第3話『青い約束の欠片』
放課後、図書室で色拾い部の活動をしていると、今日も窓際に微かに揺れる色を見つけた。
青──澄んだ空の色のようで、でもどこか重さを感じる。触れた瞬間、胸の奥に小さな痛みが広がった。
「あ……これも、誰かの?」
私は独り言のように呟きながら、指先でそっと掬い上げた。
その瞬間、教室の窓の外に浮かぶ光景が頭の中に映った。幼い私と誰かが手を取り合い、約束を交わしている光景。だが、次の瞬間、場面は切り替わり、私の記憶からその約束は消えていた。
“灰色の記憶”――幼い頃に交わした約束。誰と、何を、約束したのか、全てが霞んでしまったままだった。
その青の欠片は、私の記憶の一部なのかもしれない。
恐る恐る握りしめると、重みが指先に伝わる。小さく震える感覚は、まるで私自身の忘れてしまった思い出が呼びかけているかのようだった。
その日の放課後、私は部室で大倉翔子と佐原美咲に話を切り出した。
「……実は、私、色が見えるんだ」
二人の目が一斉に私に向く。驚きと疑念が混じった表情。
「色……?」
「人の感情や後悔が、目に見える形になるの。落ちている色を拾うと、その人の心が少し軽くなることもある」
説明しながらも、私自身、不思議で仕方なかった。どうして自分だけがこんなものを見られるのか。
佐原美咲はしばらく黙ったまま考え込む。
「……面白いですね。じゃあ、私も手伝いましょうか?」
驚きと安堵が入り混じった表情で、彼女は静かに頷いた。
大倉翔子も少し迷ったあとで、にっこり笑う。
「私もやってみる……葵と一緒に」
こうして、色拾い部のメンバーは三人になった。小さな活動だけれど、確かに始まったのだ。
窓の外に夕日が沈む頃、私はふと青の欠片を握りしめながら思った。
“もしかしたら、私の消えた約束も、この色の中に隠れているのかもしれない”と。
次の日から、私は部員たちと共に、色を探し、拾い、そして少しずつ人の心に触れる日々を始めた。
青い欠片が導くのは、誰かの痛みを癒す道だけでなく、私自身の失われた記憶を取り戻す旅の始まりでもあった。
窓際に揺れる青を見つめながら、私は小さく誓った。
「必ず、私の青も、取り戻す――」




