第32話 崩壊
カロッゾ達は下水道を出てトンネル抜け、街に戻った。物凄い喧騒に街が包まれていることに驚きを隠せない。
「これは一体......」
啞然とするカロッゾに男性が声をかける。
「あんたら、何やってんだそこで! 子供がいるんならさっさと逃げた方が良い!」
「向こうにバケモンが出たんだ! 死人も出てるらしい!」
その言葉にカロッゾの血の気が引いていく。
「騎士か!?」
「俺はパン屋だ!」
「あんたの職業じゃない! 死んだ奴は騎士だったかと聞いてるんだ!」
「民間人だって聞いてる! そんなこと聞いてどうすんだぁ!?」
カロッゾが半ば安堵する。
(リムが死んだわけではなかったか)
その時、夜空に爆発が線状に閃いた。轟音が人々のパニックを煽る。
カロッゾは空から降ってくる邪悪な気配に気が付いた。
「くそっ! あたしの判断ミスだ! ジョシュ、シャルルを連れて古城まで行け!」
ジョシュがシャルルを抱えてトンネルに戻ろうとしたとき、その目の前にリムが吹っ飛ばされてきた。
咄嗟にカロッゾはジョシュとシャルルを抱えてトンネルの上に飛び上がった。
「くっそ、上手くいかない。ここまできたら知らぬ存ぜぬでは通らないな」
脚をさすりながらカロッゾが呟く。
その下で、リムは立ち上がった。先ほど戦っていた地点からここまでリーパに吹っ飛ばされていた。
「君頑丈だねぇ! 人間と戦ってる感じがしないよ」
リムの前方に降り立ったリーパが手を叩いて笑う。
「そりゃどうも」
「ちょっと怒ってる? ま、何でもいいや。ウナトも近くに来てるみたいだし」
リーパの言う通り、布がしなる音が聞こえている。
「そっちから来なよ」
「後悔するなよ!」
リムが駆けだし、リーパが迎え撃とうとするその瞬間、トンネルの上にカロッゾが躍り出た。
(ん? 誰......聖の力!? こいつとは比べものにならない!)
リムとはけた違いの聖の力を持つ女にリーパが驚愕する。
「大人しくしろ!」
カロッゾはそう言うと、指から聖の力を持つ矢をいくつも発射した。
(あれをくらうのはマズイな。てか目の前のこいつにも矢が刺さるじゃん)
自身に迫る矢をリーパが技を出して弾き墜とす。
「天蓋斬囲」
無数の斬撃がリーパを覆いつくし、矢をひとつ残らずはたきおとす。
「えぇ? 自分に刺さってんじゃん」
突き刺さる矢をものともせずにリムがリーパに肉薄し、両脚を薙ぎ払った。
「やっとまともに......がっ!」
首元に刺さった矢を見てリーパが焦る。
(時間差で......! 尋常じゃない痺れだ、脚が再生できない!)
さらに後ろから駆けてくる足音が聞こえる。
「狙え、スイレン!」
リムが叫ぶ。
全速力で駆けてきたスイレンがリーパの首に渾身のひと振りをお見舞いする。
(いけるか?)
