22話 ホクホクの焼き芋
すっかり秋も深まり、肌寒さを覚える今日この頃。鈴は庭に散らばった落ち葉を竹箒でかき集めていた。カサカサと心地よい音を立てて葉が固まっていく。そんな庭仕事の最中、パタパタと小さな足音が近づいてきた。
「鈴様は今日も精が出ますな」
やってきたのは、ぽてぽてとした愛らしい体型をした狸のポチだった。その小さな腕には、ずっしりと重そうなサツマイモが大事そうに抱えられている。
「こんにちは、ポチさん。立派なサツマイモですね」
「山で獲れたので浅葱様と鈴様にお裾分けをしに参りました」
「わぁ! ありがとうございます!」
立派なお芋と目の前に積み上がった大量の乾燥した落ち葉。それらを交互に見比べた鈴の頭に、ひとつの名案がひらめいた。
「ポチさん、せっかくこんなに落ち葉がありますし焼き芋をしませんか?」
「やきいも! やります、やりたいです!」
大喜びで庭を駆け回るポチと一緒に、さらに庭のあちこちから落ち葉をかき集めた。そこにちょうど縁側からポヤポヤとした様子で浅葱が顔を出した。
「おや、ポチさん。いらっしゃい、二人で何して遊んでいるの?」
「落ち葉を集めて焼き芋を作ろうと思っているんです」
「焼き芋? いいね、楽しそう」
浅葱も仲間入りし、みんなで集めた落ち葉の山に火を灯した。パチパチと乾いた音を立てて火が燃え広がり、サツマイモをそっと焚べる。そしてしばらく灰の中でサツマイモが蒸されるのを、雑談を交わしながらのんびりと待った。
「そろそろ出来上がりでしょうか……?」
灰から取り出し二つに割ってみると、黄金色に輝くほくほくのサツマイモが姿を現した。湯気が立ち上るそれに、ふーふーと息を吹きかけて冷ましながら、鈴はひとくち口へ運んだ。その瞬間、しっとりとした甘みが口いっぱいに広がる。
「美味しい……!」
「本当ですねぇ、甘くてとても美味しいです!」
ポチも口いっぱいに頬張って満足そうに微笑んでいる。どうやらサツマイモはポチさんの好物らしい。鈴が熱々のサツマイモを大切そうに手にしてふーふーと冷ましていると、ふと横から視線を感じた。
見上げると、浅葱がすぐ間近で鈴の顔を覗き込んでいた。灰の中の焼き芋を取るのかと思いきや、浅葱は鈴の持つサツマイモを長くて綺麗な指先でちょんと指さした。
「ねえ、鈴。一口ちょうだい?」
「え……はい、どうぞ?」
ちぎって渡そうとした瞬間、浅葱は鈴の手首を大きな手でしっかりと掴んだ。逃げられないように優しく固定されると、そのまま顔を近づけ鈴の手にある食べかけのサツマイモに直接口を寄せて、はむりと口に含んだのだ。
「っ……!?」
近い距離感と自分の食べかけをそのまま食べられたという事実に、鈴の思考が一瞬で真っ白になる。
「あ、浅葱様! ご自分の分がちゃんとあるじゃないですか!」
跳ね上がる心臓を誤魔化すように叫ぶと、顔が一気に赤く染まっていくのが分かった。しかし浅葱は悪びれる様子もなくふわりと微笑む。
「鈴が食べさせてくれると、ずっと美味しく感じるんだよね」
「そんなわけないでしょう……」
恥ずかしさで俯く鈴に対し浅葱はさらに追撃するように、あ〜と口を開けておねだりをしてくる。
「鈴、もっとちょうだい」
意図的にやっているのか、それとも無自覚な天然のおねだりなのか。鈴の胸はドキドキと激しい音を立てて鳴り響く。逃げ出すこともできず、鈴は意を決して持っていたサツマイモを浅葱の口元へ運んだ。
「ん、美味しいね。鈴は食べないの? 俺が食べさせてあげようか?」
「じ、自分で食べられます!」
揶揄うように悪戯っぽく笑う浅葱の提案を鈴は慌てて拒否した。その反応を気に入った様子で、浅葱は鈴の肩へと体を寄せるようにしてぴったりとくっついてくる。
「美味しい?」
「……美味しいです」
伝わってくる浅葱の体温に顔を赤くしながらも、鈴は小さく頷いた。そんな仲睦まじい二人の様子を、ポチは口元にサツマイモのかけらをつけたまま、口をぽかんと開けて呆然と見上げていた。
「お二人は……やはり番になられたのですか?」
「っ、むぐ!?」
素朴な問いかけに、鈴は思わず喉を詰まらせそうになった。
「違います! 違いますよ、ポチさん!」
必死に手を振って否定する鈴の横で浅葱も「うーん」と首を横に振った。
「まだなってないよ。これからなる予定だけどね」
「浅葱様……!?」
さらりと口にした浅葱に、鈴は目を丸くして叫んだ。しかし浅葱は鈴の驚きを意に介さず、ポチに向かって爽やかに微笑みかける。
「祝言を挙げる時は、ポチさんも参列してね」
「もちろんです! 楽しみですねぇ〜。狐の祝言のように、妖たちを引き連れてこの山を賑やかに巡られてはいかがですか?」
「それ、すごくいいね。楽しそう」
「ちょっと、浅葱様! ポチさんまで盛り上がらないでください!」
まだ求婚されたばかりで、妻になると返事もしていないのに。どんどん具体的に進んでいく二人の会話に、鈴は顔を真っ赤に染め上げるのだった。




