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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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33/371

流入

【種族】ゴブリン

【レベル】60

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔素操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(Lv1)×2

【状態異常】《聖女の魅了》




 その知らせを齎したのは、ハイ・コボルトに進化したハスだった。

「人間キタ!」

 俺の背を冷たい汗が伝って落ちる。

「数は?」

 餌を投げ与え、ハスがそれを咀嚼するのを待って問いかける。

「15」

 ……多いな。

 全員が冒険者と仮定して、今の兵力で太刀打ちできるか?

 弱点を突けば或いは……だが、どちらにしろ賭けの要素が大きいか。

「よし、出る!」

 覚悟を決めねばならないだろう。

 レシア達を捕獲して、ほぼ一ヶ月半。

 15という数が多いか少ないか、対オークに向けて仕上げておいたゴブリン達も、概ね三匹一組(スリーマンセル)の戦い方を覚えてきたところだ。

 人間相手に通用するかどうかは未知数だが、ここで引いてはどこまでも追撃される可能性がある。

 逃げ道など、最初から無いのだ。

「ギ・ガー、全員を集めろ」

「御意!」

 レア級以上のゴブリンを全員集めて命令を下す。

「ギ・ゴーは、集落の戦えぬ者を守れ」

「承知」

「他の者は動ける全員を連れて人間の迎撃に向かう」

「応!」

 気勢を上げる三匹と、静かに闘志を燃やす祭祀ドルイドのギ・ザー。

 三匹一組(スリーマンセル)を組ませた者から5個組15匹をそれぞれ率いさせて編成させる。残ったゴブリンについては、最悪の事態に備えて集落を守るギ・ゴーに率いさせた。

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を握り、足元に擦り寄る灰色狼を一撫ですると、レシアに預ける。

