったはずでしゅっ……、ぅぅ…」
「まぁ、よいではないか。避けられん時は避けられんさ」
いつもの劉備軍が姿を現す。
紀霊のことを考えていた劉備はとりあえず皆に追従して笑うのだった。
連合軍が虎牢関についたのはお昼時の少し前ほどだった
扉を開けてみればそこは殻で皆拍子抜けしたほどだった。一番乗りはもちろん一刀だったのだが、何故か袁紹に捕まっていたりした。
「一刀様! どうして私のためにそこまで無茶を……」
そして何故か少し距離の離れた場所で、袁紹が大げさに感動をあらわしていたりする。
「な、なにがどうなっているのやら……」
「兄貴も諦めなって、麗羽様がこんなに人を心配するなんざあんまりないんだからさ」
「た、確かに……、こんな麗羽様見たことないかも」
文醜が気楽に言ってのけ、顔良は自分の主の様子を見て、文醜の意見に賛同する。とはいえ一刀はそれで諦めるわけにもいかない。
「それよりもはやく紀霊を追わないと……」
いかないのだが、一刀一人で進んだところで大した意味などないのだから、周りを待つしかない。そんな事実が一刀の足を縛り付けていく。
「一刀さん、それは無理だと思います……」
そして駄目押しだとばかりに言われた言葉を聞いて、一刀は顔良の視線の先を見やった。
そこには久々の戦勝でお祭り騒ぎの連合軍の兵士、主に袁紹軍の姿が目に入ったのだった……。
「華琳怒ってないといいけど……」
もちろん怒ってないはずがない。
結局、連合軍は袁紹軍の宴会騒ぎに巻き込まれていって、虎牢関を出たのは次の日の朝方になってからだった。




