強欲の王
【種族】ゴブリン
【レベル】60
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】ハイ・コボルト(Lv1)灰色狼(Lv1)×2
【状態異常】《聖女の魅了》
東の監視を確立した俺は、一旦集落に腰を落ち着ける。
リィリィ相手に苦戦する各派閥のゴブリン達にひとつの解答を示そうと思ったのだ。
「今日は誰の派閥からだった?」
「拙者でス」
灰色狼戦以来俺に仕えるギ・ゴーは俺に首を垂れる。どうも、古武士のような佇まいがする。あるいは傷だらけの風貌がそれを思わせるのか。
「人に勝つ術は見つかったか?」
「……未ダ」
深く首を垂れたギ・ゴーに頷いてひとつ策を授ける。
「ギ・ゴー、今日出る三匹に、策を授ける」
にやりと意地の悪い笑みを貼り付けた俺の顔は、誰の目にもさぞ凶悪に映ったことだろう。
「リィリィ支度は良いのか?」
「はい。問題ありません」
いつものように木刀を一振り、風を切る。
「では、はじめよう」
俺の見ている前で、リィリィと三匹のゴブリンとの戦いが始まった。
◇◇◆
じりじりと間合いを詰めるリィリィに対して、ゴブリンは三匹纏まってリィリィに迫る。
三匹一組その基本形態は変わらない。
一匹が攻撃を受け止め、もう一匹が態勢を崩し、最後の一匹が仕留める。
その三匹を密集させ、リィリィの攻撃をまずは受け止める。
だが、リィリィも伊達に冒険者を名乗っているわけではない。
息もつかせぬ連続攻撃から、ゴブリンに反撃の機会を与えない。さらに動こうとしたゴブリンに、牽制の一撃を与え、徐々に三匹を追い込んでいく。
軽くしなやかな連撃は、一撃必殺の威力こそないが徐々に受けに回るゴブリンを追い詰め、遂にその木刀を弾き飛ばす。
「もらった!」
リィリィが好機とばかりに振りかぶる。
それこそが、ゴブリンが人間に勝つための最大の機会。
「行け!」
思わず叫んだ俺の声に反応して、武器を飛ばされたゴブリンが地面に体を這い蹲らせる。
「な!?」
同時に他の二匹は左右に散ってリィリィの左右に散る。
「くっ!」
振り下ろす攻撃は、四足獣のようにリィリィの足元を狙うゴブリンに届かない。
もともと剣術などというものは、立って勝負することを前提に考えられているのだ。
地面すれすれの相手に対して有効な攻撃を持っているのは、ほぼない。
ましてや今回は奇襲。ゴブリンの動きが完璧にはまった状態で、有効な反撃などできるはずもない。
振り下ろした木刀が地面をたたく。
同時に左右から迫ったゴブリンが、リィリィの足を狙って一撃を繰り出す。
「その程度っ!──く!?」
飛び退こうとしたリィリィの足元に先ほど地を這っていたゴブリンの手が絡みつく。
「な!?」
驚くリィリィの足をゴブリンの木刀が打ち据えて、勝負はついた。
「それまでだな」
「私は、まだ戦えます!」
俺の裁定に猛然と抗議するリィリィ。
ふむ。
「ならば、もう一戦試すか」
「もちろん!」
「では、次は……」
「俺ノ組でス」
この集落出身のギ・グーが進み出る。
「なるほど……では、次の策を授けよう」
リィリィと対戦するゴブリンを集めると、彼女に聞こえないように小声で喋る。
指示を終え彼女との対戦に向かうゴブリン達。
「次は負けません」
ぎり、と奥歯をかみ締めるリィリィが木刀を振る。
「はじめろ」
その声と同時に突き進むリィリィ、だがゴブリン三匹はまたしても四つん這いとなって、彼女の足元を狙う。
「そう、なんども!」
飛び退くと同時に剣を構えなおすリィリィ。だが相変わらずゴブリンは四つん這いで進む。
「くっ!」
下から迫る三通りの攻撃に防戦一方のリィリィ。先ほどやられた足の傷も治らないうちから、無理に体を動かせば、そのツケは何倍にもなって返って来る。