「随分大勢で行くのですね」

「そうだ。無駄に争うつもりはないからな。戻るまでこいつらを頼むぞ」

 レシアは、駆け寄ってくる灰色狼の子供を2匹とも抱き上げる。

「ギューネイとシンシアを預かるのに不満はありませんが……」

「何だ、その名前は?」

「お気に召しませんか? 神の尖兵(ギューネイ)と、湖畔の淑女(シンシア)という意味なのですが」

 嫌過ぎる。

 特にギューネイは絶対に変えさせたい。

「まぁ、議論している暇もないようですので、貴方が戻ってきてから話し合いましょう」

「当然だ。神の尖兵などと、こいつが可哀想過ぎる」

「良い名前だと思うのですが……ね、ギューネイ?」

 尻尾を振ってレシアに付いて行こうとする灰色狼の2匹。

 大丈夫か? お前らは今、とんでもない名前を付けられようとしているぞ。

「待っていますから、ね」

 一瞬、俺は言葉に詰まった。どうやら激励されたらしい。

「心配せずとも人間も、俺達も、被害は最小限にする予定だ。今、俺の敵は人間ではなくオークだからな」

 そう、今はまだ人間と争う時期ではない。

 今はまだ、な。

 その言葉をどう捉えたのか、レシアは頷く。

「リィリィ、お前も一緒に来るか?」

「……人と、戦えと?」

 その柳眉が跳ね上がる。

「降伏勧告でもしてもらおうと思ったのだがな」

「……良いでしょう」

「リィリィさん!?」

 レシアの声に、リィリィは冷静に頭を振った。

「レシア様はこちらで待機していてください。被害は最小限に食い止めて見せます」

 その様子を、醒めた目で眺める俺がいる。

 何かを企んでいるなら、丁度良い好機だ。ここで一挙に片付けてしまうのも悪くない。

 その為に餌を与えてやろう。

 俺を殺せる機会だ。それをもってリィリィの企みを暴く。

「支度を急げよ」

 そう告げると、俺は牢屋に背を向けた。


◆◇◇


 祭祀ドルイドのギ・ザー、獣士のギ・ギー、元集落のリーダーであるギ・グー、唯一のノーブル級であるギ・ガー、そしてリィリィを引き連れて、俺は森の中を疾駆していた。

 獣道や細い道をハスの先導で走り抜ける。

 人間を目撃したという地点まで凡そ半日。

 途中で見かけたダブルヘッドや三角猪などは無視して進む。人間のマチスに作らせた燻製の干し肉や魚で飢えを満たし、走り続けること数刻。

 流石冒険者といったところか、リィリィは多少息を荒げながらもしっかりと付いてくる。

 暫くすると、先導するハスが立ち止まる。到着したようだな。

 先に着いたギ・ギーとギ・グーに周囲の捜索を行わせ、先行させる。

「ギ・ガー、リィリィと共に来い」

「ギ・ザーは後方を警戒しろ」

 後れて到着したそれぞれの部隊に指示を下すのと、ギ・ギーの部隊が戻ってくるのは同時だった。

「前方、人間」

 近い。

「良し、このまま進む。音を立てるな」

 命ずると、ギ・ギーの部隊に続いて姿勢を低くしながら森の中を駆ける。

 ギ・ギーの先導で進むと、何かが争うような声が聞こえてくる。

「ギ・グーの部隊はどうした?」

 小声でギ・ギーに問いかけると、既に人間の後方に迂回しているとのこと。

「成程、分かった」

 人間の集団を見つけたのは、それから直ぐだった。

「これは……」

 人間と争っていたのは一匹のオークだった。森の中の比較的開けた場所はオークの縄張りだったのだろう。15人もの人間に戦いを挑むオークも無謀だと思ったが、俺の予想に反して、押しているのはオークだった。

 それもその筈で、人間達は遠目にも分かる程憔悴しきっている。

 ──どういうことだ? 奴等はレシアを取り戻しにきた冒険者ではないのか?

