第19話 復活の作戦
ミカ達はノーディスと共に、席についた。膝の上にイヅナが乗ってくる。
「それで......魔の赫眼を持つ、魔の姉弟だけど......」
ノーディスがこっくりこっくりと舟をこぎだす。
「おい、寝てる場合か」
「んあ、ごめん。心を読むと尋常じゃなく眠くなってしまって」
「安全が確保されてないと使えない技じゃねぇか。俺が敵だったらどうするんだ」
「敵じゃなかっただろ? それに相手の心に強く浮かんだものしか読み取れないんだ」
ノーディスがあくび交じりに言う。その行き当たりばったりなような様子にミカは一抹の不安を抱いたが、自分達も大概行き当たりばったりであるという自覚はある為、表情には出さなかった。
「よし!」
ノーディスが頬をバチンと叩くと、説明を始めた。
「魔の姉弟は封印されているんだ」
「封印?」
「これにだ」
ノーディスが一枚の絵をテーブルに乗せる。端がボロボロになった紙に、不思議な文様が施されている壺が描かれている。
「これが?」
「そうだ。この壺は古城の地下の宝物庫で厳重に保管されている」
「へぇ、宝物庫に入ったのか」
「古城の中は一般公開されているからね。結構人気だよ......話を戻して。三日後に古城で開かれるセレーナ嬢の誕生会。その会場に壺が展示されるんだ」
「そのタイミングで奪うってのか? てかセレーナ嬢って、ヴォラ・スペンサー伯爵のご令嬢だよな。お貴族様はスケールが違うな」
「同感だ。奪ってもいいし、その場で封印を解いてもいい」
「ダメに決まってるだろ。人的被害は無しでやれよ。じゃなきゃ手を貸さないぞ」
「ま、臨機応変にってことで。その場で封印が解けてしまった場合は、壺のまわりに結界を張って外部と遮断、即座に魔の姉弟を討伐する」
「最善は壺を外に、それもライファロスの外に持ち出すことだな」
「いや、魔寿族の黒髪も集めなければならない。壺は厳重保管のまま、黒髪探しに作戦を切り替える」
「そういやエルフの黒髪も必要だったな。そっちの目星はついてるのか?」
「ついていた、というのが正しいかな。どこぞの奴隷商人が連れているという情報は掴んでいたんだけどね。その子が奴隷商人ごと姿を消しちゃってね。今必死に探してる途中なんだ」
ノーディスが肩をすくめる。
「消息不明、そっちの目的悟られたんじゃ?」
「どうだろうね。暗部の連中が何かやったとするなら、僕たちをおびき寄せるための餌ってとこかな」
「バレてはないんだろ?」
「存在自体は気取られてると思うよ。仲間が暗部の人間を倒しちゃったみたいだし」
「ふーん、今ままで以上に慎重に行動しなくちゃな」
「そう。だから、セレーナ嬢の誕生会までここにいて欲しい。一切外に出られないけど」
「い、一切か? 仲間と会いたいんだが......」
ミカが顔をしかめる。リムとエレナとは作戦の共有は必須であろう。
「うーん、念話魔法は互いに覚えている人どうしじゃないと使えないし......そもそも情報漏洩のリスクを考えると、知ってる人を最小限に抑えたいんだ」
「なるほどな。そういうことなら仕方ない」
(エレナはまだしも、リムに連絡取れないのはきついな。仮に作戦がうまくいかなくて、広間で戦闘になった場合、俺とイヅナ、スイレンとかで対応しないといけないのか。いや、リムの事だ。すぐにすっ飛んでくるだろ)
「どうかしたかい?」
ノーディスが首をかしげる。ミカは何でもない、首を振ると席を立った。
「部屋は用意してもらえるか?」
「当然。一番いい部屋を」
ノーディスがアイーダの方を向く。
「君もね」
今まで蚊帳の外だったアイーダは、突然名前を呼ばれて身体をびくっと震わせた。
「あ、ああ、忘れられてなくてよかった。ありがとう」
ノヴァクがミカとアイーダを呼ぶ。
「こちらへ」
二人はノヴァクの後についていく。
リムはシャルルに絵本を読んであげていた。シャルルが満足そうに、リムの胸にもたれかかる。
「おもしろかったー」
「そうか、それは良かった」
「晩御飯食ったか?」
「私か? まだだ」
「適当に作るぞ」
「ありがとう」
カロッゾがエプロンを着て台所へ向かった。
「カロッゾさんのご飯おいしー」
「そうなのか。楽しみだ、おなかすいてるのか?」
「ペコペコー」
(こんなに可愛らしい存在がミケーネ様以外にもいるとは......世の中というは広いものだ)
リムがシャルルをぎゅっと抱きしめる。
「暑い」
シャルルはそう言うと、リムの抱擁を抜け出してぼーっとしているジョシュの背中によじ登る。
「わっ、危ないから登るなって言ってるだろ」
「グルグルやって」
困り顔をするジョシュにお構いなく、シャルルが目をキラキラさせておねだりする。
「しょうがないな、一回だけだぞ」
シャルルをおぶったジョシュがその場で回転する。それを見たリムがカロッゾに訊ねる。
「シャルルっていくつなんだ?」
「十歳だ」
「にしては幼いな」
「目の前で同族皆殺しだぞ? ショックで幼児退行しても不思議じゃない」
「よくそんなことを平気な顔で......」
「そんなことぼかしたってしょうがないだろ。シャルルが救われるわけじゃないんだ」
「それはそうだが......」
リムは楽しそうに笑うシャルルを見る。長い黒髪が床に擦れている。
「シャルル、髪が邪魔じゃないか? 切ってあげようか?」
リムが提案すると、シャルルはイヤそうに首を振った。
「ヤダ! カロッゾさんに髪スイスイしてもらえないもん!」
「髪スイスイ?」
「風呂あがりに髪を櫛でといてるんだ」
カロッゾがフライパンを動かしながら言う。肉の焼ける良い匂いがする。
「そ、そうなのか」
(無理矢理髪を切るわけにもいかないし、どうしたものか。無理矢理すれば、シャルルの信用を失うどころか、カロッゾとも敵対することになる)
「何か変なこと考えてないっすか? 仲良くなったとはいえ、あったばかりの子供の髪の毛切ろうなんて言わないっすよ」
ジョシュがシャルルを降ろしながら言う。
「え、あ、そうだな。距離感を間違えていたのは理解している」
リムが気まずそうに答える。
「優しさから来る行動とは思えないな。裏がありそうだな」
「何を......裏なんて」
「魔の復活にエルフの黒髪が必要なんだろ?」
カロッゾの言葉にリムが硬直する。カロッゾはお構いなしに続ける。
「あたしは元聖女だぞ。それも本来の役目を果たすべきとされている。そんな私が魔の存在を知らないとでも?」
「魔? シャルルとそれに何の関係が?」
ジョシュが首を傾げる。
「寝室に行ってくれ、ジョシュ。シャルルを連れて」
「ああ、分かりました」
カロッゾのただならぬ気配を察したジョシュがシャルルを抱きかかえて寝室に入る。
「ふう、説明してもらおうか。隠していること全て、洗いざらいな」
カロッゾが包丁をリムの方へ突きつける。




