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亜里野ストーリー The first step  作者: 与志野音色 公式
序章 新界高校編

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15/25

15話 決意


旧校舎四階。


翔馬たちが残した傷跡のせいで生徒たちはもちろん、教師でさえほとんど立ち入らなくなった教室がある。


壁にはひびが入り、床には戦闘の痕跡が残っている。


そこに一人の生徒が椅子に腰掛けていた。


彼は机に頬杖をつきながら、何かを考えるように天井を見上げていた。


やがて、入り口のドアが開く。


「真斗さん……やっぱり優大一派と亜里野翔馬、接触してたみたいです」


入ってきたのは女子生徒。


彼は視線だけを彼女に向けた。


「やっぱりな〜……」


気の抜けた声。


「派手にやってないといいけど……まああいつらに期待するだけ無駄か」


「どうします?漁夫の利狙いますか?」


女子生徒が尋ねる。


真斗は椅子の背もたれに身体を預け、少しだけ悩むような仕草を見せた。


「んー……」


数秒の沈黙。


やがて彼は軽く肩をすくめた。


「まだ先生から何の指示もないし、あいつらの能力も分からない以上様子見でいいでしょ」


「分かりました」


「亜里野と与志野の能力が分かったら教えて」


真斗は机の上に置かれていたスマホを手に取る。


「先生の指示があり次第、動く」



———



優大達との騒動から五日が経過していた。


朝のホームルーム。


教室には普段とはどこか違う落ち着かない空気が漂っていた。


担任の大井史は教壇に立ち、出席簿を閉じると教室全体を見回した。


そして呆れたように口を開く。


「ここ最近このクラスの出席率が非常によろしくない」


教室のあちこちから、気まずそうに視線を逸らす気配が伝わる。


「しかも学校への事前連絡もないときた」


大井史は一度言葉を切った。

その表情からいつもの穏やかさが消えている。


「それから山口達だが……保護者へ連絡したところここの所一回も家に帰っていないと報告があった」


「……」


「何か知っていることがあれば私のところまで来なさい、以上」


大井はそれだけ告げると教室を後にした。


ドアが閉まる。


――その直後。


教室は再び騒がしさを取り戻した。


「山口達家出?高校生にもなってダサいよな」


「何かあいつらイキっててうざかったんだよな。このまま退学すればいいのに」


「ハハッ、言い過ぎ!」


「それにしてもこのクラスやばくね?」


別の男子生徒が教室を見回す。


「今日も十人くらい休んでんじゃん」

「ほぼ学級崩壊してるな」


笑い声が上がる。


誰もが山口達の失踪を他人事のように話していた。


くだらない会話。

笑い声。


けれどその裏側で。


生徒達の知らないところで何かが確実に壊れ始めていた。


その頃――。


翔馬と与志野は、家から少し離れた人気のない林の中にいた。


周囲に人の気配はない。


木々の隙間から差し込む夕陽が二人の足元を赤く染めている。


二人の身体からは蒼の気が立ち昇っていた。


「……」


翔馬は拳を握りゆっくりと腕を動かす。

蒼の気がその動きに合わせるように揺らめいた。


「結構慣れてきたな……」


翔馬が呟く。


「これなら少しは戦えそうだ」


「だな」


与志野も頷く。


二人はしばらく無言で立っていたが――


「……そろそろいいか」


「うん」


翔馬と与志野が同時に力を抜く。

蒼の気がゆっくりと身体の中へ消えていった。


その瞬間だった。


「……っ」


二人の身体から汗が一気に噴き出した。


「フーッ……!」


翔馬は膝に手をつき、大きく息を吐く。


「やっぱ蒼の気出しっぱなしだとかなり疲れるな……」


「思ったより消耗するよな」


与志野も額の汗を拭う。


まだ完全に自在に扱えるわけではない。

力を出し続ければ、身体には確実に負担がかかる。


それでも――五日前とは明らかに違っていた。


二人はもう自分たちの力を恐れてはいなかった。


「……今日はもう休もう」


与志野が言う。


「ああ、明日は久しぶりの登校だ」


翔馬も頷いた。


そして二人は林の向こうに沈んでいく夕陽を見つめる。


翔馬が静かに口を開いた。


「……明日、仕掛ける」


翔馬はその決意と共に拳を握り締めた。


翌日の昼休み。


一年のクラスの廊下に見慣れない男子生徒が立っていた。


翔馬たちの教室を覗き込み、何かを探すように中を見回している。


教室にいる生徒達は気にしながら小声で話していた。


「……あいつ今週ずっと来てるよな」


「確か二年生だろ?さわ……だっけ」


「誰探してんだろ……話しかける?」


「やだよ、怖いじゃん」


さわはそんな声など気にする様子もなく教室を見渡すと、ため息をついた。


(……やはり怖気付いたか)


