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ゴブリンの王国  作者: 春野隠者
王の帰還
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31/371

ハイ・コボルト

【種族】ゴブリン

【レベル】60

【階級】デューク・群れの主

【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔素操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》

【加護】冥府の女神(アルテーシア)

【属性】闇、死

【従属魔】コボルト(Lv9)灰色狼(Lv1)×2

【状態異常】《聖女の魅了》




 《赤蛇の眼》を使って鑑定した結果、群れ全体でレベル60を超えているゴブリンの数は10匹を数えた。

 レアやノーブルを除いてこの結果なのだから、数を減らさずに慎重に狩りをしてきた甲斐があったというものだ。

 丁寧に育てた果実を収穫するような期待感がある。

 更にその中には、俺が群れを乗っ取ってから成人した者達――新世代のゴブリン達も二匹混じっていた。

 幼生の頃から充分な食事を与え、決して飢餓を感じないように育てたゴブリンは、普通のゴブリンと比較してかなり体が大きい。

 ゴブリン・レアに近い体躯を誇るその二匹は、顔付きも他のゴブリンと比べて何となく柔らかい気がする。或いは、これが育ちの良さというやつだろうか?

「ギ・ザー、ギ・グー、ギ・ゴー」

 階級上昇間近な三匹を呼ぶと、湖の近くの槍鹿が多く生息する場所を指定して狩りに行かせる。

 安全で、尚且つ適度な強さの獲物が居るのだから、狩りには丁度良い筈だ。

「ギ・ガー、集落を守れ」

 現在唯一のノーブル級ゴブリンであるギ・ガーを集落の守りに残す。

 もし俺が不在の時に、オークが襲来した場合に備えてだ。

「ギ・ギー、一緒に来い」

 獣士であるギ・ギーを伴い、他に五匹程のゴブリンを引き連れて狩りに出掛ける。

 方向は東。

 コボルトと人間が暮らす領域だ。

 いくつか理由があるが、最も大きなものは監視体制を確立しておきたいというものだ。ゴブリン達の故郷である深淵の砦へ向かう為には、西に蔓延るオーク共を片付けなければならない。

 そちらの偵察も重要だが、西を落とす為には後背の脅威を無視する訳にはいかない。

 先日から続くリィリィ相手の訓練は、改めて俺に人間の脅威を思い出させた。本格的な人間の侵攻の前には、ゴブリンなどひとたまりもないだろう。

 レシアからの情報では今の人間の世界は乱世らしいが、冒険者と呼ばれる者達は依然として森への侵入を試みているらしい。

 そうでなくても、森から迷い出た魔物や魔獣は討伐の対象だ。いつ優れた領主が現れ、森に攻め入ってくるか分かったものではない。或いは冒険者を雇って森に討伐組を差し向けてくるか。

 どちらにせよ、オークよりも脅威度は高い。動きが鈍いだけで、その脅威を軽く見てはならない。

 だが、ゴブリンの主戦力を東には向けられない。オークに対抗するなら、群れの全力をもってすべきだ。並みのオークですらノーブル級の力がある。1対1で対抗できるのは、俺かギ・ガーぐらいだろう。

 だから、今は東にいる脅威を監視若しくは足止めする必要がある。俺達が人間に勝る力を手に入れるまで、奴等とはなるべく争わないに限る。

「前方ニ気配」

 ギ・ギーの声に俺は目を細める。

「主ノ、コボルト」

 獣士の中で犬を使役するゴブリンにコボルトの匂いを覚えさせ、それを追ったのだ。藪をかき分け、密生した木々の合間を進めば、そこには木の根本に空いた小さな洞穴があった。

