22話 撒き餌
「ぐっ……!!」
三発の打撃を受け、優大の身体が大きく揺らいだ。
だがその目から闘志は消えていなかった。
むしろその瞳には怒りと興奮が入り混じった、異様な光が宿っていた。
優大の両手に蒼の気が集中していく。
(蒼の気で防御された!?あの一瞬でなんて奴だ!)
翔馬は舌打ちし、即座に距離を取った。
止まれば撃たれる。
翔馬は地面を蹴り、Double Stepで加速すると、木々の間を縫うように方向転換を繰り返す。
(クソッ……!あいつが防御を意識していないところに攻撃するか、防御を崩すようなデカい一撃を叩き込むしかない!)
ザザッッ!!
草木をかき分け、田野と与志野が優大のもとへ駆けつけた。
「翔馬!」
「二人共……!」
三人が合流したその瞬間だった。
優大の両手に蒼の気が集まり、次々と形を変えていく。
現れたのは二丁の機関銃。
「……ハッ!いいぜいいぜぇ……!」
優大の口元が吊り上がる。
「まとめて吹き飛ばしてやるよォ!!」
「伏せろっ!!!」
ドドドドドドドドドドドッッ!!!
二丁のマシンガンが、一斉に火を噴いた。
無数の銃弾が暗闇を切り裂き、木々の幹を砕き、地面を抉る。
銃口から放たれる閃光が夜の林に一瞬ごとの光を灯していく。
三人は地面に身を伏せ、飛び散る木片と銃弾の雨を必死にやり過ごした。
轟音が森を支配する。
優大の猛攻が三人を再び追い詰めていく。
(クソ……!これじゃ動けねえ!)
翔馬達は太い木の幹に身を隠し、耳をつんざくような銃声に耐えていた。
銃弾が次々と木の表面を削り、木片が顔の横をかすめて飛んでいく。
少しでも身を乗り出せば全身を蜂の巣にされかねない。
だがその時だった。
(……いや、待て)
田野は眉をひそめた。
(何か変だぞ、俺達を狙っている訳じゃない……めちゃくちゃに撃っている)
銃撃の合間を縫って、木の陰から優大の様子を窺う。
優大は周囲の木々や地面にありったけの銃弾を撃ち込んでいた。まるで三人の逃げ道を塞ぐかのように、無差別に弾丸をばら撒いている。
そして――。
優大は突然銃撃を止め、その場から離れた。
(時間稼ぎ!?何のために……)
田野が疑問を抱いたその瞬間だった。
近くから優大の蒼の気の気配を感じた。
(……ん?)
視線を向けると何かが木々に巻き付けられている。
「……?」
(馬鹿共が……お前らは既に撒き餌にかかってんだよ!)
優大は逃走しながら背後を向き、笑みを浮かべる。
(俺の地雷を追いかけてきたな?まるで公園で人間が差し出すパンくずをひたすら追いかけ食べる鳩の様に!)
田野は目を凝らしてそれを観察する。
それは木の幹に固定された小さな機械だった。
そこでようやく気づく。
(ここは……まさか!?)
先ほどまで優大が狙撃位置として使っていた場所。
田野の背筋に冷たいものが走った。
(地雷を点々と並べて俺達をここに誘導した!!わざわざここで立ち止まって狙撃をしたのも……俺達をここに誘い込む為!?)
カチッ、カチッ。
機械から規則的な音が聞こえる。
(この音は……この機械は!!)
よく見ると、周囲の木々にも同じようなものが巻き付けられていた。
一つや二つではない。
あちこちにいくつも。
(優大がこの場所に来てから翔馬が駆けつけるまで一分)
田野の脳裏に最悪の可能性がよぎる。
その頃翔馬は既に優大の背中を捉えていた。
銃撃を止め、走り去っていく優大。
その両手には先ほどまで握られていた機関銃がない。
(機関銃を持ってない……弾切れ?蒼の気の枯渇?)
どちらにせよ絶好のチャンス。
翔馬は地面を蹴った。
「優大っ!!!」
Double stepによって一気に加速し、優大との距離を詰める。
だが、その瞬間――。
カチッ、カチッ。
翔馬の耳に奇妙な音が届いた。
「……っ!?」
同時に田野が叫ぶ。
「与志野っ!!翔馬っ!!」
その声が森に響き渡った次の瞬間だった。
林全体がまばゆい光に包まれた。
ドォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
凄まじい爆発音が夜の森を震わせる。
地面が弾け、木々が砕け、炎と煙が一斉に噴き上がった。
闇を切り裂く閃光。
逃げ場を失った森を圧倒的な破壊が呑み込んでいく。
ゴォォォォォオ………!!
「熱っ……」
優大は背後を振り返った。
そこには、轟々と燃え盛る林が広がっていた。爆発によってなぎ倒された木々は炎に包まれ、夜空へと黒煙を吐き出している。
その光景を眺めながら優大は満足げに笑みを浮かべた。
「……ちょっとやり過ぎたかな」
頭を掻きながら悪びれる様子もなく呟く。
「まあいいや、後始末は先生に何とかしてもらえば……」
そう言って前を向き、林を後にしようとしたその時だった。
ヒュン、ヒュン、ヒュン……。
「ん?」
背後から何かが風を切って飛んでくる。
優大は反射的に蒼の気を解放した。
バキッッ!!
飛来した何かを優大は振り返りざま、手で払い落とした。
(……枝?)
地面に転がったのは爆発で折れた木の枝だった。
(なんだ、こんなも――)
ドゴッッ!!!
「ゔっ!!?」
言葉が途切れた。
次の瞬間、優大のみぞおちに拳が深々と突き刺さっていた。
「なっ……ゴハッッ!!」
優大の身体がくの字に折れ、口から苦悶の声が漏れる。
拳を叩き込んだのは翔馬だった。
「反射的に……背中を防御しようとしたな……」
翔馬は荒い呼吸を繰り返しながら優大を睨みつける。
「それで……腹への防御が遅れた……ハァ……ハァ……」
優大は腹を押さえ、信じられないものを見るように顔を上げた。
「亜里野……翔馬……!」
翔馬の身体は見るも無惨な状態だった。
爆発で飛び散った破片が腕や脚、肩に突き刺さり、全身が血に染まっている。
服もあちこちが裂け、立っていることさえ奇跡に思えるほどだった。
それでも翔馬は倒れなかった。




