第28話 激憤
森に入ったミカは突如として隆起した地面に脚を取られてすっころんだ。
「ノーディスか? あいつ味方がいるところで!?」
ミカが思わず叫ぶが、すぐ後ろにいたノヴァクが笑いながら言う。
「あの人はそういうところあるので! こっちも派手にやっちゃいましょう!」
「分かった。二手に分かれるぞ、いいか?」
「了解!」
ミカはノヴァクと別れて森を駆けだした。
「止まれ!」
武装した兵士が二名、こちらに向かって呼びかける。
「いた、大人しくしててくれ!」
ミカがあたりを一瞬で凍らせる。草花に霜がおりる。
「暴れるっつても、人死にが出るのはまずいだろうし。適当に凍らせていくか」
一方のルプシィは突如隆起した地面を見て察した。
「襲撃か」
こちらに向かって何本もの魔法の矢が飛んでくる。
「前に出るぞ、援護頼む」
「任せろ」
ルプシィが木から飛び降りながら、雷をまとった蹴りを繰り出す。
「雷撃脚!」
破壊的な威力をもった雷撃は木々をなぎ倒し、燃やしながら爆発した。
煙の中からナイフを持った男が飛び出してくる。
「そりゃ悪手だろ」
ルプシィが嗤った瞬間、光線が男の胸を貫いた。
木の上から暗部員がルプシィに声をかける。
「魔力の反応的にこの辺りに二つ、馬鹿でかい魔力の反応がある。お前以外じゃ荷が重い」
「あんたも感じてた? じゃそっち行ってくるわ。一応死ぬな、とは言っとく」
「こっちの台詞だ」
暗部員が呆れたように吐き捨てた。
「よし、私達も陽動を開始するよ!」
イヅナがそう言うと、宿に残っていたノーディスの仲間たちが一斉に動き出す。目標は街を飛び回っている暗部員。すでに暗部員の情報は伝えられている。
刀の柄に手をかけながらイヅナは真上を飛んで行った暗部員を発見した。
(腰から糸、速い速度で飛んでる。あれが暗部ね)
「おーい! そこの暗部ーっ! 誰探してんだーっ!」
イヅナの呼びかけに、暗部員が振り返る。
「な、あいつ......何者だ!」
暗部員がこちらにとんぼ返りしたのを見てイヅナは技の構えをとる。
(殺さないよう、峰打ちで)
鞘と鍔の隙間から稲妻が迸る。
「春雷!」
一瞬、目のくらむような閃光が走り、イヅナが空へと飛び上がった。地を蹴る音はまるで雷のように周囲に響き渡った。
イヅナの居合をくらった暗部員が気絶して地面に墜ちていく。
雷のような音にエレナとアイーダがハッとする。
「雷の音......イヅナかしら」
アイーダが窓から外の様子を伺う。一瞬、外が閃光に包まれた。
「まぶしっ! やっぱイヅナね。あの子クラーケンと戦ってる時も雷みたいな技使ってたから」
アイーダが魔法銃を肩にかけ、腰の魔糸鉱石を確認する。
「そろそろ行きますか」
エレナが身体を伸ばしながら言う。アイーダは頷くと、ドアを開けた。
イヅナ達はかなり派手に暴れているようで、至る所から爆発音や、雷鳴が響いている。
アイーダとエレナが魔糸鉱石で空中を移動する。
「ひとまずイヅナと合流しよう! 状況を確認するのが先決!」
「ええ、どうやらかなりの混戦のようですし」
アイーダとエレナが全速力で雷鳴の方に飛ぶさなか、暗部員が躍り込んでくる。
「見つけた、裏切り者だ!」
暗部員がナイフを構える。
「くっ」
エレナが応戦の構えをとるが、アイーダが容赦なく魔法銃をぶっ放す。
「ぐあっ!」
暗部員が真っ逆さまに落ちていく。
「......容赦なくなったわね」
「相手は本気で殺しに来てるんだから、手加減する理由なんてないでしょ───別に平気な訳じゃないんだからね!」
「わ、分かってますよ。なるべく接敵しないように気を付けましょう」
アイーダとエレナが高度を少し落として移動する。
ウナトの包帯攻撃にスイレンは苦戦を強いられていた。一度に多方向からの攻撃を防ぐのが手一杯で攻めにまで意識が回らない。刀を振り、包帯に打ち付けるたびに火花が散る。
ウナトは愉しそうな表情を浮かべて攻撃の速度を速める。
「くっ」
死角から放たれる一撃をいなすと、スイレンは大きく息を吸い込んだ。
「水滴......」
地面を強く踏み込んで一気にウナトの間合いに入り込み、刀を突き出す。
「石穿!」
突きが真っ直ぐウナトを捉えた、かと思いきや包帯を何重にも重ねて防御される。
引き抜いて距離を取ろうとするも食い込んでびくともしない。
「ぬ、抜けない......!」
「ヒャハハ!」
ウナトが重ねた包帯を振り回してスイレンを民家に叩きつける。
「ぐはっ!」
スイレンが地面に落ちる。荒く息をつきながら顔を上げる。
ウナトは攻撃の手を緩めない。上から何本もの包帯が降ってくる。
スイレンは飛び起きると、包帯を打ち払いながら後退する。
(できるだけ人の少ないところに......民間人を庇う余裕なんて......!)
