第26話 作戦開始
昼頃、ミカはノーディスに呼び出された。
「今日、作戦を決行するよ」
「だろうな」
「本当はパーティ中に押し入って壺を強奪するつもりだったんだけれど、暗部の警備が強まりそうでね。一人が潜入、一班が古城近くで陽動、さらに別のもう一班が市街地で陽動をかける」
「二重か。作戦完了の合図は?」
ミカが訊ねると、ノーディスは拳銃のような見た目のようなものをスイレンに投げて渡した。
「信号弾。こちらで設定した線を越えたら発射してほしい。最近のライファロスは日の入りが早いからすぐ真っ暗になるけど、これなら見えると思う」
「......私がですか?」
スイレンが目をぱちくりさせる。当然、彼女は自分がここまで重要な役割を持たされるとは微塵も思っていなかったのである。
「戦闘能力、信頼、色々考慮した結果だ。期待しているよ」
「え、ええええ⁉」
スイレンが焦りながらミカの方を見る。だがミカはただ肩をすくめるだけだった。
「私は何すればいいの?」
イヅナが首を傾げる。
「市街地での陽動だね。暗部員を引き付けて時間を稼ぐこと。ミカや僕を含めた精鋭班は古城近くで暗部を引き付けるよ」
「暗部が一番の障壁だな」
「ああ。ここを野放しにするとこっちが大損害を被ってしまうからね。徹底的に向こうの戦力を分散させる。それがこの作戦における必要条件でもある」
さらにノーディスが言葉を続ける。
「信号弾の発射が確認できたら、隠密に特化した班以外はライファロスから撤退する」
「置き去りか。いい気分じゃないな」
「でも優秀だよ。この作戦で失うには惜しすぎるぐらいにね」
ノーディスが微笑む。
「僕の呼びかけに集まってくれた優秀なみんなには感謝してもしきれない」
「んで、作戦の開始時刻は?」
ミカが訊ねると、ノーディスが頷く。
「スイレンは夕方、古城に先行する。広間に運び込まれた壺を盗んでくれ。古城近くで陽動が始まったらすぐに古城から離脱、僕らがどんな状況に置かれていてもひたすらに走ってほしい」
「わ、分かりました」
スイレンが真剣な表情で頷く。
「相手は暗部以外にも?」
ミカが訊ねる。当然、作戦の障壁となるのは暗部だけではないとミカは思っていた。
「ああ。古城の警備員、スペンサー伯爵のとこの私兵」
「スペンサー伯爵? ああ、古城で誕生会をやる? 結構数がいそうだな。貴族の所だろうし、王政からも暗部以外のが来てるかもな」
「ま、死なないようにやるさ」
ノーディスが飄々と言い放つ。
「ったく、大丈夫かよ......あ、スイレン。収納魔法を付与する。壺を抱えて走るわけにはいかないだろ」
ミカがスイレンに収納魔法を与える。
「ありがとうございます」
「いいってことよ、がんばれよ」
ミカが笑って言う。
その後、偵察班からの報告を受けたスイレンは日が傾き始めた頃、古城へと向かった。
「外の様子は?」
「いやー、もう夕方っすね。ボチボチ動き始めますか」
リムの言葉に外の様子を見に行っていたジョシュが答える。
「よし、そうだな」
リムが身体を伸ばしながらカロッゾの方を向く。
「行かん。シャルルを守らないといけないからな。それに魔を倒すなどという荒唐無稽な計画に加担したくないしな」
「まだ臆病なのか。やってもないのに無理だって決めつけるなよ。なあ、シャルル」
「死にたくないと思って何が悪い」
「死なないからそう言ってるんだ」
「何を根拠に......」
リムの真っ直ぐな視線から避けるようにカロッゾが背を向けた。
「行きましょ。時間ないんで」
「......案内を」
ジョシュとリムが下水道を走り出した。
「......行かないの?」
シャルルが訊ねる。
「動けないのさ、怖くってね。初代聖女が封印するしかなかったような魔を相手にしろっていうんだ。あたしなんかじゃできっこないさ」
カロッゾが震える手でシャルルの手を握る。
「あたしに関係のないことなのに、なんでこんなに怖がってるんだろうな」
「関係あるから」
シャルルの短い一言にカロッゾは目を伏せるしかなかった。