 流石に俺の体格では入れそうもない。どうしたものかと考えていたところに、穴からコボルトが這い出してきた。

「ウゥ~ゥ」

 尻尾を千切れんばかりに振って俺に擦り寄るコボルト。

 それに餌を与える。

「仲間を呼べるか?」

「ウゥ~」

 洞穴に向かって吼えるコボルト。他のゴブリンは見張りの為に周囲に散らせている。

 ひょっこり顔を出すコボルトの数は、10匹程。

 揃って尻尾を振っている様子は、中々に愛らしいものがある。俺に纏わり付いてこなければの話だが。

 それぞれに肉を投げ与えると、そいつらに命令を下す。

「仲間を集めろ。そうすれば餌をやる」

「ナカマ、ツレテクル。エサイッパイ!」

 頷くコボルトに、周りのコボルトも同様に頷きを返す。

「行け」

 俺の言葉を合図に、コボルト達は森の中へ散って行った。

「ギ・ギー、忙しくなるぞ」

 周囲を警戒していた手下に声を掛け、狩りをするべく、その場を後にした。


◇◆◆


 鎧兎や三角猪、蛇などを狩り終えてコボルトの巣穴へ戻れば、放ったコボルトが30匹以上になって戻ってきていた。

 まるで鼠算を見ているような感覚を覚えつつ、獲ってきた餌を投げ与える。

「食っていいぞ」

 涎を垂らしながら餌を見守るコボルト達が、俺に従属している一匹を注視する。

「ウゥ~」

 その一声が合図となり、俺たちが獲ってきた食料はあっという間にコボルト達の胃袋の中に納まった。

 食料を食い終わったコボルトが俺の足元に擦り寄ってくる。

 その頭を撫でながら、簡単に役割を与えてやる。

「オークを見つけて来い。そうしたらもっと沢山の食料をやろう」

「オーク、ミツケル」

 わんわんと吼えるコボルトが一斉に駆け出していく。

「良イのデすか?」

「構わん」

 不思議そうに首を傾げるギ・ギーの疑問を一蹴してやる。

 コボルトがどこまで従順となるか、奴等の監視はどの程度の範囲なのか、確かめる良い機会だ。

「俺達の分の餌を獲りに行くぞ」

 首を垂れるゴブリンを率いて、俺は再び狩りに赴いた。


◆◇◇


「主」

 ギ・ギーの声に促されて目を覚ます。

「コボルト、でス」

 獣士は使役する魔獣と会話が出来るらしい。

 コボルトを周囲の監視に出した後、自分達の食料を獲り終えて、コボルトの巣穴の近くで短い眠りについていた俺達は、ギ・ギー達獣士の使役する獣の声で目が覚めた。

「オーク!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるコボルトの様子を横目に、鋼鉄の大剣(アイアン・セカンド)を握る。

「ギ・ギー、用意はいいか?」

「はイ」

 ダブルヘッドの背に乗ったギ・ギーが、使役する魔獣を走らせながら返事を返す。手にした長柄の斧と相俟って、まるで戦国時代の騎馬武者か、或いは西洋の騎士に見えなくもない。

「往くぞ」

 コボルトの後を追い、駆け出す。

 向かった先には、コボルトを追い回すオークの姿。

 コボルトに夢中になって俺達が見えていないオーク2匹。その1匹の頭に、大剣を叩きつける。

 血飛沫を上げて倒れるオークを尻目に、檄を飛ばす。

「遠慮はいらん、やれ!」

 俺の声に、ギ・ギーの使役するダブルヘッドがオークを跳ね飛ばそうと襲い掛かる。背に乗ったギ・ギーは長柄の斧を振りかぶりながら、オークに襲い掛かる。

「ピュグ!?」

 寸でのところでダブルヘッドの突撃を避けたオークだが、その背に乗ったギ・ギーの長柄の斧が脳天を襲う。

 がぎん、と硬質な音を立ててぶつかり合う斧と棍棒。そのまま走り去るダブルヘッドとギ・ギーを追おうと背を向けるオーク。

 その隙を狙うべく、他の獣士が犬をけしかけ、オークの足や手に傷を負わせる。

 だが、やはり決定力に欠ける。

 皮膚を切り裂き、肉を抉ることは出来ても、傷自体が浅く、骨まで届く一撃がないのだ。

 ならば、だ。

「傷口を狙え!」

 振りかぶるオークの棍棒を、俺が受け止める。

 同時にその手を押さえつつ、ギ・ギー配下の獣士達に傷口を広げる攻撃を仕掛けさせた。

「ピュグゥゥウゥ!」

 ──馬鹿力め!

