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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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34/371

【種族】ゴブリン

【レベル】60

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔素操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】ハイ・コボルト《ハス》(Lv1)灰色狼(lv1)×2

【状態異常】《聖女の魅了》





 捕虜の扱いの基本は生かさず殺さず。

 捕まえた人間を率いて集落に戻った俺は、ゴブリン達の歓喜の声に迎えられることになる。

「リィリィ」

 彼女を呼びつけると、人間達の住居について命令を下す。

「自分達の物は自分達で作れ」

「家を、作れと?」

「そうだ。これだけの人間を収容できる建物はない。ならば作るしかあるまい」

「それまでの間はどうするのですか……?」

 疲れた様子の彼女に、意地の悪い笑みを向ける。

「それまでの間は俺の住居にでも押し込むしかないだろう。女は纏めて牢屋に入れろ。男の方は半分に分けて、マチスとチノスのいる牢屋と俺の家へ押し込む。それの選抜は任せるが、分かっているな?」

 無言の内に、反乱などを押さえろと言い含める。

「分かりました。慎重に選びます」

 それでいい。

 これで彼女の足には鎖がついた。

 人間達の命という鎖だ。自身が命を賭けて救った命。だからこそ鎖になる。

 走り寄ってくる灰色狼の子2匹の姿が見えると同時に、レシアの姿が見える。

 不満を絵に描いたような顔に、俺は苦笑した。

「捕った獲物は皆で分配しろ。公平にな」

 ダブルヘッドや三角猪らを手土産に集落へ戻った時には、既に日は暮れていた。

 盛大に火を熾し、それを囲むようにして宴会を開く。

「王よ、何故人間を庇う?」

 ダブルヘッドを食しながら手下と共に火を囲んでいた俺に問いかけるのは、祭祀ドルイドを纏めるギ・ザーだ。

「奴等には利用価値がある」

 肉を咀嚼しながら答える俺に、ギ・ザーは考え込む。

「分からんな。この前のコボルトといい、人間まで囲い込むつもりか?」

「人間を囲い込めるのなら最上だな。奴等の知識や技術が馬鹿に出来るものではないのは、お前も分かっている筈だ」

「それはそうだが、他の者は大分不満が溜まっているようだぞ」

 15人の人間の内、半数が女と子供だった。残る7人の男で戦える者は二人。他は剣など持ったこともない農民という具合だ。

「目の前に女が居ても犯せないから、か」

 苦々しく頷くギ・ザーに、人を睨み殺せる程の視線を向ける。

「もし俺の命に逆らうようなら、相応の罰を持って応じよう」

「……そう、怖い顔をするな。だが、どうするつもりだ? 不満を抑えるのにも限界があるだろう?」

 女か。

「そう言えば、聞きそびれていたが」

「何だ?」

 俺の口には笑みが張り付いている。だが、心で渦巻くあの激情は未だ消えていない。人間の女の首を切り裂いた時の感触を、俺の手は未だに覚えている。

「そんなに人間の女が欲しいのか?」

「……まぁ、そうだな」

 返答に困るギ・ザーの表情を楽しみつつ、俺は次なる肉を頬張った。

 他種族の雌を己が下に組み敷くというのは、ゴブリンにとって麻薬のようなものらしい。狂う程の快楽と、高い中毒性がある。

 この群れがそういった狂騒状態から逃れているのは、単に俺の《果て無き強欲》や《王者の魂》などの群れを統率するスキルの影響が大きいのだろう。

 ギ・ザーの話を聞く限り、雄のゴブリンは一種の発作のように他種族の雌を手に入れたいという衝動に駆られるのだそうだ。

「困ったものだな」

 苦笑する俺に、ギ・ザーは眉を顰めた。

「この群れは異常だよ」

 肩を竦めたギ・ザーの口元も、苦笑を作っていた。

「王が率いる戦士の群れならば、当然と言ってほしいな」

 冗談めかして言う俺に、ギ・ザーは更なる苦笑で答えた。

「俺からも、少し厳しく言っておこう」

 そう言って、ギ・ザーは立ち去る。

 だが、確かにゴブリン達の不満を溜め込むのは上策ではない。

 どうするか?

 人間の雌を宛がうのは簡単だ。だが、今は良くても後々どうなる?

