第31話 集結
リムは上階を見上げて、双剣で爆丸を天井に打ち付けた。自身の爆破魔法と爆丸の合わせ技で、リーパとウナトがいる階ごと巨大な爆発が吹き飛ばす。
炎がライファロスの夜空を照らした。
ガラガラと瓦礫が降り注ぐ中、ひときわ大きい瓦礫がドスンと音を立てて落ちた。煙で視認しにくいが、布のようなものが丸まったものだった。
球がスルスルとほどけだし、ウナトとリーパが姿を見せる。
(そう上手くはいかないか)
リムが自嘲気味に口角を緩ませる。
「びっくりしたァ。火薬の類と、爆破魔法を組み合わせたのかな? あんまり効かなかったけど」
リーパがケタケタ笑いながら言う。リムの一挙手一投足を見てずっと笑っている。リムも少々頭に来ている。
「てかさ、でっかいね。女だよね? 結構筋肉質だねぇ、上背もあるし羨ましいよ」
「大事な人を守るために鍛えた結果だ」
「ウチだって大事な人を守るために強くなりたかったなぁ。でも無理だった」
リーパがウナトの頭をなでる。
「経験したことある? 目の前で大事な人がいたぶられるのを黙って見てるしかない状況。ウチはウナトが人と違うってだけで虐げられてんのがすっごいむかついたワケ。お前みたいに小奇麗で何不自由なく生活してるやつがどうしようもなくむかつくワケ。そういう奴しかウナトを虐げてたからァ!」
「同情はできないな。君達が人間であった時にどれだけつらい思いをしていようと、それが人を傷つけていい理由にはならない......」
リムがそこまで言った時、突然眩暈に襲われ、剣を床に突き立てた。
(これは......いったい)
「ん? ああ、やっぱ効くよねぇ」
リーパが鎌の刃を舐める。
「これウチの身体の組織で創ってあるんだ。斬るとウチの血が体内に入るっぽいんだよねぇ......ぶはは、汗ヤバ!」
リムの額に光る大粒の脂汗を見たリーパがのけぞって大笑いする。
「あー、無理しなくていいよ。聖騎士サマも毒は効いちゃうよねぇ。苦しいの耐えられないなら一思いに腹搔っ捌いてあげるからァ! 殺してくださいって言ってぇ!」
だがリムは双剣を構えると、血走った目で叫ぶ。
「全っ然効いてないね! お前も姉貴に頼りっきりな包帯も斬ってやるよ!」
半分煽り、半分自身を鼓舞するような言葉と共に、リムが二人のもとへ突っ込む。
ウナトが後ろに回り込んで包帯を伸ばす。
「ウナト、後ろに行かないで!」
リーパが叫んだ瞬間、リムが爆丸をばら撒いた。
(また爆弾、芸がないなぁ)
リーパは敢えて爆丸を斬らずに避けた。一方のウナトは思いっきり爆丸を迎撃して大爆発に巻き込まれた。
リムは黒煙を双剣で一閃すると、リーパの方を向く。
(あのバカ、攻撃くらって首落とされてんじゃん。あんま世話焼かせないでー)
リーパが呆れながら後退するが、刃はその首筋に届いていた。
(は? 刀身が伸び......こいつ!)
