ハイ・コボルト
【種族】ゴブリン
【レベル】60
【階級】デューク・群れの主
【保有スキル】《群れの統率者》《反逆の意志》《威圧の咆哮》《剣技B−》《果て無き強欲》《王者の魂》《王者の心得Ⅰ》《青蛇の眼》《死線に踊る》《赤蛇の眼》《魔力操作》《狂戦士の魂》《三度の詠唱》
【加護】冥府の女神
【属性】闇、死
【従属魔】コボルト(Lv9)灰色狼(Lv1)×2
【状態異常】《聖女の魅了》
《赤蛇の眼》を使って鑑定した結果、群全体でレベル60を超えているゴブリンの数は10匹を数えた。
レア、ノーブルは除いてこの結果なのだから、奴らの数を減らさずに慎重に狩りをしてきた甲斐があるというものだ。
丁寧に育てた果実を収穫するような期待感がある。
更にその中には、俺が群れを乗っ取ってから成人したもの――新世代のゴブリン達も二匹混じっていた。
幼生の頃から、満足な食事を与え決して飢餓を感じないように育てたゴブリンは、普通のゴブリンと比較してかなり体が大きい。
あるいはゴブリン・レアに近い体躯を誇るその二匹は顔付きもなんだか他のゴブリンと比べて柔らかい。あるいは、これが育ちの良さだろうか。
「ギ・ザー、ギ・グー、ギ・ゴー」
階級上昇間近な三匹を呼ぶと湖の近く、槍鹿を狩れる場所を指定して狩りに行かせる。
安全で尚且つ、適度な強さの敵がいるのだから狩りにはちょうど良いはずだ。
「ギ・ガー集落を守れ」
現在唯一のノーブル級ゴブリンであるギ・ガーを集落の守りに残す。
もし俺が不在の時に、オークが襲来した場合に備えてだ。
「ギ・ギー、一緒に来い」
獣士であるギ・ギーを伴い、他に五匹程のゴブリンを引き連れて狩りに出掛ける。
方向は東。
コボルトと人間が暮らす領域だ。
いくつか理由があるが、最も大きなものは監視体制を確立しておきたいというものだ。ゴブリン達の故郷である深淵の砦へ向かうためには、西にいるオークを片付けなければならない。
そちらの偵察も重要なのだが、西を落とすためには後背の脅威を無視するわけにはいかなかった。
先日から続くリィリィ相手の訓練は改めて俺に人間の脅威を思い出させた。本格的な人間の侵攻の前には、ゴブリンなどひとたまりもないだろう。
レシアからの情報では、今人間の世界は乱世らしいが、冒険者と呼ばれるものたちは、依然として森への侵入を試みているらしい。
そうでなくても、森から迷いでたモンスターは人間の討伐の対象だ。いつ優れた領主が現れ、森に攻めてくるか分かったものではない。あるいは冒険者を雇って森に討伐組を差し向けるか。
どちらにしろ、オークよりも脅威は大きい。動きが鈍いだけでその脅威を軽く考えてなどいられない。
だがゴブリンの主戦力を東には向けれない。オークに対抗するなら、群の全力をもってすべきだ。並みのオークですらノーブル級の力がある。1対1で対抗できるのは、俺かギ・ガーぐらいだろう。
だから、今は東にいる脅威を監視もしくは足止めする必要がある。俺達が人間に勝る力を手に入れるまで、奴等とはなるべく争わないに限る。
「前方ニ気配」
ギ・ギーの声に俺は目を細める。
「主ノ、コボルト」
獣士の中で犬を使役するゴブリンにコボルトの匂いを覚えさせ、それを追ったのだ。藪をかき分け、密生した木々を掻き分けて進めば、そこには木の根本に小さな洞穴があった。
流石に俺の体格ではその穴に入れそうもない。どうしたものかと考えていたところに、穴からコボルトが這い出してきた。
「ウゥ~ゥ」
尻尾を千切れんばかりに振って俺にすりよるコボルト。
それに餌を与える。
「仲間を呼べるか?」
「ウゥ~」
