第30話 R.S.I.E.K
ルプシィの脚から紫電が迸る。
「そう上手くはいかないぞ」
ミカも魔力を手に込め、魔法発動の準備をする。
「しゃあっ!」
ルプシィが地を蹴り、ミカに肉薄する。強烈な前蹴りをミカは土壁を生成してガードした。
「んなもんが通用するかァ!」
ルプシィの言葉通り、土壁はあっけなく砕けた。
「良い目隠しにはなる」
木の上に退避したミカが氷魔法で巨大な氷柱を射出する。
「ちっ、冷たいのは嫌いなんだよ」
高速で飛んでくる氷柱を磨き上げられた格闘技術で砕く。
(どっから氷を持ってきた? あいつが水を持ってるのか......にしては質量も、数もおかしい)
次々と飛来する氷柱にルプシィが受けきれずに、回避行動をとる。
視界の端に、ミカの周りから氷柱が発生しているのが見えた。
(水蒸気か? 或いは無から氷を......?)
首を振って今しがた浮かんだ考えを振り払う。
「私の目の前にいるのは......相当腕の立つ魔法使い、いや魔導士か」
ルプシィが雷を伴った回し蹴りで氷柱を全て砕く。その隙をついたミカが創樹魔法と伸縮魔法の組み合わせでルプシィの両脚を縛り上げた。
ウルと対峙した際は使用不可能であったが、男体化への適応、度重なる魔法の使用によって、規模は小さいものの、魔法を組み合わせて使用することが可能となっていた。
(やっぱ、出力が笑えないほど落ちてるな。とはいえ細かい操作が効くようになってきたのは喜ぶべきだな)
「おい、もう勝負は決したか?」
ルプシィがニヤッと笑うと、全身が紫色の稲妻に包まれた。脚を縛る樹が燃える。
「まだまだこっからだぜぇ!」
ルプシィの姿が消えた。かと思いきや、ミカの周りで紫の閃光がぐるぐると回りだす。
「そりゃ、終わったとは思わねぇよ」
ミカが周りの地面を少し隆起させ、ルプシィの脚を乱そうとする。だが紫の閃光は一向にスピードを落とさない。ずっとバチバチという音がミカの周りを駆けまわっている。
(効いてないな......足音がしてない。こいつちょっと浮いてんのか?)
土埃が舞ったかと思うと、強烈なキックがミカの眼前に迫っていた。
「あっぶね!」
紙一重でミカが避ける。耳にかすったのか、ヒリヒリしている。
また周囲を閃光が駆ける。
(さっきの土埃......こっちに攻撃仕掛けるときは地面を蹴ってるんだろうな。じゃあ)
ミカが地面に手をついて魔法を発動する。今度は地面が隆起させるのではなく、その逆。地面を陥没させた。しかもミカ自身へ一本の道を残して。
ミカの予想どおり、ルプシィがその道筋で蹴りを入れてくる。
「衝撃反転!」
ミカが衝撃を反転する魔法の障壁を即座に展開、ルプシィを吹き飛ばして樹に叩きつけた。反転した衝撃は凄まじく、大きな地響きが起きるほどであった。
「......ははは、ほんの手加減さ。今のは」
ルプシィが笑いながら地面に降り立つ。口調はまだ余裕さを感じさせる。
「まともにくらっておいてよく言うぜ」
「......その減らず口、いつまで持つかな」
ルプシィはそう言うと四つん這いになった。
「があああああああ!」
ルプシィの魔力が膨れ上がり、身体が黒い体毛に覆われていく。ふさふさだった黒い尻尾も雷を纏って激しく逆立っている。顔面も獣のように変化、鋭い牙が覗いている。
身体の大きさも人間態と比べて五倍ほど巨大化している。
「まるで狼だな」
ミカが衝撃反転の障壁を両手に展開して構える。
「グルルルル!」
真っ青な稲妻が迸る。
カロッゾはジョシュのラボでソファに座っていた。時折響く轟音にシャルルが耳を塞ぐ。
「ちっ、上でなにが起きてるんだ」
カロッゾが天井を見上げて舌打ちする。たまに振動で天井から埃が落ちてきてカロッゾに降りかかる。それがカロッゾのフラストレーションを高めていた。
そんな時、慌ただしい足音が聞こえてきた。
「今度はなんだ......」
「カロッゾさーん! 大変なことになったっす!」
ジョシュが血相を変えてこちらに走ってきていた。途中で足を滑らせて下水に落ちたりしながらカロッゾの前に立つ。
「な、なんだよ。リムはどうした?」
鼻をつまんだカロッゾが訊ねる。
「それが、大変なことに......」
「それは分かってる!」
「多分ですけど、魔の姉弟が復活したっす!」
ジョシュの言葉にカロッゾが啞然とする。
「それは......本当か?」
「壺の蓋が開いてたし、人も死んでたんで」
「くそっ! リムの奴、ライファロスを壊滅させる気か⁉」
「多分戦いは始まってるっすよ」
「どうしたものか」
カロッゾが思案する。
「大丈夫? 怖くない?」
シャルルがカロッゾにすがりつく。カロッゾはシャルルの頭を撫でながら、落ち着かせるように言い聞かせる。
「大丈夫だ。何があってもシャルルを守るから」
「ひとまずここで待機してていいんすか?」
「魔の姉弟とやりあうんなら、ここにもかなりの影響が出る。いっそのことここを出て、地上に行く方が安全かもしれん」
「え? 外は魔の姉弟どころか暗部もいるんじゃ」
「魔の姉弟を無視なんかできるか。敵味方全員で魔の姉弟にかからないと勝てないぞ」
「ええ、そんなに? 一旦見てみましょ! 見もしないでビビるのもばからしいじゃないっすか」
「お前なぁ」
難色を示すカロッゾであったが、実のところ彼女も自分自身の魔に対する恐怖に思うところがあった。
無意識に初代と自分を重ねて比較し、勝手に落ち込んでいる自分。聖女でもないリムが魔の姉弟に挑むこと。恐らく魔の首魁マルカに挑もうとしている現聖女のミケーネ。
(何であたしは初代と自分を重ねていたんだ? こんな傲慢なこと......)
一際大きな爆発音が鳴り、下水道が大きく揺れる。
酒場の二、三階が吹っ飛ぶほどの爆発は繁華街付近で陽動をかけていたイヅナ達、間もなく繁華街に到着しようとしていたアイーダとエレナからも視認できた。
「ちょ、今の見た!?」
「はい......アイーダはイヅナさんとの合流を急いでください。私はさっきの爆発の方へ!」
「呼び捨てしてくれたね!」
「ご、ごめんなさい」
「いいのよ、ありがと! イヅナはこっちに任せて!」
「はい!」
エレナが進路を変更する。
一方のイヅナは、仲間達と先ほどの爆発にどう対応するか話していた。
「今のやばくない? スイレンが何かに巻き込まれたとか?」
「どうするんだ? 暗部は手強い、もたもたしてるとやられるぞ」
「いっそ森の陽動部隊をこっちに戻すとか?」
「ノーディスさん、念話魔法を完全に遮断してて、連絡できないよ」
「傍受対策か? どうしたもんか」
「私、スイレンが心配だし、行って来る」
イヅナが走り出す。その背中に仲間が声をかける。
「今更だけど、無理するなよ!」
魔の姉弟のもとに引き寄せられていく戦士たち。望む結果は違えど目的は同じ、魔の赫眼を手に入れるため。
そして、魔の姉弟とリムの戦闘も激化していく。