 乳飲み子を抱えた女や、大きな袋を背負った男が悲鳴を上げている。実際にオークを凌いでいるのは、二人程度でしかない。

「リィリィ、ちょっと来い」

 藪を掻き分けてリィリィを前に出し、状況を確認させる。

「奴等は何だ?」

 端的な俺の質問に、彼女は眉を顰める。

「恐らく……難民ではないかと」

 難民、か。やはりこの世界にも居るのか。

「戦で棲家を焼かれ、この森に迷い込んだ人間達、ということか?」

 認めたくないのだろう。渋々頷く彼女を確認すると、俺は前方の状況を確認する。

 これは使えるかもしれないな。

「……殺すか」

 少しカマをかけてやるか。

 目を細めて呟く俺に、リィリィは瞠目する。

「被害は少なくすると、レシア様に誓ったではありませんか!?」

「面倒事は、さっさと片付けるに限る」

 こちらに気付いていない人間達とオークへの包囲網を縮める。

「ギ・ギーは左に行け。人間共を囲い込む。ギ・ザーは右だ」

 無言で頷くゴブリン達を確認する。

「……貴方、それでも!」

「ならば、お前が助けるか?」

 怒鳴りそうなリィリィに問いかける。

「助けてやってもいい。だが、奴等に対する説得はお前がするのだ。当然、奴等の面倒もお前が見ることになる。それでも良いなら助けよう」

 オーク対人間の戦いは、どんどん人間が追い詰められていく。

「分かりましたっ! 貴方に面倒をかけるようなことはしません!」

「良かろう。ただし、あまり時間を掛けるなよ」

 ここは人間の領域に近過ぎる。

「グルゥゥアアァァ!」

 にやりと口元を歪めて立ち上がると同時に、《威圧の咆哮》を発動させる。

「ギ・ガー! オークを殺せ!」

 手元に残したギ・ガーに命じてオークを倒させる。槍を構えたギ・ガーは飛び出した勢いのままオークの体を貫き、悲鳴を上げるオークを更に手下が切り刻む。

 未だオークが悲鳴を上げる中、俺は堂々と藪を掻き分けて人間達の目の前に姿を現す。

 リィリィを伴った姿が、人間達にはどう映っただろうか。

 先程までオークと戦っていた戦士二人が、青褪めた顔で再び剣を構える。

 俺に促され、リィリィが人間達の前に出る。

「お、お前は人間か? 何故ゴブリンなどに!?」

「皆さん、落ち着いて聞いてください」

 人間からの問い掛け。剣を抜かないリィリィの声に、同じ人間と知って安心したのか非難の声が上がる。

「こいつらは何なんだ!? お前の後ろに居るのは、高位のゴブリンだろう!?」

 どこから説明を始めようと苦しい立場にいるのはリィリィだ。それを分かっているのかいないのか、次々と非難の声を上げる人間に、俺は内心で反吐を吐き捨てる。

 だが、やらせたのは俺だ。

 目の前の人間達は気に食わないが、使えそうなら使ってやる。

 それこそ命が磨り減るまでな。

「私は皆さんを死なせたくはない」

 俺とリィリィを交互に見る人間の戦士。後ろに居る非戦闘員達は固まって身動きすらしない。

「だからお願いです。今は黙って従ってください」

「馬鹿な!? そんなこと、信じられる訳がないっ!」

「お前は、人間でありながらゴブリン共に与するのか!?」

 聞くに堪えない。そろそろ罵詈雑言を聞き流すのも飽きてきた。

 そこで、俺は助け舟を出してやることにした。

「おい、リィリィ。あまり時間はないぞ」

「くっ……!」

 焦った様子のリィリィに構わず、俺は周囲のゴブリン達に号令を掛ける。

「出でよ!」

 今まで茂みに身を潜めていたゴブリン達が一斉に立ち上がると、人間達から悲鳴が上がる。

「こ、この数はっ!?」

 戦士の悲鳴が聞こえる。

 俺は努めて冷静に彼らを観察する。特に戦士をだ。

 どの程度使えるのか、こいつらの利用価値と抱え込む際のリスクを天秤に掛ける。

「まだ時間はある筈です! お願いします、彼らに手を出さないでください!」

 食い下がるリィリィの姿を人間達の目に十分に晒してから、俺は口の端を歪める。

「問うぞ。人間共」

 鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を肩に担ぐ。

「服従か、死か」

 十を数える間に答えろと言い足して、俺は臨戦態勢で彼らの前に立つ。

 人間達と、リィリィの前にだ。

「さあ、答えはどちらだ? それとも、お前達全員で戦って皆殺しを望むか」

「やめてください!! お願いします!」

 勝てないと知りつつも俺に剣を向けるリィリィ。その震える剣先が、彼女の恐怖を物語っている。

 人間達は互いにどうしたら良いのか分からないのか、結論すら出ないようだった。

「もう一度俺と戦ってみるか? 今度は命はないぞ」

 オークを始末したギ・ガーが血塗れた槍を構えるが、俺はそれを片手を上げて抑えた。

 さあ、リィリィ。本性を見せろ。

 俺を倒せる自信があるのなら、いつでも受けて立つぞ!

「……お願いします。この通りです」

 構えた剣を地面に突き刺し、許しを請うように膝を突くリィリィの姿に、人間達は争う気力を削がれたようだった。

「……良いだろう。お前の真摯さに免じて、こいつらは生かす。全員を集落へ移動させろ。逆らうようなら、その者は殺す」

 肩に担いだ大剣を一振りする。

 威嚇の一振りは、思いの他鋭い風圧となって彼らの恐怖を煽ったようだった。

「リィリィ。責任を持って、こいつ等を集落へ導け。良いな?」

「分かっています」

 俯いて表情の見えない彼女は、剣を収める。

「ギ・ガー、奴等が逃げないようにしっかりと見張っておけ」

「御意」

「ギ・ギーは肉をコボルトに届けろ」

「はイ」

「他の者は、狩りをしながら戻るぞ」

 そう言って、俺達は集落へと引き上げた。

 

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