洞穴に向かって吼えるコボルト。他のゴブリンは見張りに周囲に散らせている。
ひょっこり顔を出すコボルトの数、10匹ほど。
揃って尻尾を振っている様子は、なかなかに愛らしいものがある。俺にまとわりついてこなければの話だが。
それぞれに肉を投げ与えると、そいつらに命令を下す。
「仲間を集めろ。そうすれば餌をやる」
「ナカマ、ツレテクル。エサイッパイ!」
頷くコボルトに、周りのコボルトも同様にうなずきを返す。
「行け」
俺の言葉を合図に、コボルト達は森の中へ散って行った。
「ギ・ギー、忙しくなるぞ」
周囲を警戒していた手下に声をかけて、狩りをすべくその場を後にした。
◇◆◆
鎧兎、三角猪、蛇などを狩り終えてコボルトの巣穴へ戻れば、放ったコボルトが30匹以上になって戻ってきていた。
まるで鼠算を見ているような感覚を覚えつつ、捕ってきた餌を投げ与える。
「食っていいぞ」
涎をたらしながら餌を見守るコボルト達が、俺に従属している一匹を注視する。
「ウゥ~」
その一声が合図となり、俺たちが取ってきた食料はあっという間にコボルト達の胃袋の中に納まった。
食料を食い終わったコボルトが俺の足元に擦り寄ってくる。
その頭をなでながら、簡単に役割を与えてやる。
「オークを見つけて来い。そうしたらもっと沢山の食料をやろう」
「オーク、ミツケル」
わんわんと吼えるコボルトが一斉に駆け出していく。
「良イのデすか?」
「構わん」
不思議そうに首をかしげるギ・ギーの疑問を一蹴してやる。
コボルトがどこまで従順となるか、奴等の監視はどの程度の範囲なのか、確かめるいい機会だ。
「俺たちの分の餌をとりに行くぞ」
首を垂れるゴブリンを率いて、俺は再び狩りに赴いた。
◆◇◇
「主」
ギ・ギーの声に促されて目を覚ます。
「コボルト、でス」
獣士は使役する魔獣と会話ができるらしい。
コボルトを周囲の監視に出した後、自分たちの食料をとり終えて、コボルトの巣穴の近くで短い眠りについていた俺達は、ギ・ギー達獣士の使役する獣の声で目が覚めた。
「オーク!」
ぴょんぴょんと飛び跳ねるコボルトの様子に、鋼鉄の大剣を握る。
「ギ・ギー用意はいいか?」
「はイ」
ダブルヘッドの背に乗ったギ・ギーが使役する魔獣を走らせながら返事を返す。手にした長柄の斧と相俟って、まるで戦国にいたと言う騎馬武者か、あるいは西洋の騎士のように見えなくもない。
「往くぞ」
コボルトの後を追い駆け出す。
向かった先には、コボルトを追い回すオークの姿。
夢中になっていて俺達が見えていないオーク2匹。その先頭に、大剣を叩きつける。
血しぶきを上げて倒れるオークを尻目に、檄を飛ばす。
「遠慮はいらん。やれ!」
俺の声に、ギ・ギーの使役するダブルヘッドがオークを跳ね飛ばそうと襲い掛かる。背に乗ったギ・ギーは長柄の斧を振りかぶりながら、オークに襲い掛かる。
「ピュグ!?」
寸でのところで避けたオークに向かい、ダブルヘッドの背に乗ったギ・ギーの長柄の斧がその脳天を襲う。
がぎん、と硬質な音を立ててぶつかり合う斧と棍棒。そのまま走り去るダブルヘッドとギ・ギーを追おうと背を向けるオーク。
その隙を狙うべく、他の獣士が犬をけしかけ、オークの足や手に傷を負わせる。
だがやはり決定力に欠ける。
皮膚を切り裂き、肉をえぐることはできても傷は浅く、骨まで届く一撃がないのだ。
ならば、だ。
「傷口を狙え!」
振りかぶるオークの棍棒を、俺が受け止める。
同時にその手を押さえつつ、ギ・ギー配下の獣士達に傷口を広げる攻撃を仕掛けさせた。
「ピュグゥゥウゥ!」
──馬鹿力め!
