第4話『隠されたオレンジの笑み』
放課後、図書室の窓際には、まだ小さな色の欠片が揺れていた。
今日はオレンジ──少し温かく、でもどこか切なさを含む色。手に取ると、胸の奥にぎゅっとした重みが伝わる。
「オレンジ……誰のだろう」
私はつぶやきながら、欠片を握りしめた。その瞬間、教室の光景が頭の中に映る。
笑い声の中で、机の端にうつむく小さな影。楽しそうにしているのに、どこか居場所を失ったような寂しさが漂っていた。
「……あ、これって」
無意識に声に出していた私は、すぐに気づく。あの影、部活の先輩だった。元問題児として知られ、授業中もトラブルを起こすことがあったけれど、今では部室の整理や後輩指導に励む姿があった。
でも、心の奥底には後悔がある――それがこのオレンジの色に表れている。
放課後、勇気を出して声をかける。
「先輩……少し、話せますか?」
先輩は一瞬驚いた表情を見せたが、すぐに小さく頷き、私の隣に座った。
「……オレンジの色、見えたんだな」
「はい……何か、心に残っている後悔の色でしょうか?」
先輩はしばらく黙ったまま、机の上の色を見つめる。やがて小さな声で語り始めた。
「昔……クラスの友達を傷つけたことがあるんだ。俺の軽はずみな言葉で、信じてくれていた人を泣かせてしまった……。それからずっと、後悔だけが残っていて」
握りしめるオレンジの欠片が、少しずつ温かく光り始めた。
「それを、取り戻したいんだね」
「……うん」
先輩の瞳が、ほんの少し輝きを取り戻す。胸の奥の重みが解けていくようで、私まで心がほっとした。
その瞬間、部室に佐原美咲と大倉翔子が入ってきた。二人とも興味深そうに、でも優しく微笑む。
「先輩、少し楽になったんじゃないですか?」
「……ありがとう、葵」
先輩は小さく頭を下げた。その笑みは、今まで見たことのない温かさを帯びていた。
図書室を出ると、夕日がオレンジ色に教室を染めていた。
青、黄色、オレンジ……拾った色が少しずつ部室に集まり、私たちの放課後を鮮やかに彩る。
でも、胸の奥に残る灰色の記憶はまだそのままだ。
「私の青も、必ず取り戻す――」
誓いながら、私は新しい色を探す手を休めなかった。
今日もまた、誰かの心を少し軽くする小さな冒険が、放課後の図書室で静かに始まったのだった。




