第23話 進みだす事態
逃亡を開始したカロッゾ達は真上をすっ飛んでいった暗部員に気が付いた。
「思った以上に早いな、派手にやりすぎたか」
「あんだけでかい爆発だったんだ。気づかれるに決まってる」
カロッゾが漏らした驚きにリムが反論する。
「んで、仕留めそこなったみたいだな。ここまで即応されるとは、予想外だったんじゃないか?」
「まあね。でもあたしらのことはバレてない」
カロッゾ達は坂道を駆け降りると、川沿いをひたすらに走る。
「アトリエってのはどこにあるんだ?」
リムが先頭を走るジョシュに訊ねる。
「下水道! なんか尖ってる芸術家って感じでよくないっすか?」
「尖ってるだけのボンクラだな!」
ジョシュの言葉にカロッゾが辛辣に返す。
「ひどいこと言うっすね! あそこのトンネルに!」
ジョシュが前方のトンネルを指さす。
カロッゾ達は程なくトンネルに入った。中間地点の壁にドアがあった。ジョシュはそのドアを開けると、入るように促した。
下水特有の激臭が漂ってくる。
「くっさ!」
リムが思わず叫ぶ。ぬるぬるしている階段を足早に降りて、下水道を歩き出す。
「お鼻取れそう......」
シャルルも顔をしかめて鼻をつまんでいる。しばらく歩くと、大きな横穴が見えてきた。
「はい、着きましたよ」
横穴にはくすんだ色のソファやら、埃を被った画材、キャンバス、陶器が煩雑に並べられていた。
「汚いな」
カロッゾがぼやく。シャルルがソファに飛び乗る。埃がフワッと舞い上がる。
「へっくしょい!」
「お前、ここ使ってないだろ」
リムの指摘にジョシュがたじたじになる。
「いや、そんなことないっすよ。まあ、最近は冒険道具造りで戻ってこれてなかったっすけど」
「まあ、私は文句を言える立場にない。匿ってもらっている身だからな」
「リムさんはわきまえてますねー。うちの店長にも見習ってほしいっすよ」
「黙れ、これからの動きを確認するぞ」
カロッゾが手招きする。
「私とジョシュの顔はじきに割れるだろう。何度か店先に顔を出したこともあるからな」
「俺も悪者扱いされるんすか?」
「多分な。あたしと一緒に逃げてるから、そう判断されてもおかしくない。んで、シャルルについては───どうとも言えん。リムに関しては───」
「暗部の人間に見られている可能性も少なくないが、不用意に街に出ない分には大丈夫だろう。というかここにいる全員がそうだろう」
「まあな。んで、お前らはどうするんだ? 壺の件」
カロッゾが腕を組む。
「ああ、下水道は古城までつながってるんで、ここから行けるっすよ。よくここから古城の宝物庫まで行くんすよ。内側から入れるんで、入場料払わなくていいのがね」
飄々と語るジョシュに、リムとカロッゾは顔を見合わせる。
「こいつ普通に犯罪者じゃないか?」
「お前もこれからそれになるんだろうが」
「そうっすよ。細かいことは気にしちゃダメっす」
ジョシュがサムズアップする。
「はあ、イカレてる」
リムがため息をつく。カロッゾがどの口で、というような表情を見せる。
「例の壺ならそこに」
ジョシュがアトリエの奥を指さす。そこに、大きな壺がポツンと置いてあった。
「あれか。大きいな」
「そうっすね、重さもそれなりに。どうやって宝物庫まで運ぶんすか?」
「収納魔法で」
リムは壺に近づいて、それを収納魔法に収納した。
「......マジか」
「......重さは感じないのか?」
カロッゾとジョシュがドン引きしながらリムを見る。
「重さは感じない......おい、なんだその目は」
「誰が収納魔法なんて創ったんすか?」