 人間を俺の傘下に組み入れると時、その行為はどうあっても邪魔になる。ゴブリン共に別の捌け口を用意するか、或いはある程度の不満を承知で抑え込むしかない。

 別の捌け口、か。

 死ぬ程鍛えてやるのも、一つの手段か?

 性欲など湧く暇もないぐらいに徹底的に、か。


◇◇◆


 翌日から狩りに行く組みの他に、練成をする組を設けた。

 剣の振り方、槍の突き方、投擲の練習、連携の強化。群れ全体の2割程度を、交代で練成に当たらせる。

 殆どの場合、相手は俺が勤める。レシアとリィリィが人間の世話で手が離せないのが理由だった。

 重い木刀を振らせて相手の足元を狙わせ、周囲とタイミングを合わせて長い棒を振り下ろす練習。更には、ギ・ガーの指導の下に投げ槍のスキルを習得させるべく、目標に向かって木の棒を投げる練習などを徹底的に繰り返させる。

 少しでもサボったり、態度が悪い者は、ギ・ゴーやギ・グーが木の棒で容赦なく打ち据え、散々に扱かれた状態で俺を相手に3匹一組(スリーマンセル)の練習をさせる。

 手加減など、するつもりはない。

 練成だからこそ、死ぬつもりで向かってこなければ意味がない。

 向かってくるゴブリンの木刀を叩き落して蹴り飛ばし、倒れたゴブリンを引き摺り起こして立たせる。逃げ回るゴブリンの首根っこを掴んで投げ飛ばし、踏みつける。1日で20匹程度、概ね7組を常に相手にするのは、俺自身にも相当な疲労を要求する。

 その程度のことでゴブリン共の不満を解消出来るなら安いものだ。

 当然、優秀な成績を出した者にはそれなりの褒美を用意している。雌のゴブリンと優先的に交尾させたり、獲物の良い肉を与えたりと、色々便宜を図る。

 後でギ・ザーに聞いた話だが、戦闘員達に5日に一度巡ってくるその日は、ゴブリン達の間で“恐怖の一日”と呼ばれているらしい。

 恐怖での支配は一要素でしかない。だが、有効であるのは確かだ。

 ゴブリン達に俺への畏怖を刻み込むのと同時に、鍛錬にもなる。

 足腰が立たなくなるまでゴブリン達を叩きのめした後、俺は狩りに出かけた。


◆◆◇


 練成を始めて十日も経てば、徐々に慣れ始めてくるものだ。二度目ともなれば逃げ出す者は殆ど居なくなり、立ち向かってくる者が大半になった。

 思ったよりも順応が早い。

 人間達の住む住居も完成を見た。中々立派な牢屋が出来上がっていた。

 何でも、人間の男達に家を建てる経験をした者が多いのだとか。これは使えるかもしれない。

 リィリィに命じて、その建物だけでなく集落の周りにある柵の改修も行わせる。

 人間達から事情を聞いてきたリィリィによれば、やはり彼らは戦によって村を焼かれた難民らしい。敵兵からの追撃を避ける為に森の中へ逃げ込んだは良いものの、思いの他深くまで迷い込んでしまったらしい。