――その時。


「人探しか?」


背後から声がした。


「手伝うぜ」


さわの動きが止まり、ゆっくりと振り返る。


「……」


そこに立っていたのは翔馬と与志野だった。


「……意外だな」


さわの口元が僅かに歪む。


「逃げたかと思ったが」


翔馬は答えない。


ただ、さわを真っ直ぐ見据えていた。


「逃げたら――」


翔馬が口を開く。


「エルサの仇を討てねえだろ」


その言葉にさわの目が細くなる。


「……フッ」


そして楽しそうに笑った。


「ずいぶんと強気だな」


さわは二人を交互に見る。


「一週間程度の付け焼き刃で俺達を倒せるとでも?」


翔馬は拳を握る。

その身体から微かに蒼の気が漏れ出した。


与志野も同じだった。


二人の目には五日前にはなかったものが宿っている。


「やってみなきゃ分かんねぇだろ」


翔馬が低く呟く。


さわの笑みがさらに深くなった。


「……放課後、またあそこへ来い」


さわはそれだけ言うと、踵を返した。


「少し遊んでやる」


そう言い残し、廊下の向こうへ歩いていく。


やがてその姿は人混みの中へ消えた。


「……」


しばらく翔馬と与志野は何も言わなかった。

教室には先ほどまでのざわめきが戻り始めている。


与志野が隣を見る。


翔馬の右手が僅かに震えていた。


「……翔馬」

「大丈夫」


そう言って拳を握り直した。

震えを隠すように。


「やるだけ……やってみるさ」


与志野は何も言わなかった。

ただ、翔馬の隣に並んだ。



———



学校の前にあるバス停には何人もの生徒が並んでいた。


「疲れたー腹減ったー」

「ねえ、近くにできたオシャレなカフェ行かない?」

「いいじゃん、行こ行こ」


放課後のいつもと変わらない光景。

翔馬と与志野はそんな生徒たちの横を通り過ぎる。


二人が向かう先は誰もいない。


自転車を走らせること数分。


やがて、新界高校から少し離れた場所にある廃工場が見えてきた。


「……着いたな」


翔馬が自転車を止める。

与志野も隣に停めた。


以前と同じ錆びついた門。

立ち入り禁止の看板。

そしてその奥に広がる薄暗い建物。


与志野が門に手を掛ける。


ガチャッ。


「……鍵、開いてる」


二人は顔を見合わせた。


「待ってたってことか」


「たぶんな」


翔馬は自転車を降りる。


二人はそのまま敷地の中へ足を踏み入れた。


外から聞こえていた車の音も徐々に遠ざかっていく。


翔馬は無意識に拳を握った。


「……行くぞ」


「ああ」


ドアを開ける。


ギィィ……。


二人が工場の中へ足を踏み入れた、その瞬間だった。


「――人生最後の授業はどうだった?」


奥から声がした。


翔馬と与志野が同時に顔を上げる。


薄暗い工場の奥。


そこには古びた椅子が一脚だけ置かれていた。


さわはその椅子に腰掛け、二人を待っていた。


「……優大はどこだ」


翔馬が問いかける。


さわは答えない。

ただ、口元を僅かに吊り上げた。


「それが遺言か?」


ゆっくりと立ち上がる。


「安心しろ、もう優大さんに怯える必要はない」


一歩。

さわが二人へ近づく。


「ここで死ね」


その身体から青い霧が滲み出した。


ズズズ……。


蒼の気がさわの身体を覆っていく。


翔馬は息を呑む。

与志野も拳を握り締める。


今の二人には逃げる理由もなければ逃げる場所もない。


翔馬はさわを見据えた。


「やってみろ」


静かな声だった。


その瞬間――蒼の気が爆発的に膨れ上がった。


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