足の痛みを庇いながら戦うリィリィには、その疲労が何倍もの速さで襲い掛かっているはずだ。
徐々に攻め立てられるリィリィ。
疲労の色が濃い中遂に彼女が剣を弾き飛ばされる。
肩で荒い息をつく彼女が武器を失うのを待って、裁定を下した。
「それまでだな」
「くっ……」
俯き肩を震わせる彼女をレシアに任せると、ギ・グー、ギ・ゴーを呼んだ。
「なぜリィリィに勝てたと思う?」
沈黙を守る二匹に、俺は口を開く。
「理由は簡単だ。戦い方に明確な方針を与えた」
「メイカクな」
「ホウシン?」
難しかったか。
「つまり、狙うべき場所を教えたのだ」
「なるホど」
頷く二匹に向かって更に言葉を重ねる。
「更に敵の弱点だ」
敵の弱点を抑え、敵の攻める場所を示せば後は3匹で連携して攻めて行けばいい。
勝利は自ずとやってくる。
三匹という利点を最大限に生かす。
敵の弱点を突く。
本質的にはこの二つだ。
「以降、お前たちにも実践してもらうぞ」
力任せではオークに勝てない。ならば弱点を見破るその眼力を鍛えてもらわねばならない。
スキル《青蛇の眼》のようなものを使わずとも、その経験が最大の助けになるはずだ。
「畏まリマしタ」
「はイ」
頭を下げる二匹を返すと、レシアに任せたリィリィの様子を伺いに牢屋に向かった。
◆◇◇
「傷の具合はどうだ?」
牢屋に入って開口一番声をかけてみる。
「……いえ、問題はありません」
レシアがヒールを使ったためだろう彼女は既に立ち上がっていた。
「今日はこれで終いとする。明日以降も続けるつもりはあるか?」
「っ! 当然です」
怒りに燃えるリィリィの視線を受けながら、俺は口の端を歪めた。
「その元気があれば大丈夫そうだな」
「もちろん、これ以上ゴブリンに遅れを取るつもりはありません!」
「期待している」
意地の悪い笑みを貼り付けたまま、俺は牢屋を後にする。
明日からは対戦する派閥を少なくして、双方に負担にならない程度にやらなくてはな。
◇◆◆
一足先にリィリィを攻略したギ・ザーの派閥には、やはり狩りの中心となってもらわらねばならない。祭祀を中心として、近接戦を行えるゴブリンを2匹。
三匹一組の形としてそれを確立しつつ、狩りを行わせる。
ただし、ギ・ザーを通じて決して前衛の二人を殺すなと厳命を下す。
「別に構わんが」
その命令を下したとき、祭祀をまとめるギ・ザーの反応は微妙なものだった。
「なぜそこまでゴブリンを生かしたがる?」
なぜか。
「逆に聞きたいがギ・ザーよ。お前はどこまでこの世界を征服できると考えている?」
「また唐突だな」
苦笑して肩を竦める姿はゴブリンよりも人間臭い。
「俺はな、この世の全てを征服するつもりだ」
体の奥から燃え上がる炎のような感情を、激情のままに語る。
「……この世の全て、か」
「そうだ。この暗黒の森。人間の住む地上。あるいは竜の住む山脈、あるいは巨人が住まうという地下迷宮。全てを、だ」
声もないギ・ザーに向かい、更に宣言する。
「だからこそ、こんなところで奴等を失うわけには行かない。奴等が俺を王に迎えるのなら、そしてお前が望む王ならば、俺は導いてやらねばならん。死ぬべき場所を、戦うべき戦場を、俺が定めよう」
そしてそれは、こんなところであるはずがない。
「こんなつまらぬ狩りで命を落とすなど、断じて許さん」
「……ククク」
心底おかしそうに腹を抱えるギ・ザー。
「王よ、期待しているぞ。お前に着いて行きたくなった」
笑いを収めたその表情は真剣そのもの。
「ああ、期待していろ」
その真剣さに応じるため、俺は胸を張った。
◇◆◇◆◇◆◇◆
ギ・ザーに【スキル】《王の信奉者》が追加されます。
◇◆◇◆◇◆◇◆