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亜里野ストーリー The first step  作者: 与志野音色 公式
序章 新界高校編

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18/25

18話 喰らうか喰われるか


「舐めんなよ」


バチバチッッ!!


翔馬の足元で蒼い火花が弾けた。


蒼の気が電流のように足を這い、傷ついた脚へと集まっていく。


しかし、その足元には血が溜まり始めていた。


赤い水溜まりが少しずつ広がっていく。


顔からは脂汗が滴り落ちる。


それでも翔馬は一歩も引かなかった。


「フフ……根性あるね〜」


サメは目を細め、愉快そうに笑った。


「嫌いじゃないよ、君みたいなの」


その時、与志野がサメに向かって走り出した。


「翔馬っ、今行く!」


(射程二メートル……!翔馬の足が使えない以上、俺がやるしかない!)


与志野は両腕に蒼の気をまとわせ、サメとの距離を一気に詰めようとする。


だが――。


「間に合わないでしょ、君の足じゃ」


サメは微笑んだまま、視線を地面へと落とした。


ゴゴゴゴゴ……!!


大地が激しく揺れ、土埃が舞い上がる。

二体の巨大な影が地中で大きく口を開いた。


(やばい!間に合わない!)


「それじゃ……頂きます」


――ザバァァッッ!!!


地面が弾け飛ぶ。


巨大な顎が迫り、翔馬たちの足元が一瞬にして暗く染まった。


逃げ場はない。


「翔馬――!」


その瞬間。


「Double Step!!」


――ドッッッ!!!


蒼い火花が炸裂した。


翔馬の身体が弾丸のように動き出す。


「無駄だってば!!」


サメが叫んだ瞬間、二体のメガロドンが地面を突き破った。


――ドバァァァッッ!!!


巨大な身体が宙へと舞い上がる。


「ご馳走様……ん?」


(食えてない……逃げた……?)


サメは目を細めた。


メガロドンの口の中に翔馬の蒼の気を感じない。


それどころか与志野の姿まで消えている。


(最後の力を振り絞って与志野を連れて逃げたか)


「フフ……無駄無駄」


サメは笑みを浮かべると、先ほどまで翔馬が立っていた場所へ視線を向けた。


(さっきの翔馬君の血溜まりを飲み込んでメガロドンに匂いを記憶させた)


(鮫は血の匂いを数百メートル先からでも辿れる、優れた嗅覚の持ち主……。一度覚えさせれば簡単には逃げられない)


サメに焦りはなかった。


(今の翔馬君じゃ移動できる距離もたかが知れてる……どこに逃げたってすぐに見つけられるよ)


サメは不意に燃え盛る廃工場へと顔を向けた。


「……何だ、そこにいたんだ」

その視線の先。


崩れかけた壁の陰に翔馬と与志野が身を潜めていた。


二人の額から汗が流れ落ちる。


「フフ……それで隠れてるつもりなの?可愛いとこあるじゃん」


サメは片手を軽く上げた。


「それじゃあこれで……終わりにしてあげる!!」


ゴゴゴゴゴ……!!


地面の下から巨大な影がせり上がる。


次の瞬間――。


影が廃工場を丸ごと覆い尽くした。


――ザバァァァァッッッ!!!


メガロドンの巨大な口が開き、燃え盛る廃工場ごと翔馬たちを呑み込んだ。


バキッ、ガラガラガラッッ!!


鉄骨がへし折れ、コンクリートが砕け散る。


「うあぁぁぁぁぁぁ!!!」


崩壊する建物の残骸が次々と巨大な口の中へ落ちていく。


そして――。


廃工場は轟音とともに、暗闇の中へと消えた。


サメは満足そうに息を吐いた。


「……ご馳走様でした」


(さて、優大に報告しないと……)


スマホをポケットから取り出し操作する。


「あ、さわの事忘れてた……あいつ大丈夫かな」


ゴォォォォッッ……。


「……?」


その時、足元から奇妙な音が響いた。


(何?地面が……明るい?)


サメはゆっくりと視線を落とした。


――そして、目を見開いた。


メガロドンの巨体が、内側から煌々と輝いていた。


青白い光ではない。


その身体は、まるで炎に包まれたかのように赤く揺らめいている。


(何!?燃えてる!?何で!?)


――ドバァァァッッ!!!


苦しむように身をよじったメガロドンが、地面から勢いよく顔を突き出した。


その口から二つの人影が飛び出してくる。


「危ねえ!!」


翔馬と与志野だった。


二人は地面を転がり、なんとか距離を取る。


「流石に死んだかと思ったぜ……!」


翔馬は荒い息を吐きながら傷ついた足をかばって立ち上がった。


「な、何で……!?」


サメの顔から初めて余裕の笑みが消えた。


自分の切り札ともいえるメガロドン。

その巨体が今も苦しそうにもがいている。


ゴォォォォォ……!!