「柵をですか?」

 リィリィの言葉に宿るのは疑問。当然だな。

「そうだ。俺は、この集落をお前達に与えても良いと思っている」

 十日前に連れて来られた人間を集めて、餌をちらつかせてやる。十日も生活を共にしていれば、多少の硬さは残るものの、俺が手を出さないことは認識されていた。

 まだまだ恐怖の感情は残っているだろうが、話が出来る程度には慣れてきている。

 俺の言葉にお互いの顔を見合わせ、小声で話し合う人間達。

「それは、どういう……」

 おずおずと言葉を発したのは年配の男。確か、建物を立てるのに役に立った人間だ。

「俺達は何れここより西の地へ向かう。その際に、お前達にこの集落を与えても良いと思っている、ということだ」

 先程よりも騒めきが大きくなる。

 一から村を作るよりも、元々あった集落を改修する方が簡単だからだ。

「望むなら、護衛として多少のゴブリンを残しても良い」

 ここは常に外敵から狙われる暗黒の森だ。碌に戦えない人間を抱えながら集団生活を営むのは難しいだろう。

「チノスが始めた畑は、形になりそうなのだな?」

 レシアと一緒に捕虜になったチノスには集落の直ぐ近くで畑をやらせているが、ある程度形にはなってきている。来年には芋などが収穫出来るそうだ。

「はい。地味は悪くありませんし」

 嬉しそうなチノスに、俺は満足気に頷く。

 再び騒めく人間達。だが、今回は喜色が大分混じっている。

 勿論、俺がこんなことを人間達に言い出したのには理由がある。

 純粋な好意などで、こんなことをする筈がない。

 飴と鞭を上手く使い分ける必要があったのが一つ。

 もう一つは、幼生から成人したゴブリンの数が徐々に増えてきていることが挙げられる。

 幼生のゴブリンは概ね20日を掛けて成体のゴブリンへと成長する。そして雌のゴブリンは、殆ど間断なく幼生を生み続けられるようだ。

 5日程の休憩期間を設けただけで、直ぐに次の幼生を身籠ることが出来る。

 現在、俺の群れにいるゴブリンの雌は20匹程だ。その全員が孕んでいる。

 三匹一組の成果と餌の豊富さに加えて鍛錬の成果か、最近ではゴブリンが死ぬことは殆ど無い。故に、生まれた幼生はほぼ確実に成人する。

 このままのペースで群れが成長し続けると、直ぐに集落に入りきらない規模になってしまう。

 ならば、新しい住居を定めるか。

 若しくは、分派して住み暮らすか。

 或いは、この集落を拡大していくか。

 どれかを選ばねばならない。

 分派して暮らすという方法は、誰にその集落を任せるのかが問題になってくる。俺の指示が届き難い地域で暮らすのなら、それ相応の忠誠心と様々な事態に機敏に対処出来る判断力を持っている者でなければならない。

 ギ・ザーが適任なのだが、本人が断ったのでこの案は却下となった。

 集落の拡大は、あまり派手にやり過ぎると人間を刺激してしまう恐れがある。人間の領域に近しい場所に本格的な集落を構えるのは、やはり抵抗がある。

 新しい住居を定めるというのは論外だ。何れは深淵の砦へ乗り込むとしても、未だに最初の関門たるオークすら倒せていないのが現状だ。

 それまでは、折衷案を用いてやっていくしかない。

 この地は獲物を捕るだけなら最適と言って良い。北東にある湖や周辺に凶悪な魔獣は存在しない。脅威が存在するのは西のみだ。

 そして、西にはゴブリン達の故郷が存在する。俺は何れそこを落とすつもりでいる。

 その時、用済みになったこの集落はどうする?

 あわよくば人間の世界へ進出する時の足掛かりとして利用したいというのが俺の思惑だが、果たしてそう上手くいくかどうか。

 ただ捨てるには惜しい。ならば最低限、ここを維持するだけの人員が必要だ。

 人間を上手く利用できれば、集落を確保しつつ、俺の支配領域を広げられる。

 ゴブリンの力を使わずに、だ。

「未だ暫く時間がある。よく考えておけ」

 俺は人間に提案を持ちかけながらも、凡その結果を予想しながら背を向けた。


◆◆◇


 一つ忘れていたことだが、戻ってきた俺はレシアに灰色狼の名前を変更させた。

 流石に神の尖兵は酷過ぎる。

 せめてウルにするべきだ。

 狼だけに。

 その後激烈な議論の末、灰色狼の名前は湖畔の淑女(シンシア)風鳴りの君(ガストラ)に決まった。

 いつの間にかギ・ザーや老ゴブリン、何故かリィリィまでもが混じり、喧々諤々の大激論の末に出た名前だ。

 議論の間中、俺の膝の上で寛いでいる2匹に試しに《赤蛇の眼》を使用してみた。


【種族】グレイウルフ(ガストラ)

【レベル】1

【階級】幼生

【保有スキル】《疾風の一撃》《突進》

【加護】なし

【属性】なし


【種族】グレイウルフ(シンシア)

【レベル】1

【階級】幼生

【保有スキル】《突進》《唸り声》

【加護】なし

【属性】なし


 《突進》のスキルは厄介だったな。

 見た目はどんなに小さくとも、やはりあの巨大な狼の血を引いているということか。


◇◇◆◆◇◇◆◆


レベルが上昇。


60⇒61


◇◇◆◆◇◇◆◆



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