第16話 おサボりさん
ミカと別れたリムは演技の拙さに赤面しつつ、冒険道具の店に入った。通路は狭く、所狭しとガラクタ同然の商品が並べられていた。
「なんだここ。ホントに店なのか? 倉庫とかじゃなくて?」
思わず口に出してしまった。
魚型寝袋、じょうろ型松明、犬顔鞄など、面白というよりただただ変な商品が割と法外な値段で販売されている。
「ちゃんと店だよ」
棚に商品をだしている店員がリムに言う。
「カロッゾの面白冒険道具店で間違いないよ」
もじゃもじゃ頭の男が肩をすくめる。
「何かお探し?」
「いや、特には」
「最近のおすすめはこれ、爆丸」
「爆、何?」
「爆丸。小さい爆弾だよ。この袋に三十粒入ってる」
店員が手にした小さな巾着袋。振ると、チャラチャラと爆丸どうしの擦れる音が鳴る。
「害獣避けとかに使うのか? それとも着火剤的な?」
サイズ的にかなりの小ささ。リムは爆弾としての威力はないだろうと考えた。
「れっきとした爆弾だよ。岩が吹っ飛ぶぐらいのね」
「い、岩が⁉」
リムが青ざめて後ずさる。
「なんでそんなものを振るんだ! 頭がおかしいのか?」
「大丈夫だって。かなりの衝撃を与えないと起爆しないから。崖下に叩きつけるとかそんぐらいしないと」
「......売れるのか?」
「今日発売の新商品だよ。あ、そうだ! お客さん、これ使ってきてさ使用感がどんなもんだったか教えてくれない?」
「はあ? 岩が吹っ飛ぶって言ってるんだから、もう試してるんだろ?」
「人とか、動物とか......」
「ジョシュ! お客に絡むなっていったろうが!」
突然の怒鳴り声にジョシュと呼ばれた店員が肩をビクッと震わせた。
「ビックリしたぁ。お客さんがいるところでは大声出さないでくださいよ」
「黙って品出しを続けろ......いや、悪かったなお客さん。うちの店員が迷惑かけたみたいで」
灰色の髪を結って右肩に垂らした女がリムに謝罪する。
「いや、大丈夫だ。なかなか興味深い商品が多いな。この店は」
「そりゃあどうも。さっきのお詫びだ、この爆丸二つ持ってってくれ」
女がリムの手に爆丸の巾着袋を二つ持たせて握る。
「なんで握るんだ?」
「あんた、リム・ラーバナードだろ? 聖女の護衛がのこのこ買い物か?」
女がリムの手をがっちり掴んで離さない。
「......そうだ。今は諸事情でライファロスに来ている」
「王都じゃ聖女が消えたって大騒ぎだけど、何か事情があるのか? 私はカロッゾ。ここの店主で......元聖女だ」
「......! カロッゾ・ヴィヴィッドか? 肖像画を見たことがあるが、こんな所にいるとは......突然姿を消したとは聞いたが」
「まあ、こっちも色々あってな。ジョシュ、茶を入れろ。リムと話がしたい。構わんな?」
「ああ、構わない」
リムが頷く。一瞬軽率かと思ったが、何故か大丈夫だという確信が持てた。どこかミカに似ているところがあるのだろうか。元聖女の話と言うのも、何か有益なものが得られる可能性もある。危険を冒す価値はある。
とりあえず、話すだけなら問題はないと判断して、リムはカロッゾと共に店の裏に入っていった。ジョシュが閉店の看板を店の前に出した。
ミカとイヅナ達は石畳を歩いていた。街灯の火がぼんやりと街を照らしている。
「あそこに見えるのが有名な古城だよな」
「そう、めっちゃ広いんだよ」
イヅナが楽しそうに答える。
視線の先に、月明かりに照らされ厳かな雰囲気を湛えた古城がそびえている。
「絵でしか見たことなかったけど、実物は迫力すっごいな」
「私も初めて見たときはおんなじこと思いました」