カロッゾが期待を込めて顛末を見守る。
「うおおおおおお!」
スイレンの刃が首に迫る。
それとほぼ同じタイミング、ウナトとエレナ、イヅナも近くまできていた。
「イヅナさん!」
エレナが叫ぶ。イヅナもエレナの視線の先を見て叫び返す。
「スイレンが首を斬る!」
「姉貴ィ!」
ウナトがリーパの方へ包帯を伸ばすが、イヅナが超スピードでそれをはじいた。
「そんなに斬られたくない? 姉の首が」
「あなたは首を斬られても死なないんですよね。避ける必要はない。でも避けてるし、姉を援護するのは決まって彼女の首に刃が迫った時」
エレナは戦いの中でウナトの動きを観察していた。
「恐らく姉の首を刎ねる、というか殺せばあなたも死ぬんでしょう?」
「......」
エレナの言葉にウナトは何も返さない。
ただ、少し攻撃の手が速くなる。
「こうげきが速くなった、図星かな!」
イヅナが言ったとき、ウナトが口を開いた。
「そう思ってるうちは、俺たちに勝てねぇぞ」
それを聞いたエレナの瞳にひとつの確信が宿る。
「うおおおおおお!」
刃を振るスイレンの方を向いたリーパが彼女に笑いかける。
「千載一遇を逃さないその運、ウチそういうの大好きなんだよ!」
鎌を首元に持っていき、渾身の一振りを受ける。甲高い音が響き、火花が舞い散った。
「ウナトとやりあってた時より聖の力が増してるねぇ」
「ぐっ!」
渾身の一振りを止められた程度では止まらない。スイレンは鎌ごと斬り裂く勢いで力を籠める。
「ふっ!」
後ろからリムも援護に入る。
その刃すらも反対の鎌で受けられる。
(なんて力......!)
片方の剣で首を突こうとするが、リーパが首を真後ろにひねって刃先に嚙みつく。
(はあ⁉ 首どうなってんだ⁉)
リムが啞然とする。
「ちぃっ、ヘマしやがったな。ジョシュ......」
続く判断ミスに一瞬躊躇するが、覚悟を決めて指示を出す。
「あいつはここで倒す。少し離れたところで待機してろ。あたしが絶対に迎えに行くから」
「分かりました。シャルル、行こう」
ジョシュがシャルルの手を引いて走っていく。
それを見届けると、カロッゾはリーパの側面に回った。
(このまま頭を撃ち抜けば......!)
カロッゾがリーパの頭に指を向ける。
「キャハハ! 一網打尽になっちゃうね!」
鎌から円環状の斬撃が湧き出る。激しい力を伴ったそれは空気すらも巻き上げる。
リムが離れながら叫ぶ。
「離れろ! 斬撃がくるぞぉ!」
悲痛さが伴った叫びは全員に届いた。
「そんなっ!」
「くそったれ!」
三人が咄嗟にリーパから距離を取る。
が、遅かった。
「じゃあね」
リーパから無数の斬撃が爆発的な勢いで放たれた。それは街、人、進路上にある全てを斬り裂き、上空に舞い上がった斬撃も死の雨となって市街地と森に降り注いだ。
探り探りの戦闘が続いていたミカとルプシィだが、突如として尋常でない轟音、そして降り注ぐ斬撃に戦闘を中断して対応せざるを得なくなった。
「これもお前の魔法か?」
「知らん......絶対触れるなよ! 下手すりゃ即死だ!」
僅かな時間で解析魔法を発動したミカが驚愕する。
あちこちに着弾しているのだろうか、木の倒れる轟音、斬撃をくらったであろう人間の悲鳴が響いてくる。
「じゃあ、一体何なんだよ! さっきの攻撃は!?」
ルプシィが頭をかかえながら怒鳴る。
「ルプシィ!」
森の奥から別の暗部員が魔糸鉱石でルプシィの所へ飛んできた。
「ルプシィ!」
「アダント、状況は!?」
「最悪だ! 固まってた暗部員は青い斬撃に巻き込まれて全滅。襲撃犯も同じだ。無差別にやりやがった!」
アダントの言葉にミカが驚く。
「暗部がやられたのか? 攻撃の出どころは?」
「つかめてるわけないだろ! くそっ、第三者からの攻撃が来るなんて」
アダントが悔しそうな声を漏らす。
「なあ、なんで街の方が明るくなってる?」
ルプシィが森の向こう、明るくなっている空を見て呟く。
「......嫌な予感がする。街に戻った方がいい」
「同感だよ。絶対面倒なことが起きてる」
ミカとルプシィの意見が一致する。敵対してはいるが、埒外の事象に対処するためには、即時の協力関係を渋る理由はない。
ミカとアダントを背に乗せたルプシィが森を疾走する。