リーパが目を見張る。リムが刃先を持ってこちらに剣を振っていたのだ。
本来なら届くはずもない距離。だが、鎖で繋がった双剣を一直線にすれば距離の制約は突破される。
「どんな握力してんの......!」
鎌で剣を弾いたリーパが若干慄く。首筋からツーと血が垂れる。
「こっちは仕留めそこなったか......!」
リムが悔し気に吐き捨てる。
「ちくしょう! なんで俺ばっか攻撃くらうんだよぉ!」
首を繋げながらウナトが絶叫する。
酒場から走って退避していたスイレンは逃げ惑う人々の流れをかき分けてこちらに向かってくるイヅナの姿を目にした。
「スイレン! 何やってるの⁉ 壺は?」
「そ、それが......」
スイレンが言葉を詰まらせた。目から大粒の涙が流れる。
「魔の姉弟が復活しちゃった! 人もいっぱい死んじゃった、私がヘマしたせいで!」
「ちょ、ちょっと落ち着いて」
イヅナが慌ててスイレンをなだめる。
「関係ない人がいっぱい死んじゃった、どうしよう」
「どうにもならないわ。今魔の姉弟はどこにいるの?」
「い、今リムさんが戦ってる」
「さっきの爆発があったところ?」
イヅナが聞くと、スイレンはこくりと頷く。
「てか、怪我もひどいし......」
「包帯の男にやられちゃったの」
イヅナが袖を破いて紐を作る。それを見たスイレンが慌てる。
「傷じゃなくて」
スイレンが刀を握る。といっても大した力は入らない。肩の怪我は治っておらず、その影響はスイレンの身体に深く刻まれている。
「手と柄を縛ってほしい」
「え、その怪我で戦うの? やめときなって!」
イヅナが猛反対するが、スイレンは強く言い返す。
「殺された人たちの仇を取らなきゃダメなの! 私のせいで死んだ人たちに、魔の姉弟を倒して償わなきゃいけないの!」
「......分かったよ!」
スイレンの剣幕に抗えなかったイヅナがスイレンの手と柄を縛り付ける。懐から液体の入った瓶を取り出すと、それを肩の傷に振りかけてやる。
「再生薬よ。量少ないから完治とまではいかないけど、十分に戦えるはずだよ」
肩の傷が少しずつ塞がっていくのを感じる。イヅナの言う通り、
「ありがとう、姉さん」
「ちなみに、今使ったので最後だから。絶対に怪我しないでよ」
「うん。行こう!」
スイレンとイヅナが酒場へと走る。その上空をエレナが飛んでいた。
(スイレンちゃんとイヅナちゃん、あの子たちも爆発の所へ行くのね)
眼下を走る二人を見ながら、エレナは冷や汗が吹き出すのを感じていた。
「とんでもない魔力を感じる......いったい何が起きてるんです......?」
リムとリーパは互いに武器を構えたまま膠着状態に陥っていた。互いに仕掛ける隙を見出せない状況、焦燥感だけがつのっていく。
「ねぇ、今度はこっちから仕掛けていいでしょ? さっき君からだったし」
リーパが鎌を回しながら言う。表情は笑顔だが、額に青筋が浮かんでいる。
(何故か包帯の男は攻撃してこない。何でだ? ずっとリーパだけが攻撃を仕掛けてくる)
「ねぇ、何とか言ったらどうなの? せっかくすぐに殺さないで喋る機会をあげたんだからさァ」
黙りこくるリムにリーパが煽るような言葉をかける。
「そんなこと、できっこないよ!」
誰かが酒場の扉を蹴破って飛び込んできた。
「イ、イヅナ!?」
驚くリムの横の窓を突き破ってエレナも飛び込んでくる。
「え、エレナ、なんだその恰好は」
そしてリムの前に一人の少女が降り立つ。
「スイレン、逃げろって言っただろ」
「ごめんなさい、リムさん。でも逃げちゃダメなんです」
スイレンが力強く言うのを聞いて、リムがため息をつく。
「まったく、スイレン、イヅナ、エレナ、死ぬんじゃないぞ!」
「うん!」
「はい!」
「了解です!」
スイレンとイヅナはともかく、エレナが黒づくめでここに来たことに疑問はあるものの、リムは目の前の敵に意識を集中させる。
「へぇ、揃いも揃って死にに来たんだ。わざわざウチらが探す手間が省けて良かったよ」
リーパが身体を揺らしながら腰を落とす。
「昔もこんな感じのあったよねぇ」
「ああ、覚えてるぜ姉貴! あんときは全員男だったけどよ、この真っ暗な中で切り刻んでやったよなぁ。だからテメェらもここで死ね!」
ウナトがリムに向かって包帯を伸ばした。次の瞬間、部屋を青白い光と雷鳴が満たした。まるで稲妻のようにウナトに迫ったイヅナが天井をぶち破る勢いで飛び上がった。
膠着状態は一瞬、二人はすぐに離れてとなりの屋根に降り立つ。
「妹が随分と世話になったみたいね」
「何言って......ああ、あの剣士のガキの知り合いか? あんまり強くなかったなぁ、お前もそうなんだろ?」
「やってみなきゃ分かんないよ!」
イヅナの刀から稲妻が迸る。
「私はイヅナさんの援護に行きます。そいつはお二人に任せます!」
「待てエレナ! 危険だから......」
「私だって戦えます!」
リムが止めようとしたが、エレナは聞く耳を持たないで外へ出てしまった。
「ウチの相手は二人か。なかなか骨がありそうじゃん」
リーパの顔から笑みが消える。
そこから放たれる圧にスイレンが生唾を飲み込む。
(目の前の、恐らく姉のほう。次元が違う、弟の方とはまるで......)
