第5話『灰色の約束』
放課後、図書室で色拾い部の三人は、今日も静かに欠片を集めていた。青、黄色、オレンジ――拾った色は部室の窓辺で揺れ、柔らかな光を放つ。
でも、私の胸には、まだひとつ──灰色の欠片が残っている。
「葵先輩……また、その色ですか?」
佐原美咲が不安そうに尋ねる。
「うん……私の色、これだけはまだ拾えないの」
小さく答えながら、私は握りしめた灰色の欠片を見つめる。幼い頃に交わした約束、消えてしまった記憶……その全てが、この色に詰まっている気がした。
その日の放課後、部室の扉が勢いよく開いた。
「葵、来て!」
大倉翔子が目を輝かせながら呼ぶ。何かを発見した様子だった。私は二人について教室に向かう。
教室の隅には、まばゆい光を放つ青い欠片がひとつ。
でも、これは私の青ではなく、誰かの記憶の断片だった。触れると、記憶の中にある“秘密”が見えてくる──クラスメイトたちの小さな痛みや嘘、取り戻したい思い。
「やっぱり、私の色も……」
そう思った瞬間、頭の奥に幼い日の光景が浮かんだ。
私と誰かが、校庭で手を取り合い、笑いながら約束を交わしていた。
「また遊ぼうね」
「うん、絶対に」
その約束の相手は――思い出せない。灰色の記憶はまだ完全に戻らないけれど、青の欠片を拾うことで、少しずつ輪郭が見えてくる感覚があった。
「葵先輩、大丈夫ですか?」
美咲と翔子の声で我に返る。
「うん……ありがとう。私、やっと少しわかった気がする」
私は決意を新たにした。
灰色の欠片は、必ず拾う。たとえ時間がかかっても、自分の心の中に埋もれた約束を取り戻す。
そして、他の人の色を拾いながら、少しずつ教室の空気も、みんなの心も、柔らかく彩られていくのだと確信した。
夕日が窓から差し込み、部室をオレンジ色に染める。
青、黄色、オレンジ、そして灰色──私たちの色は、まだ完全ではないけれど、確かに輝き始めている。
「よし……明日も、色を探そう」
小さくつぶやき、私は握りしめた灰色の欠片を胸にしまう。
放課後の小さな冒険は、まだ始まったばかり。
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