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亜里野ストーリー The first step  作者: 与志野音色 公式
序章 新界高校編

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12/25

12話 成功

自分の身体が自分の意思から切り離されていく。


(やばい……!これ……死ぬ……!)


「がっ……!翔馬っ……!」


声が掠れる。


翔馬はエルサを抱えたまま、与志野へ駆け寄ろうとした。


「与志野ッ!!」


与志野は苦しみながら、必死に翔馬へ視線を向けた。


「逃げ……ろ……!」


声を絞り出すのが精一杯だった。


左手は自分の首を締め続けている。

指を引き剥がそうとしても、まるで別の生き物のように言うことを聞かない。


その様子を見ながら、さわは翔馬の背中に目を向けた。


そこには眠ったままのエルサがいる。


さわの口元がわずかに歪んだ。


「……早くその伸びてるのを連れて来い」


「……!」


「そしたら与志野音色は解放してやる」


翔馬の足が止まった。


「……ッ!!」


背中のエルサを見る。


そして、苦しそうに地面へ膝をつく与志野を見る。


(与志野を助けないと……でもエルサを渡したら絶対に殺される!)


頭の中で二つの選択肢がぶつかり合う。


どちらを選んでも誰かが死ぬ。


翔馬は拳を握りしめる。


目の前には動けない与志野。

背中には眠ったままのエルサ。


そして、その二人を見下ろすように立つさわ。


「……どうする?」


さわが静かに問いかけた。


翔馬は答えられなかった。


様々な感情が一気に翔馬の中へ流れ込んでくる。


エルサとの出会い。

入学式の日に交わした言葉。

与志野と過ごしてきた時間。


そして――青木との約束。


呼吸が荒くなる。


「やめろ……!!」


翔馬が叫ぶ。


その瞬間――

脳裏に優大の言葉が蘇った。


『祝福がどうやって目覚めるか……分かる?』


『強い感情だよ』


『それと――生命の危機』


「……っ」


翔馬の足元に何かが集まっていく。


それは、薄く青白く揺れていた。


「やめろ……!!」


しかしさわは止めない。


与志野の呼吸がさらに弱くなる。


「……がっ……」


翔馬の視界が揺れた。


(嫌だ……)


(もう……誰も失いたくない)


「やめろって言ってんだろッッ!!!!」


ドォッッ!!!


その瞬間――


翔馬の足元から凄まじい蒼の気が噴き出した。


まるで爆発したような蒼い風が周囲を薙ぎ払う。


「ッ!?」


さわの身体が大きく煽られ、バランスを崩した。


「蒼の気……覚醒か!」


次の瞬間。


翔馬の姿が――消えた。


いや違う。

速すぎて、目で追えなかった。


瞬きをするよりも早く、翔馬はさわの目の前に立っていた。


「――ッ!」


ドゴッッ!!!


鈍い音が響く。


翔馬の拳が、さわの腹部へ深く捩じ込まれた。


「ぐぁっ……!!」


さわの身体が宙へ浮く。

そのまま凄まじい勢いで吹き飛ばされ――


ガシャァァンッ!!!


閉ざされていた工場の門が、扉ごと吹き飛んだ。


さわの姿がその向こうへ消えていく。


「……」


翔馬は自分の拳を見つめた。


拳の周囲には蒼い光が微かに揺れている。


一方――


「ゴホッ……!ゴホッ、ゴホッ……!」


与志野は激しく咳き込みながら、ようやく自由になった左手を確認した。


首から手が離れている。


助かった。


そして――


与志野はゆっくりと翔馬を見る。


「翔馬……」


その目に驚きが浮かぶ。


「お前……」


翔馬自身も、何が起きたのか理解できていなかった。


ただ一つだけ。


自分の足元から蒼の気が溢れていることだけは分かった。


(何だこれ……)


翔馬は自分の足元から溢れ出す蒼の気を見つめた。


(俺から……蒼の気が……!)


さっきまでただ見えるだけだった。


それが今は、自分の身体から溢れている。


しかも――

自分でも分かる。


身体がとてつもなく軽い。


その時だった。


「ん……」


背中から小さな声が聞こえた。


「……え?」


翔馬が振り返る。


背負っていたエルサがゆっくりと目を開けていた。


「……翔馬?」


「エルサ!」


翔馬の顔が一気に明るくなる。


「起きたか!」


「あぁ……」


エルサはぼんやりと周囲を見回した。


「……ここどこ?」


「……」


そこで翔馬は気づいた。


(あれ……)


(これ、どう説明すればいいんだ?)


隣を見る。


与志野も同じことを思ったらしい。


翔馬へ一瞬だけ目を向け――


――上手く説明しろ。


そんな目配せをしてきた。


(出来るかよこんな状況で!)


「ここどこ?てか、何で俺おんぶされてんの?」


エルサが首を傾げる。


「え〜と……」


翔馬は必死に頭を回した。


「何かお前、帰りのホームルーム辺りから教室で爆睡してたぞ。だから家まで運ぼうと思ってさ」


「え……マジで?」


エルサは目を丸くする。


「てか、ここどこだよ」


「いや、俺はやめとけって言ったんだけど……」


翔馬は与志野を指差した。


「肝試しだよ、与志野がどうしても帰る前に探検したいって言うから……」


「…………」


その瞬間。


与志野から、鋭い視線が飛んできた。


――嘘、下手すぎんだろ!


(何だよ探検って!小学生か!)


――しょうがねえだろ!考える時間ねえわ!


二人が無言で睨み合っていると、


「……あれ?」


エルサが工場の奥を指差した。


「奥にいるの誰?一緒に来た人?」


「え?」


翔馬と与志野が同時に振り返る。


工場の奥。

薄暗い闇の中から――


誰かが歩いてくる。


ズル……ズル……。


何かを引きずるような音が響く。


「……翔馬」


与志野の声が低くなる。


「……!」


暗闇から姿を現したのは優大だった。


その手には田野の身体。


田野は意識を失っているのか、完全に力が抜けていた。


「……田野!」


翔馬の表情が凍る。


優大はそんな二人を見ていつもの調子で笑った。


「あれ?」


そして翔馬の足元に漂う蒼の気へ視線を向ける。


「翔馬君、蒼の気出せてんじゃん!成功したんだ」


「……」


「さわナイス〜」


優大が振り返る。


「……って、あれ?」


さわの姿が見えない。


「さわは?」


「ゴホッ、ここですよ」


その声とともに――


工場の入口にある門の向こうからさわが歩いてきた。


服についた埃を払いながら、何事もなかったかのように。


「…………」


翔馬の目が見開かれる。


(は……!?あいつ何で……!?)


トラックに轢かれたような勢いで吹き飛ばされ、門まで吹き飛び扉ごと破壊した。


なのに見た所大したダメージは無さそうだった。


「さてと……それじゃあ……」


優大が翔馬達に近づく。


翔馬は無意識に拳を握りしめた。

これから来るであろう絶望に抗うかの様に。


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