リーパがスイレンとの距離を詰めて鎌を振り上げる。鋭い刃先がスイレンの顎に迫る。
(......っ! のけぞれのけぞれ、戻ってきたなら足手まといにならないように......!)
スイレンがのけぞるより速く、リムがスイレンを後ろに投げ飛ばす、と同時にリーパと激しく斬りあう。
転がったスイレンはすぐに体を起こしてリムの援護に入ろうとした。
だが......。
(まったく入り込む隙がない。それに......)
空を切る音が鳴ったかと思いきや、天井を突き破って包帯が降り注ぐ。
「なっ」
スイレンが間一髪、刀で攻撃を受ける。リムも焦りの表情を隠せない。
(ただでさえ変則的で速い攻撃に加えて包帯の援護まで、手が回らん!)
リムが爆丸をばら撒く。大爆発が包帯を吹っ飛ばす。が、煙を斬り裂くようにリーパが躍り出る。
「死んでぇ!」
激しい斬撃がリムをその場に釘付けにする。リーパの鎌から飛ばされた液体が斬撃へと変化、リムの背中を斬り裂かんと迫る。
(逃げ道がない!)
「ぐうっ!」
咄嗟にスイレンが斬撃を受け止める。
(重い、刀が折れるっ!)
一瞬の判断でスイレンは斬撃を弾くことから受け流す方へ注力した。斬撃がリムの頭上をかすめていく。
「飛爆連斬!」
爆発を伴った連続斬りでリムが攻勢をかける。爆発が壁を砕き、夜空を花火のごとく照らす。
「騒がしい技でごり押したって意味ないんだよ!」
リーパが一層激しく鎌を振るう。
一方のエレナとイヅナはウナトに対して攻めあぐねていた。
(四方八方から迫る包帯、捉えにくいし、刃も通りにくい。加えて青い斬撃も飛んでくる。こちらは当たったら終わりなのが肌勘で分かる)
包帯を二振りの包丁で弾きながらエレナはイヅナの方を見る。イヅナも技を繰り出してウナトに接近しようとするが、やはり包帯の攻撃に足止めされている。
「エレナさん、だよね⁉ どうするの!」
見慣れない姿のエレナにイヅナが若干戸惑いながら訊ねる。
「暴れて!」
エレナの出した指示は至極シンプル。
「分かった!」
イヅナがその指示通り大暴れする。
「雷霆万鈞!」
稲妻を伴った刃と雷鳴が空気を激しく揺るがす。
「うるっせぇな!」
ウナトが耳を塞ぎながらイヅナを仕留めようと包帯を打ちつける。
エレナがその隙をついて、建物から飛び降りる。そして魔糸鉱石でウナトの真後ろに躍り出る。
(とった!)
エレナがウナトの首に迫る。
「はあああ!」
エレナが二振りの包丁を振った。ウナトの首がぶちッとちぎれた。
「やった!」
イヅナが歓喜の声を上げるが......。
「......攻撃の手が緩まない!?」
エレナが驚愕する。自分の手で首を刎ねたはずのウナトが包帯の攻撃をやめる気配がないのだ。
包帯が一本地面に伸び、ウナトの首を持ち上げる。
「ハハハハハ! 首斬ったぐらいで死ぬと思ったか⁉ ぬか喜びもいいところだなぁ!」
「首斬ったぐらい? 普通首斬ったら死ぬんですよ......!」
エレナが着地と同時に繰り出された包帯を避けながら呟く。
「不死身? 打つ手なしじゃん!」
イヅナが悲痛な声を上げる。全身が切り傷だらけになっているのか、血まみれになっている。
「人間が魔に勝てるわけねぇだろ! ンなことも分からねぇのか⁉」
ウナトがさらに包帯の数を増やす。
「気になることが」
「え?」
「リム様が戦っている姉の方をやたらと気にかけています。少し観察したくて」
「......何か分かりそうなんだね?」
イヅナの問いかけにエレナはこくりと頷く。
「何か企んでんのか? 無駄なことを」
ウナトも攻撃を再開する。
エレナとイヅナも各々の武器を手に、包帯に、ウナトに立ち向かう。




