深淵の砦
【種族】ゴブリン
【レベル】60
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔素操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)灰色狼(Lv1)×2
【状態異常】《聖女の魅了》
リィリィが体を動かしたいと言う希望から、ゴブリンの戦闘訓練の相手になってから早5日。
やはりというか、最初にリィリィに打ち勝つことが出来たのはギ・ザーの派閥だった。
魔法の使用を制限しているとは言え、元々がドルイドと言う頭を使う事に馴れた【階級】なのだ。彼らが日々手を変え品を変えリィリィの弱点を研究した結果だろう。
他の派閥はどれも似たり寄ったりで、中々リィリィを打ち倒せない。
やはり、祭司を核としてチームを組ませるべきだろうか?
ただ、ドルイドについては性格に難がある。ドライ過ぎるとでも言うのか、或いは俺よりもゴブリンを駒として見ている傾向があるのだ。
研究熱心なのは良いことだが、折角集めた戦力を勝手に減らされては困る。
その力加減が難しい。
……俺だけで悩んでも堂々巡りを繰り返すだけか。
「リィリィ」
午後の訓練を終えたリィリィに声をかける。実際に手を合わせた者の感想を聞いてみるのも一興だろう。
「どのグループが手強い、ですか?」
疑問の表情を浮かべる彼女が、再び問いかける。
「私を信頼しても、構わないのですか?」
「あくまでも意見の一つとして聞くだけだ。忌憚のない感想を聞かせてくれ」
真面目な女なのだろう。眉間に刻まれた皺は深い。
「やはり、ギ・ザーさんの率いるグループでしょうか」
まぁ、順当な所か。
「次は、ギ・ギーさん」
少し意外だった。レベルの高いギ・ガーの派閥ではなく、獣士のギ・ギーの派閥の方が手強いと言う。
今は前衛として敵を察知することに使っているギ・ギーの派閥。獣士達を一纏めにして運用しているが、三人一組の中に組み込むことを考えても良いかもしれない。
考えに没頭していた俺をリィリィが覗き込んでいた。
「何だ?」
背の高い彼女と俺とでは、背丈は殆ど同じだ。
「いえ」
目を背けるリィリィの様子に疑問が浮かぶが、追求するだけの材料はない。
まぁ、良いだろう。何か良からぬことを企むようなら、それ相応の罰を与えよう。
「王!」
声をかけられたのを契機として、俺はリィリィに背を向けた。
◇◆◆
「深淵の砦を知っているか?」
ギ・ザーからの質問に、俺は小首を傾げた。
「何だそれは?」
「王が知らないのも無理はない。いいか? ゴブリンには幾つかの有力な部族が居る」
砦の話からいきなりゴブリンの部族の話に飛び、俺は困惑した。
「ゴルドバ、ガイドガ、パラドゥア、ガンラの4氏族から始まり、世界各地に存在するゴブリンの数は、人間を除けば或いは最も多いかもしれない」
ゴルドバ? ガイドガ? 何の話だ。
「だが、それらは決して一纏まりではない。人間に対しての姿勢もそうだが、ゴブリン同士でさえも敵対している」
取り留めのない話になってきたが、俺は黙って聞くことにした。ギ・ザーの目は、戦いに向かう時のように真剣だったからだ。
「だが、一つ共通したことがある」
ゴブリン種族の統合を目論むなら、そこを目指せと言うことか。
「それが深淵の砦だ」
何故、砦が種族共通の象徴になるのか。
「行けば分かる」
ギ・ザーの瞳は、変わらず真剣そのもの。
「その話を信じろと?」
「王よ。お前が、真に俺たちを導く者ならば」
預言者のように威厳に満ち、狂人のように熱に浮かされながら、ギ・ザーは言葉を紡ぐ。
「深淵の砦を奪え」
言葉に困るとはこのことか。
「あれこそが、我らが故郷。全てのゴブリン達の帰るべき場所」
故に、ゴブリンを従えるのならそこを狙え、ということか。
――故郷。深淵の砦。
その言葉は、不思議な感覚を伴って俺に響く。確かに胸に込み上げるものがあるが、常に冷静なギ・ザーがあそこまで熱くなるとは。
或いは、俺以外のゴブリンには何らかの絶大な効果があるのか?
それにしても。
「何故、今なんだ?」
「この前の礼だ」
礼、だと?
「面白いものを見せてもらった礼だ」
にやり、と笑うギ・ザー。
灰色狼との戦いを言っているのなら、甚だ見当違いだ。
あれは、そんなものではなかった。
だが。
「それで、その砦はどこにあるんだ?」
それは使える。氏族や各所に散らばるゴブリン共にどれほどの効果があるのかは分からないが、俺の元に力を結集する為には悪い手ではない。
俺から奪おうとする者、俺を利用しようとする者、叩き潰そうとする者……それらを全てを飲み込み、王国を築く。
「森の奥……西に10日の距離だ」
西。
流れてくるオーク共が思い浮かぶ。
「西、か」
呟いた俺に、ギ・ザーが頷いた。俺の想像したことが分かったからか。
「オーク共を排除せねばな。やつらは砦への最初の関門だ」
奴らには借りがある。
「ツケを払ってもらうか」
いつかの、俺の集落を襲った落とし前をつけてやる。
先ずは配下のゴブリンを鍛えねばならない。オークを三匹一組で倒せる程度には、なってもらわねば。
◆◆◇
「それをどうするつもりだ」
問い掛けた俺の言葉に、王は振り返りもせず答えた。
「助ける」
自分を殺そうとした灰色狼の子供を、だ。
「やがて、お前を超える力を持つ事になると分かっていてもか?」
抱えた灰色狼の子供を見下ろし、王は目を細めた。
「ならば、俺は全力をもってそれに応えよう。復讐でも、反逆でも構わない。俺の前に立ち塞がるのなら、王として俺は受けて立つ」
何故だ? 何故、そうまでして敵になるかもしれない者達を育てるのか。
「そして、それはギ・ザー、お前達にも言えることだ」
自身を射抜く視線の鋭さと冷たさに、俺の背筋は震えた。
「俺を倒したければ、いつでも掛かって来い」
俺の口からは笑いが漏れていた。
「何だ?」
「いいや。今は、お前に付いて行くさ」
思い出すのはゴブリン・ドルイドとなり、集落を追い出された時のことだ。当時の群れの長は、俺がドルイドだと知ると群れの全てのゴブリンでもって俺を追放しようとした。
唯一庇ってくれた爺さんも、結局長には逆らえなかった。
『何故今になって俺の前に現れた!』
群れを追われ、命からがら生き延びて新たな群れを作り、やっと安寧を取り戻した所に現れた爺さんの姿。
言葉を教わり、俺がドルイドに進化する切っ掛けをくれた恩人ではあったが、やはり恩讐は忘れ難い。
『王が現れたのだ』
爺さんの言葉に俺は耳を疑う。寝物語に聞かせてくれた、伝説の存在。そんなものが、本当に現れたというのか?
ゴブリンという種族の全てを束ね、我らを安寧の地に導いてくれる存在。
『馬鹿な』
鼻で笑い飛ばすには、爺さんはあまりに真剣だった。
『……ならば、俺が試してやろう』
愛用の杖を掴み、虚勢と自覚しつつも笑みを浮かべる。
『王ならば、真の王ならば!』
懐に忍ばせる切り札の魔石。手にした杖の先端には風が渦巻く。
『俺を倒して見せろ』
もし俺が勝つようなら、群れを率いて深淵の砦へ向かおう。
ドルイドを束ねる俺こそが王に相応しいということだ。