 全身の力を込めてオークの動きを封じる。

 だが、動き回るオークの傷口を狙う一撃は、やはり致命傷にはなりにくい。

「ウゥ~!」

 そこで予想外の参戦があった。

 コボルト達が、手にした獣の牙でオークの足元を狙い始めたのだ。

「ふっ……コボルトに遅れをとるなよ!」

 オークの足の小指や爪先を狙った小さな攻撃の積み重ね。一撃離脱を繰り返し、オークの周囲を跳ね回るコボルトの様子に苦笑しながら、ゴブリンに檄を飛ばす。

「グルゥゥゥ!」

 コボルトの動きに奮起したのか、ゴブリンの獣士達もが前に出てオークを切り刻み始める。

 使役するダブルヘッドの背に乗ったギ・ギーが長柄の斧を振りかぶり、オークの背に向かって一撃。その傷口目掛けて、ゴブリンの獣士とコボルトが刃を突き入れる。

「ピュギィィ!」

 悲鳴を上げるオークの腕を、俺はがっちりと固定する。

 ──逃げるんじゃねェ!

 オークの胸元ぎりぎりまで鍔迫り合った大剣を押し込み、オークが逃げられないように固定する。直接的にはギ・ギーを中心とするゴブリン達の戦いに手は出さない。

 そうして幾多の多重攻撃の末、ゴブリンとコボルトでオークを討ち取ることに成功したのだった。

「全員に分け与える。好きに食え」

 オークの血溜まりの中で尻尾を振っているコボルト達とギ・ギー配下の獣士達に、褒美としてオークの肉を食わせてやる。

 ふと、うなり声を聞いて足元を見やる。

 俺に従属したコボルトが震えている。首根っこを掴んで引っ張り上げようとすると──。

「ウゥゥオオオン!」

 高らかに遠吠えを上げ、その体から一瞬光が溢れる。

 ──これは……。

 体つきが一回り大きくなり、毛並みも随分と長くなっている。

 生え揃った牙も、地面に付いた爪も、以前より鋭い。

 顔付きも、野良犬よりも狼に近い。

 まさかと思いつつ《赤蛇の眼》を発動させる。



【種族】コボルト

【レベル】1

【階級】ハイ・群れの主

【保有スキル】《大食い》《早食い》《悪食》《雑食》《疾風の一撃》《群れを呼ぶ声》

【加護】なし

【属性】なし

【従属】ゴブリン・デュークに従属


 ふむ、と俺は首を傾げた。

 階級を上げてはいるが、ハイ・コボルトになっている。もしや魔物によって階級の名称は違うのか。

 ゴブリンならレア級となる筈が、コボルトはハイとなっているのはどういった区分なのだろう?

 首を傾げつつも、この際分からないことは置いておく。

 更に集中してスキルの解析を行う。


 《疾風の一撃》

 目にも留まらぬ速さで一撃を加える。初撃のみ有効。敏捷性上昇(小)

 《群れを呼ぶ声》

 率いる群れ以外の同族にも呼びかけ、仲間を集めることが可能。


 早食いは見る必要もない。

「お前、群れの主だったのか?」

 尻尾を振りつつ俺を見上げるコボルトの傍らに座る。

「ウォン!」

 こいつにも名前をやるか。犬、犬……。

「……ハス、でどうだ?」

 コボルトの頭をぽんと撫でながら、反応を伺う。

「ウォン!」

 目を細めて返事をするハスに切り取ったオークの肉を投げ与えれば、あっという間に骨ごと噛み砕いてしまった。

 《早食い》のスキルか。……まったく無駄なものを。

「ハス、これから東の領域はお前に任せる。人間とオークが来たら俺に知らせろ、良いな?」

「人間、オーク、知ラセる。肉くれル?」

「ああ、好きなだけやろう」

 大見得を切った俺に、ハスが戯れ付いてくる。

「ギ・ギー。俺が不在の時は、ハスはお前に任せるぞ」

「はイ。主のご指導、無駄ニはシマセん」

 少し感心した。ギ・ギーは他のレア級ゴブリンよりも頭が回るらしい。俺が敢えて手を出さないことでオークの倒し方を練習させたことをコイツは理解できたらしい。

「ハス、俺が居ないときはギ・ギーを頼れ」

 そろりとギ・ギーに近寄るハスに、ギ・ギーは無言で肉を差し出す。

 その肉をぺろりと平らげて、ハスはギ・ギーの足元に戯れ付いた。

 節操のない奴だ。

 まぁ、これでコボルトの監視能力の一端が伺えた訳だ。

 後はゴブリンを鍛え上げ、対オークの戦力と出来るか否か。

 まだまだ課題は山積みだな。


◆◆◇◇◆◆◇◇


【従属魔】コボルトがハイ・コボルトに進化。


コボルトの群れへの影響力が増大。


◆◆◇◇◆◆◇◇



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