第2話『消えた笑顔の黄色』
放課後、私は図書室で色拾い部の準備をしていた。
「今日も色、拾えるかな……」
小さく呟きながら、教室の隅で揺れる黄色に目を留めた。
鮮やかで明るいはずの黄色が、どこか沈んでいる。見つけた瞬間、胸の奥がきゅっと締めつけられるような感覚がした。
「……あ、この色、誰のかな?」
その時、佐原美咲が図書室に入ってきた。無口で成績優秀な彼女。教室ではあまり話さないけれど、目はよく動き、周囲の様子を鋭く見ている。
「あ、葵先輩……何してるんですか?」
「えっと……色を……」
私は言葉を濁した。美咲にはまだ、この能力のことを話していない。
彼女は私の手元を見つめた。手のひらに残る黄色の欠片を、興味深そうに眺めている。
「……あの、なんだか、元気がなくなる色ですね」
美咲の声は小さいけれど、言葉の重みがある。胸の奥で、黄色が揺れ動いた。
指先が熱くなる感覚とともに、私は理解した──この色は、誰かの“失われた笑顔”なのだ、と。
翌日、教室で観察していると、黄色の主はすぐに分かった。大倉翔子だ。
いつも明るく笑う彼女の目は、授業中にちらりと暗く沈む瞬間がある。その日は特に表情が曇っていた。舞台の授業で、発表が控えているのだろう。
「あの黄色……翔子さんの笑顔か」
私はそっと欠片を手に取り、放課後、図書室で彼女に渡すことを決めた。
放課後、勇気を振り絞って翔子に声をかける。
「ねぇ……これ、受け取ってほしい」
手のひらの黄色を差し出すと、翔子は驚いたように目を見開いた。
「これ……私の……?」
「うん、誰かのために集めたんだ。少しでも楽になればいいなって」
翔子の手が私の手に触れる。黄色がほんの少し、光を取り戻すように見えた。
その瞬間、翔子の表情がふっと柔らかくなった。
「ありがとう……葵」
小さな声でつぶやくその笑顔は、確かに元の輝きを取り戻していた。
私は微笑み返しながら、胸の奥で感じる小さな満足感に身を委ねた。
図書室を出ると、夕焼けが窓をオレンジ色に染めていた。
空の色が教室に差し込む。誰かの色を拾うだけで、こんなにも世界が優しく見えるなんて──。
でも、同時に、私はふと思った。
“私の灰色の記憶は、いつ、誰かに拾ってもらえるのだろう”と。
色を拾う小さな一歩が、私自身の過去へと続く道にもなる──そんな予感を抱きながら、私は今日も、次の色を探すのだった。