「よく創られた魔法って分かったな。ミケーネ様が類まれなる魔法の才を存分に奮ってお創りになったのがこの収納魔法だ。ある程度の物は入れることができる。大きすぎると無理だが」
「へぇ、そうか」
「今からでも行けるが?」
リムが訊ねるが、ジョシュは首を振った。
「明日の夜行きましょ。今日はもう寝たいんで」
ジョシュはその場に寝転がると、いびきをかきだした。カロッゾもあくびをしながらソファに座り、ウトウトしているシャルルを腹にのせて目を閉じた。
「......そうだな」
リムも壁際にもたれかかり、逃走で溜まった心労を解消しようと目を閉じた。
「やっぱり、こいつらすぐに魔糸鉱石の扱いが上達した」
繁華街を飛び回りながら、後方を確認したアイーダが深く息を吸う。
ウィード達はアイーダの変則的かつ、高機動の動きに食らいつけるレベルまで慣れていた。
「話が通じる人達かな......通じないか」
アイーダが急降下して商品棚と天井の隙間をすべるように飛び込んだ。
「うわっ!」
「なんだい、いきなり!」
店の人間や客から悲鳴や怒号が上がる。アイーダは構うことなく、全速力で機動する。
「あの速度で、自殺行為ですよ」
「俺達もいくぞ!」
ウィードの一声で暗部員達も喧騒の中を突っ切っていく。ウィードが屋台に置いてあった肉の塊を手に取ると、曲がろうとしていたアイーダに向けて投げつけた。
豪速球で飛んできた肉に当てられてアイーダはバランスを崩して地面を転がった。頭から血が出ているが、構わずに体勢を立て直し、転がる勢いのまま、飛び上がる。
「この時を待っていた!」
アイーダの真上にウィードが躍り出る。その手には黒い棒が握られている。
「少しばかり眠ってもらう!」
ウィードが黒い棒を振り上げた瞬間、別の暗部員が向かいから物凄いスピードでウィードに突っ込んだ。
「お前は......!」
ウィードが防御する前に暗部員が逆手に持った包丁で腹を搔っ捌いた。
「何をしている!」
「こっちは味方だぞ!」
残る二人の暗部員が即座に応戦の構えを取るが、黒い粉を撒かれて目つぶしされた。その隙を逃さなかった裏切り者の暗部員は二人の首を包丁で掻き斬った。
(暗部が内ゲバ起こした......? 暗部の事なんも分かんないからどうでもいいか。今が好機、このまま引き離す!)
アイーダが逃げようとした瞬間、裏切り者に身体をガシッと抱きかかえられて、狭い路地に引きずり込まれた。
「ちょっと、なにすんのよ!」
「黙って!」
二人は窓を突き破って建物に突入した。かなり大きな音がしたが、誰かが見に来る気配はなかった。
「くっ」
アイーダがすぐに立ち上がって魔法銃を構える。頭から流れる血が目に入るが、少したりとも瞬きせず、暗部員を見つめる。
「はあ、はあ」
膝をついた暗部員はフードを上げてその顔をさらす。
「え!? エレナじゃん。あんたマジで暗部だったの?」
「......詳しい説明は後で。今は安全な所へ移動しましょう」
「......アイーダの奴、何やってんだ?」
ミカがバルコニーから下を見ながら呟く。アイーダが何者かに追われているのは見えていた。だが、それも繁華街に入られてからは見えなくなってしまった。
「おいおい、マジでどうすんだ。ここがバレるのも時間の問題だろ」
ミカは部屋に引っ込む。
(今のところリム、エレナ、アイーダと連絡を取る手段がない。エレナとリムがどう動くかだけでも知っておきたい。ノーディス達の動きとぶつかって作戦が失敗しようものなら───)
ミカが考えあぐねていると、部屋がノックされた。ドアを開けると、イヅナだった。
「ノーディスさんが呼んでる」
イヅナの言葉に頷いたミカは昇降用のリフトにイヅナと共に乗り込んだ。