メガロドンの巨体が、ゆっくりと地面の中へ沈み始めた。


その身体はまだ燃え続けている。苦しむように身をよじりながら、巨大な影が少しずつ地中へと消えていった。


「前にどっかで見たんだけどさ……鮫って浮袋がないから代わりに肝臓に蓄えた油の浮力を使って、沈まないようにしてるんだとよ」


与志野は自分の身体についた炎を手で払いながら淡々と言った。


サメは言葉を失い、燃え尽きていくメガロドンを見つめていた。


「さっき俺が鮫を何体かぶっ壊した時……形こそすぐ崩れたものの、かなり正確に本物の鮫の身体を再現してるようだった」


与志野はサメへと視線を向ける。


「だったらこの燃えてる廃工場を喰わせて、俺が中から肝臓をブチ破れば……」


一瞬、言葉を切る。


「こうなるってわけだ」


「なっ……!」


サメの顔が引きつった。


「正直結構ビビったぜ」


与志野は苦笑した。


「お前の祝福に喰われた物質がどうなるのか分かんなかったからな。喰われて口の中に入った瞬間に消滅するとかだったら終わってたよ」


「だが廃工場ごと飲み込んだから処理に時間がかかったのか、もしくは元々そういう仕様なのか……消滅するまでにタイムラグがあったみたいで助かった」


与志野の言葉に翔馬も小さく息を吐いた。


「全く……無茶するぜ」


「だから何……?メガロドンはもう一体いる!」


サメは声を荒らげた。


燃え盛る廃工場跡。その地面の下で残されたもう一体の巨大な影が動き出す。


次の瞬間、翔馬と与志野の足元に巨大な口が姿を現そうとしていた。


だが――。


ズズズ……。


「……ッ!!」


サメの表情が凍りついた。


地面の下でメガロドンの影がみるみる小さくなっていく。


先ほどまで廃工場すら呑み込めそうだった巨体が、目に見えて縮んでいた。


「そのメガロドン……かなりエネルギー喰うみたいだな」


与志野が息を整えながら言った。


「俺らを喰わせようとして自分が喰われてちゃ世話ないぜ」


「黙れ!!」


サメの声が響く。


しかし翔馬たちは一歩も引かなかった。


「そっちこそもう大して蒼の気残ってないでしょ。強がるのもいい加減にしたら?」


「……かもな」


翔馬は自分の血に染まった足を見下ろし、短く答えた。


廃工場跡にサイレンの音が響き渡る。


崩れかけた瓦礫が音を立てて崩落し、残された炎が周囲を赤く照らした。


サメは歯を食いしばり、最後のメガロドンへ意識を集中させる。


「あいつらを喰らえ、メガロドン!!」


――ゴォォォォォオ!!!!


地面が大きく盛り上がり、巨大な影が翔馬たちへ迫る。


その瞬間、与志野が前へ踏み出した。


「Shotgun(ショットガン) Finger(フィンガー)!!」


――ドゴォンッッッ!!!


蒼の気を凝縮した一発の突きが地面へと叩き込まれる。


ドォォォォォンッ!!!


凄まじい轟音とともに地面が大きく割れた。


亀裂はメガロドンの潜む地中へと走り、地盤そのものを揺るがす。


巨大な影にも亀裂が入り、一瞬だけ地面の下でうごめいた。


そして――。


沈黙。


割れた地面からニ度とその姿が現れることはなかった。


サメは呆然と崩れた地面を見つめていた。


(地面ごと破壊された……!?)


「嘘……」


ヒュンッッ――。


風を切る音が耳元をかすめた。


次の瞬間、サメの目の前が暗くなる。


――ドゴッッ!!


翔馬の拳がサメの腹部に深々と突き刺さっていた。


「ヴッ……!」


呻き声が漏れる。


衝撃が腹の奥まで突き抜け、サメの視界がぐにゃりと歪んだ。呼吸が詰まり、身体から力が抜けていく。


踏ん張ろうとしても足が言うことを聞かない。


やがて膝が崩れ、サメの身体は地面へと沈み込んだ。


(優……だ……)


――ドサッッ。


サメの身体が地面に倒れ込んだ。


その瞬間、地中から感じられていた蒼の気が嘘のようにすべて消え去った。


周囲に残るのは燃え盛る廃工場の炎と、近づいてくるサイレンの音だけだった。


翔馬と与志野は荒い息を整えながら倒れたサメを見つめた。


「倒した……のか」


「ああ」


与志野が短く答える。


「まだ信じられねえよ……俺たちが……」


言葉が途切れた。


たった数日前まで二人は自分たちの力をまともに扱うことすらできなかった。


それが今、エルサを殺した相手を自分たちの手で倒したのだ。


実感が追いつかないのも無理はなかった。


――その時。


キキィッ!


近くで車が止まる音がした。


続いて複数の人間の声が聞こえてくる。サイレンはすぐそばまで迫っていた。


「おっとまずい……翔馬、早く行こうぜ!」


「そうだな……手貸してくれ」


「おう」


与志野はすぐに翔馬の身体を支えた。


翔馬は傷ついた足を引きずりながら、ゆっくりと歩き出す。与志野もまた、疲労で限界に近い身体を引きずりながらその歩調に合わせた。


二人の背後では、確かにそこにあった筈の廃工場の残骸が最後の灯火の様に燃えていた。


振り返ることなく、二人はその場を後にした。


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