↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き天使と金色の竜眼Ⅱ  作者: 蒼空れっど
第一章 新たな学年
PR
3/12

第1話 Sクラス

 教室へ入ったアレンは、まず中を見渡した。


 すでに多くの生徒が席についている。知っている顔もあれば、ほとんど話したことのない生徒もいた。学年別対抗戦で見かけた覚えのある者もいる。


「やっぱり、結構いるな」


 隣に立ったカイルが教室の奥まで見渡した。


「うん。対抗戦で見た顔もいるね」


「だな。名前までは知らないやつも多いけど」


 カイルが軽く返し、空いている通路を進んでいく。黒板には今日から使う座席が記されていた。


「俺は……あっちか」


 カイルが指差す。


「俺はこっちだな」


 アレンも自分の名前を確認した。


 同じSクラスとはいえ、四人が近くに座るわけではないらしい。エステルは中央より少し後ろ、リリアは窓側。アレンとカイルも、それぞれ離れた席だった。


「じゃあ、また後でな」


「ああ」


 カイルと別れ、アレンは自分の席へ向かう。椅子へ座り、周りの席へ目を向けた。


 一年生の頃とは、顔ぶれが随分違う。離れた席では魔法の話が交わされ、別の一角からは一年次の試験を振り返る声が聞こえてきた。


 アレンは机に片腕を置きながら、教室の様子を眺めた。


「……悪くないかもな」


 小さく呟く。


 間もなく教室の扉が開き、それまで続いていた話し声が次第に収まっていった。入ってきた教師は教壇へ立ち、出席簿を開く。


「全員、席についてください」


 生徒たちがそれぞれの席へ戻る。アレンも姿勢を整えた。


「今日から皆さんは二年生です。すでに知っていると思いますが、この学年からは一年次の成績をもとにクラスが編成されています」


 教師の視線が教室全体を巡る。


「ここにいる皆さんは、その中でも特に高い成績を収めた生徒たちです。ただし、Sクラスに入ったこと自体が目的ではありません」


 何人かの生徒が真剣な表情で話を聞いている。


「一年生の頃より授業内容は難しくなります。実技についても、より高度な判断と応用が求められるようになります」


 アレンの口元が僅かに上がった。


 授業が難しくなるのは、むしろ歓迎したい。知らないことを覚え、できなかったことができるようになる。その感覚をアレンは嫌いではなかった。


「まず今日は、新年度の予定と授業について説明します。その前に出席を確認します」


 教師が名簿へ目を落とした。一人ずつ名前が呼ばれ、返事の声が教室に続く。


 アレンも自分の名前が呼ばれると、「はい」と答えた。


「リリア・フェルナさん」


「……はい」


 小さな声が聞こえ、アレンは窓側へ目を向けた。


 リリアは前を向いたまま座っている。返事そのものは普通で、姿勢も崩れていない。


 今朝、廊下で感じた違和感は、教室に入ってからも消えなかった。世界樹遠征で同じ合同班だった頃や、学年別対抗戦で顔を合わせた時を思い返しても、こんなに静かな印象ではなかったはずだ。


 教師の説明が再び始まり、アレンは視線を前へ戻した。


     ◇


 最初の説明が終わる頃には、教室の緊張もかなり解けていた。


 休憩に入ると、席を立つ生徒が一気に増える。去年からの知り合いを見つけて話す者もいれば、初めて同じクラスになった相手へ声を掛ける者もいる。早くも数人で輪を作っている生徒たちもいた。


「アレン」


 振り返ると、カイルが歩いてきた。


「どうだった?」


「何が?」


「Sクラス」


「まだ説明聞いただけだろ」


「それでも雰囲気くらい分かるじゃん」


「そうだな……」


 アレンは周囲を見る。


「結構楽しそうじゃない?」


「だよな」


 カイルが頷く。


「強いやつも多そうだし」


「そっち?」


「アレンだって気になってるだろ」


「まあね」


 二人で話していると、エステルもやってきた。


「アレンさん、カイル」


「エステル」


「どうした?」


「次の授業で使うものを確認しておこうかと思いまして」


「もう?」


 カイルが驚く。


「まだ休憩始まったばっかりだぞ」


「直前になって困るよりはいいと思います」


「それはそうなんだけどさ」


 三人で次の授業に必要な教材を確かめたあと、アレンは窓側へ目を向けた。


 リリアは席に座ったまま、机の上に置いた資料を見ている。周囲ではいくつもの会話が飛び交っているのに、彼女はそのどれにも加わっていなかった。


「……カイル」


「ん?」


 アレンは声を落とした。


「リリア、最近はあんな様子なの?」


 カイルの表情が変わった。ほんの一瞬だったが、アレンには分かった。


「……ああ」


 カイルもリリアの方を見る。


「前はもっと喋ってたんだけどな」


「ここ数か月、以前より静かにしていることが多いです」


 エステルも声を落として答えた。


「数か月……」


 アレンの脳裏に、学院から姿を消した少年が浮かんだ。


「……あの頃から?」


 尋ねると、カイルはすぐには答えなかった。エステルも僅かに目を伏せる。


「……ああ。いろいろあったんだ」


 カイルが静かに言った。普段の彼からは珍しい声音だった。


「詳しいことは、俺から勝手に話すことじゃないと思う」


「そうなんだ」


 アレンはそれ以上聞かなかった。本人が話していないことを、無理に聞き出すつもりはない。


「俺もエステルも、ずっと気にしてる。いつもあのままってわけじゃないんだけど……前みたいには、まだな」


 カイルが続けると、エステルも頷いた。


「話しかければ、ちゃんと返してくださいます。授業もきちんと受けています」


 アレンは再びリリアを見る。彼女が資料の頁を一枚めくった。


 そういえば、今朝からリリアが笑っているところを一度も見ていない。


「……そうなんだな」


「あんまり気を遣いすぎなくていいと思うぞ」


 カイルが言った。


「そういうの、リリアも分かるだろうし」


「そうだね」


 アレンが頷いたところで、エステルが通路へ顔を向けた。


 リリアが一枚の紙を手に、こちらへ歩いてきていた。エステルの前で足を止め、その紙を差し出す。


「……エステルの分、私のに重なってた」


「ありがとうございます、リリアさん」


 エステルは両手で受け取った。リリアは軽く頷き、そこでアレンと目が合う。


「リリア、今日から同じクラスだな。よろしく」


 リリアは一瞬だけ目を瞬かせた。


「……うん」


 それだけ答え、自分の席へ戻っていった。アレンはそれ以上引き止めず、その背中を見送る。


 次の授業の予鈴が鳴った。教室に散っていた生徒たちが、それぞれの席へ戻り始める。


「じゃ、俺も戻るわ」


「また後で」


「おう」


 カイルが自分の席へ向かい、エステルも軽く頭を下げて離れていった。


 アレンは机へ向き直り、次の授業で使う教材を取り出した。


 ほどなくして別の教師が教室へ入り、教壇へ立つ。窓から差し込む春の光の中、教師が白墨を手に取った。


 黒板へ最初の文字が書き記されていく。


 アレンは顔を上げ、その文字をまっすぐに見つめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。