真正面に伸びてきた包帯を刃で受けたスイレンはまたも後方に弾き飛ばされた。
「なかなかしぶといなぁ、お前。いいツラするしなぁ。封印解けてよかったぜ」
「はあっ、はあっ」
スイレンが息を整えながらウナトを睨む。
「なんで殺した!」
「ああ?」
「広間にいた人たちを殺したでしょ! そんなことする必要はなかったはず!」
スイレンが怒気をはらませながら言う。
「必要とか、そんなんじゃねぇよ。やりたいようにやる、それだけだ」
「そんな理由で......!」
ウナトの答えにスイレンは怒りで震える。
「あの人たちにも大切な人がいたかもしれないのに! なんで平気な顔をして奪えるの!」
「俺だって人間に奪われたんだぜ。人間がやって魔がやっちゃいけないなんて道理が通じるのかぁ!?」
「何を言って───」
「おい、今何時だと思ってるんだ! うるさいぞ!」
民家から男性が出てくる。あたりは既に真っ暗。繁華街でもなければ、もう開いている商店もない。家族で憩いの時間を過ごしていたのだろう。それに冷や水をぶっかけるような怒鳴りあいが聞こえれば、文句の一つも言いたくなるだろう。
他の民家からも何人か顔を覗かせる。それを見たウナトが口角を吊り上げる。
「ごちゃごちゃうるせぇ!」
包帯が激しく揺らめく。
何が起きるか察したスイレンが絶叫した。
「やめろぉぉぉぉ!」
無数の包帯による斬撃が周囲一帯に甚大な被害を与えた。民家が崩れ、人々の悲鳴が澄み渡った夜空に響いた。
「あーあ、雑魚なんか庇うから」
ウナトが笑いながらスイレンを煽る。
スイレンの足元に血だまりが出来ている。その後ろには右手首を斬り飛ばされた男性がうずくまっている。
スイレン自身も左肩をバッサリと斬られ、身体のあちこちに切り傷を受けていた。
「弱きを庇うのが......強き者の性分でしょう」
「それで死んだら意味ねぇよ。にしても」
ウナトが凄惨な光景を見渡す。
「面白れぇな! 人間が泣いて喚いて! 血まみれで!」
「......何が面白い」
「わっかんねぇ! 無性に腹がくすぐったいだけだぁ」
「......人の痛みが分からないのか」
「分からない。俺人じゃねぇし。俺より弱いくせに俺の機嫌損ねたのが悪い」
スイレンの後ろにいた男性が傷を押さえながら立ち上がった。
「生き残った人を連れて逃げてください」
「わ、分かった。でも君は......」
「あいつを殺します」
スイレンの言葉にウナトがプッと吹き出す。
「お前、出血し過ぎで死ぬぞ? もう諦めろ」
ウナトはそう言うと、無事だった民家の屋根に登って、次のターゲットを探し出す。時折聞こえる雷鳴が、ウナトの興味を惹いた。
「次はゴロゴロうるせえ奴を」
音の方に飛ぼうとした瞬間、脚を掴まれる。
「なっ!」
ウナトが後ろを向くと、スイレンが脚をものすごい力で掴み、刀を振りかぶっていた。
「ちぃっ!」
ウナトは掴まれた脚を自ら切断すると、首に迫る刃を避けながら、後ろに後退する。
(こいつ、なんで動けてる? いやに雰囲気が変わったな......)
ウナトが目の前に立つスイレンを凝視する。柄を強く握りしめているのか、ギシギシと、歯ぎしりのような音が聞こえる。
「強い力を持ったのなら、その使い方を間違えてはいけない義務がある」
「なら大丈夫だな。強い奴が、強さこそが絶対だからなぁ! 俺だけが正解ってことだよなぁ!」
ウナトが答えると、スイレンの額に青筋が浮く。
「もういい。話しても無駄みたいだ」
スイレンが刀を構える。




