閑話 ネコじゃねぇ!
鋭い目で俺を睨み付けてくる巨体。
何度めの攻撃を避けただろうか?すれ違い様に斬撃を刻みヤツの体には切られた無数の痕が見える。
「このイノシシ野郎が…いい加減に倒れろ…」
対峙しているコイツの名は
『フォレストボア』
ブロンズ…Dランクの壁としてこの町では有名な存在…なのだが
「この野郎…普通のフォレストボアの3倍はありやがるぞ、あの依頼ふざけんなよ…」
フォレストボアの退治依頼は定期的に出る。出るのだが倒せる者が少ない。
そこで俺は皆が嫌がる役をかって出ている…訳ではなく、単純にコイツの肉は美味い。獣人だから特にかもしれないが肉は好きだ。もちろん肉を食わない獣人もいるが…
デカいし予想外の相手だから追加報酬も出そうだし、皮にも極力傷が付かないように戦ってはいるがコイツはタフだ。
「そろそろ突進もしなくなって意外と頭良いかもなコイツ…」
そう呟いたのは間違いではなかった。
次の瞬間、方向転換して全力で逃走し始めたのだ。
「マジか!?」
慌てて追いかけ始めるが、走り始めたのが早い分ヤツが有利だ。しかし獣人の中でもスピードに優れた琥珀王の血を引く一族と言われている。
「はっ!ここまでやって逃がすわけねぇだろ!」
逃げた瞬間から足に意識を集中すると変化が起こる。踵から爪先までが延び、脛が縮み肉食獣の脚部へと変化する。
変化はすぐに収まり俺は駆け出した。
大地を掴むように踏み締めて目まぐるしく深緑が過ぎ去っていく。逃げたフォレストボアにぐんぐん迫っていく。
その時、大猪の前方に注意を向けると人影が見えた。
「逃げてくれ~!危ねぇ~!」
俺の声に気付いて二人は振り替えると同時に驚愕の表情を浮かべていた。
男女だと気付いた。片方は指導員として基本を叩き込んだ弟子とも言えるステラ…だが俺は次の瞬間、男の方に注目していた。明らかに村人の様な格好をしているにも関わらず少しも目を逸らさず 、フォレストボアの突進から咄嗟に動きステラの腕を引いて二人とも避けたのだ。
おいおい…嘘だろ?正直な所ステラでは避けれないと思ってしまった。
事実、ステラは一瞬固まって動けずにいた。だが隣にいた少年は咄嗟に動いたのだ、フォレストボアから視線を外さず的確にステラの腕を引いて回避して見せたのだ。
そして大猪を見る後ろ姿を横空駆け抜けた。
「すまねぇ!お詫びに肉をプレゼントする…ぜっ!」
コレがカズキとの出会いと、俺の因果が断ち切れた瞬間だった。
すり抜け様に痺れ薬が塗られたナイフをホルダーより放った。
その刃は狙い澄まされ吸い込まれるように突き刺さり、効果により痺れながらも走る勢いは止まらずにフォレストボア自身の重さによって地面に叩き付けられ3回転ほどした所で事切れた。
倒れたフォレストボアを念のために止めを刺してから通り過ぎた二人の所へと戻った。
「いや~悪ぃ悪ぃ。あと一歩でアイツ逃げやがってよぉ~…ってステラか?こんな所で逢い引きか?」
一瞬ポカ~ンとしていたがステラの顔がみるみる赤くなっていく。
相変わらず正直で可愛いヤツだ。素直さと相まって、からかいたくなる。
まぁ思った通りステラは薬草摘みの依頼で来てたが次の言葉で俺は内心驚愕していた。
「『迷い人』のカズキ…」
迷い人だって!?あの伝説のか!?