全身の力を込めてオークの動きを封じる。
だが、動き回るオークの傷口を狙う一撃はやはり致命傷にはなりにくい。
「ウゥ~!」
そこで予想外の参戦があった。
コボルト達が、手にした短剣でオークの足元を狙い始めたのだ。
「ふっ……コボルトに遅れをとるなよ!」
オークの足の小指や、つま先を狙った小さな攻撃の積み重ね。一撃離脱を繰り返し、オークの周囲を跳ね回るコボルトの様子に俺は苦笑しながら、ゴブリンに檄を飛ばす。
「グルゥゥゥ!」
コボルトの動きに奮起したのか、ゴブリンの獣士達もが前に出てオークを切り刻みはじめる。
使役するダブルヘッドの背に乗ったギ・ギーが長柄の斧を振りかぶり、オークの背に向かって一撃。その傷口めがけて、ゴブリンの獣士とコボルトが刃を突き入れる。
「ピュギィィ!」
悲鳴を上げるオークの腕を俺はがっちりと固定する。
──逃げるんじゃねェ!
オークの胸元ぎりぎりまで鍔迫り合いをしてる大剣を押し込み、オークが逃げられないように固定しつつ、直接的にはギ・ギーを中心とするゴブリン達の戦いに手は出さない。
そうして、幾多の多重攻撃の末、ゴブリンとコボルトでオークを討ち取ることができたのだった。
「全員に分け与える。好きに食え」
オークの血だまりの中で尻尾を振っているコボルト達と、ギ・ギー配下の獣士達に褒美としてオークの肉を食わせてやる。
ふと、うなり声を聞いて足元を見やる。
俺に従属したコボルトが震えているのが見えて、首根っこをつかんで引っ張りあげようとすると──。
「ウゥゥオオオン!」
高らかに叫び声をあげ、一瞬その体から光が溢れる。
──これは……。
体つきが一回り大きくなり、毛並みも随分と長くなっている。
生え揃った牙の鋭さも、地面についた爪の鋭さも以前より鋭い。
野良犬よりも、狼に近い顔つき。
まさかと思いつつ《赤蛇の眼》を発動させる。
【種族】コボルト
【レベル】1
【階級】ハイ・群れの主
【保有スキル】《大食い》《早食い》《悪食》《雑食》《疾風の一撃》《群れを呼ぶ声》
【加護】なし
【属性】なし
【従属】ゴブリン・デュークに従属
ふむ、と俺は首をかしげた。
ハイ・コボルトに階級を上げてはいるが、モンスター毎によって違うのか。
ゴブリンならレア級となるはずが、コボルトはハイとなっているのはどういった区分なのか。
首を傾げつつもわからないことは、この際おいておく。
さらに集中してスキルの解析を行う。
《疾風の一撃》
目にも留まらぬ速さで相手へ一撃を加えます。最初の一撃のみ有効です。
《群れを呼ぶ声》
率いる群れ以外の群れにも呼びかけ仲間を呼ぶことが可能です。
まぁ、早食いは見る必要もない。
「お前、群れの主だったのか?」
やはり尻尾を振りつつ俺を見上げるコボルトの傍らに座る。
「ウォン!」
こいつにも名前をやるか。犬、犬……。
「……ハス、でどうだ?」
コボルトの頭をぽんと撫でながら、反応を伺う。
「ウォン!」
目を細めて返事をするハスに切り取ったオークの肉を投げ与えれば、あっという間に骨ごと噛み砕いてしまった。
早食い、スキルか……まったく無駄なものを。
「ハス、これから東の領域はお前に任せる。人間とオークが来たら俺に知らせろ、良いな?」
「人間、オーク、知ラセる。肉くれル?」
「ああ、好きなだけやろう」
大見得を切った俺に、ハスがじゃれついてくる。
「ギ・ギー俺が不在のときはお前に任せるぞ」
「はイ。主のご指導無駄ニはシマセん」
ふむ、やはり他のゴブリンよりもギ・ギーは頭が回るらしい。俺が敢えて手を出さないことでオークの倒し方を練習させたことをコイツは理解できたらしい。
「ハス、俺が居ないときはギ・ギーを頼れ」
そろりとギ・ギーに近寄るハスにギ・ギーは無言で肉を差し出す。
その肉をぺろりと平らげて、ハスはギ・ギーの足元にじゃれついている。
節操のない奴だ。
まぁ、これでコボルトの監視能力の一端が伺えたわけだ。
後はゴブリンを鍛えあげ、対オークの戦力とできるかどうか。
まだまだ課題は山積みだな。
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【従属魔】コボルトが進化しました。
コボルトからハイ・コボルトになります。コボルトの群れへの影響力が増大します。
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