スイレンもニコニコ笑いながらミカに同意する。一方で、アイーダは顔面を真っ青にしてあたりをきょろきょろしている。
「ひ、人がいっぱい。テンカーン村とはえらい違いね」
「テンカーン村も人は多かったけど、こっちはその倍以上はいるもんな。夜なのに」
ミカがアイーダの腕を引っ張りながら言う。
「はぐれんなよ、見つけられないかもしれないからな」
「ふん、子供じゃないんだから、迷子になるわけないじゃない」
アイーダが少しむっとする。
(そういうところが子供っぽいんだけどなぁ)
ミカがそう思っていると、突然スイレンがおんぶをねだってきた。
「お兄ちゃん、おんぶしてぇ」
「きゅ、急になんだよ......」
「おねがーい」
「ちょ、ちょっとだけだぞ」
ミカがスイレンをおんぶする。
「誰が聴いてるか分からないですから。こうさせてもらいます」
「え」
てっきりかわいいお願いだと思っていたミカは想像と違うスイレンの声色に少し驚いた。
「これから会う私の仲間はこの国の人間をあまり信用していません。やもすると戦闘になるかもしれません。そうするとかなり厄介な連中を呼び寄せてしまいます」
スイレンが耳元で囁く。
「厄介な連中?」
「はい、王政直属の諜報部隊です」
「......暗部って言われてる?」
「はい。情報収集から暗殺まで。王政に都合の悪いこと、そして外国からの脅威を抹消するためだけの組織です。私達のことをかぎつけたのかは分かりませんが、そいつらは今ライファロスにいます」
「気づいた理由は?」
「ミカさんなら見るだけで分かるかと」
「......おんぶする必要あったか? この話するのに」
「大きな声で話してるのを聞かれたら、多分民間人にかまわずに仕掛けてくるでしょう」
スイレンの囁きが一段と小さくなる。
「これ以上は喋りません」
「分かった」
ミカは頷いた。
アイーダが露店に指をさす。
「見て、宝石ついた指輪!」
その露店に駆けよっていく。
「絶対偽物だな、ありゃ」
呆れながらミカ達もアイーダの後を追う。
ミカ達と別れたエレナはこじんまりとした陶器屋に入店した。スカートが商品にぶつからないように注意しながら眺める。
動物が描いてあるコップや、シンプルなデザインのお皿など、幅広い種類の陶器が並べられていた。
「メイドさんかぇ、珍しいねぇ」
店主の老婆が微笑みながら声をかける。
「ああ、ご主人様に似合うお皿を探していまして......」
「おじゃましまーす」
エレナと老婆の会話を遮るように、軽薄そうな女の声が店内に響いた。
「あら、いらっしゃい。今日もきてくれたんだねぇ」
老婆の口ぶりから、女のがよくここに来ているのが想像できる。
女は黒いフードを被り、全身を黒いコートとズボンでかためている。フードから折れ曲がった大きなケモ耳がはみ出ている。腰の後ろから黒い毛がふさふさの尻尾が生えている。
「エレナ、こんなとこで何やってんのぉ?」
女は意地の悪い笑みを浮かべる。
「ひ、人違いでは......」
エレナが否定した瞬間、女がエレナを地面に組み伏せた。
「ははっ、白を切るのか? 聖女の監視はどうなってるんだよ? おサボりさんかぁ!?」
「くっ、ル、ルプシィ」
エレナが女の名前を呼ぶ。
「なんだよ。話は拠点で聞くから、眠ってろ」
ルプシィが尻尾の毛を逆立てて、電気を発生させる。その発生した電気を流されたエレナは痙攣したかと思うと、声もなく失神した。
「おばあちゃん、このことは秘密にしてね?」
ルプシィの《《お願い》》に老婆はただ頷くだけだった。




