第15話 新天地
テンカーン村を離れ、一日が経った。テンカーン村とライファロスの中間にある小さな街にミカ達は滞在していた。
「宿は取ったし、飯行くか」
ミカ達は宿に荷物置くと、酒場へと向かった。広いながらさびれた酒場には数えるほどしか客はいなかった。
「いらっしゃい」
店主がか細い声を上げる。
「どこでもいいか?」
「できるだけ近いところに座ってくれ。歩くのもめんどくさい」
客に対する態度とはとても思えない接客にミカ達は顔を見合わせると、カウンター席に並んで座った。
「鶏の脚の香草焼きしかないけど、いいか?」
「あ、ああ。人数分お願いします」
ミカが頷くと、店主は厨房から香草の巻きつけられた鶏の脚を六本持ってきた。
「あんたら、聞いたか?」
店主が脚を窯に入れながら訊ねる。
「聞いたって、何を?」
「聖女が行方不明になったって話だよ」
「......知らないな」
内心が顔に出ていないことを祈りながらミカは話をリムに振る。
「リムは聞いたか?」
「いーや、初耳だ」
リムはいたって冷静に答えてくれた。
店主は何故か嬉しそうに言う。
「まー、噂にすぎんけどな。今朝方ここに来た旅人が教えてくれたんだよ。いま王都はかなりピリピリしてるらしい。王政が聖女を独占したとか、しっちゃかめっちゃかだ」
「そんなことが起きてるんですねぇ」
エレナが心配そうに言う。こんな二人も内心は冷や汗ダラダラである。
「おじさん、なんで嬉しそうなの?」
イヅナが首をかしげながら店主に訊ねる。
「なんでって、王都でぬくぬく過ごしてるやつらがひどい目に合うってんならうれしいだろ? 聖女とかいう得体のしれん存在に縋ってる気抜け連中の末路にぴったりだ」
「でも聖女が結界を張って魔を抑えてるんだよ」
「ただでさえ生活カツカツなんだ。虚業女がその結界とやらで俺らの生活をよくしてくれるってんなら騒ぐ気持ちも分かるけどよ。なにやってるのかよく分からん聖女も王都でぬくぬく過ごしてんのも気に食わないな。なんであんなのがエスタルキアの象徴みたいに喧伝されてんだ?」
虚業女の目の前でペラペラとまくし立てた店主が焦げた香草焼きを皿に乗せてテーブルに出す。そんなんだから生活がきついんじゃないか、と喉元まで出かかった言葉をミカは肉と一緒にグッと飲み込んだ。少し酸っぱい味がした。
宿屋にて、ミカとリム、エレナはライファロスに着いてからの作戦を立てていた。
「俺が失踪していることは知ってるみたいだな。メイドが話してれば俺が男になったことも判明してるかもだが、おっさんの口ぶりからするとそれはまだみたいだな」
「ライファロスは王都に近い。単独行動が最適解だろう」
リムの意見にエレナが同意する。
「そうですね。ミカ様が男になったことがバレていないとしても、ミカ様の護衛のリム様の顔はバレてしまうかもしれませんからね」
「聖女の護衛が得体の知れない男と一緒に行動すれば、眼をつけられるだろうな。聖女がいなくなっている今なら尚更だろう」
「そうだな。ライファロスに到着したら、お前らは適当な理由をつけて別れろ。俺はイヅナ達と一緒に仲間とやらに会いに行く。合流は......適当に魔法かなんかで合図だすわ。これで決まりだな」
「分かった。明日は早くに出発しよう。アイーダ達にもう寝るように伝えてくる」
リムが部屋を出ていった。
次の日の早朝、ミカ達は街を後にしライファロスに向かって道を歩いていた。宿のベッドは固く、狭かった。寝返りも満足に打てない状態だった。身体をしきりに伸ばしながらミカが言う。
「夜にはライファロスに着きそうか?」
「うん、何もなければね」
イヅナがフラグのようなことを口走ったが、結局トラブルもなくミカ達は日没と同時にライファロスに到着した。
身分証明書を衛兵に見せなければ通れないのだが、アイーダとイヅナ、スイレンは正規の手順で通り、ミカ、リム、エレナの三人は透明魔法で姿を隠して入国した。普通に犯罪行為だが、余計な騒ぎを起こさない為のやむを得ない対応である。
ライファロスは観光地でもある為、人の出入りが激しい。煩雑な身元照会の傍らを気づかれずに通り抜けるなど、訳ないことである。
街に入ったミカ達は透明魔法を解除してアイーダ達と合流した。
「あー、あそこに面白冒険道具の店があるぞー。私、行ってくるー」
リムがド下手な演技をしながら変な看板のお店に突撃していく。
「え、リムさんがアホになっちゃった」
イヅナがショックを受けたような顔をする。
「透明魔法の副作用じゃ......」
「断じて違うぞ。あ、エレナ、あそこにメイド用品屋さんがあるぞ!」
「まぁ、ちょうど入用のものがありましたので、行ってまいりますわ」
エレナもスカートの裾をちょいと持ち上げて小走りで去っていった。
「そんな店ない......」
「さーあ! イヅナ、スイレン! お仲間の所へ案内してくれ」
ミカがイヅナとスイレンの肩をぐっと引き寄せて歩き始める。
「噓つくのはうまいけど、演技は下手なのねぇ。何が違うのかわっかんないけど」
アイーダがミカ達の謎演技に首をかしげながら後を着いていく。
そんな彼らの背中は怪しい視線にさらされていた。
「さて......いつ仕掛けるか」