その昔、傷付いた大白虎の『琥珀王』を救ったのが迷い人で様々な困難を打ち砕く存在と物語で言い伝えられている。
その物語が好きで何度でもバアちゃんにグズって読んで貰った。
『あの迷い人』…
「ほぉ~!迷い人か!俺、初めて見たわ!」
内心を悟られないように軽快な足取りで物珍しそうに回りして全身を見る。
この迷い人…カズキは俺をジッと見てくる。当たり前だ、俺だって知らないヤツが近づいてくれば怪しむし…と思っていたら次の言葉で度肝を抜かれた。
「獣人?…ネコ?」
「トラだ!」
反射的に返してしまった。それに本来なら激昂して八つ裂きにしてしまう様な発言であったが、俺は内心ワクワクしてしまっていた。
物語でも琥珀王を『ネコ』呼ばわりしたからだ。まぁ物語のブランスは本当にネコ位の大きさの時に迷い人と出会い、共に成長し絆を築き上げ琥珀王になったと言われているからだ。
「俺はトラの獣人で名前はレイグル、まぁ迷い人は知識ねぇって聞くしな間違えるのもしょうがねぇぜ…因みに俺は『盗賊』だ」
ニヤリと笑いながら俺はわざと言った。当然迷い人のコイツは身構える。
がステラに意趣返しされてしまった。
「ハイハイ…自称『盗賊』で私に冒険者の心得を教えてくれた短剣使いのレイグルさんね…」
「なっ…いきなりバラすなよ。近付いてくる奴を信用しないようにだな…」
「もう私が説明しましたから心配無用です。カズキ行きましょう?」
なかなか怒らせてしまったらしくスタスタとステラが迷い人を行ってしまい呆然と立ち尽くす俺だった。
その後は獲物をそのままにしておくなんて勿体ない事はできず…時間はかかったが魔法鞄へと収納したのだった。
「ちわ~、依頼の訂正と報酬アップ…と緊急の報告があるから、ギルマスよろしく~」
カウンターへ依頼書を叩き出したら慌てて受付嬢のレジーナがギルマスを呼びに行ったので、のんびり待った。
「レイグル…分かってるとは思うがフォレストボアの報酬アップは出来ねぇぞ?後緊急の報告ってなんだ?」
待ったあげくに解体場に呼ばれた。まぁ俺が肉を速攻で頼むから最早恒例ではあるんだけど…
「その事も含めて関連性あんだよね。フォレストボアここで出しても?」
頷いたので少し後ずさり、バグラムに当たらない様にドンッと出した。
まぁ当たり前だが開いた口が塞がらない。俺が発見した時も我が目を疑った位だし。
「報酬アップ、してくれるよな?」
「なっ…何なんだコイツは?普通のフォレストボアの3倍はあるじゃねぇか!?」
俺は取り乱すバグラムをよそに腕を組んで机に腰かけ足を組んだ。
「知ってる。対峙した俺が一番驚いたからな、でコレが緊急の報告だから特別報酬もよろしく」
バグラムは頭を抱えているが一冒険者の俺は知ったこっちゃない。この街は好きだが報酬貰って明日の飯が大事だ。
「『迷い人』も現れ、森で異変…いったい何かが起きようとしているのか?」
迷い人で思い出した
「そう言えば森で、すれ違ったけどステラが連れてきた迷い人って連れて来たんだ?」
「あぁ、って会ったのか。今頃町を案内しているか宿屋にでも行ってるんじゃないかな?先行投資はしてあるから期待しているけどね。」
そうか迷い人は多分ステラと同じ宿屋か…バグラムの話を無視して考えていた。
フォレストボアの件は異常個体という事で一通り調べてから明日解体するという事で決まり宿に戻った。
思ったより時間をくってしまい俺がギルドへ着いたのはステラ達の1時間後だった。
あまりの疲れ具合に厚切りステーキを貪って死んだように眠り、回復に努めた。
朝イチでギルドへ向かい残りの肉を貰ってステラを探しに行ったのだった。
「この時間なら宿にいるはず…ん?何だ?この音」
ステラが泊まっているであろう宿へ全速力で屋根伝いに跳んでいると何か金属を叩く音が聞こえた。
ここは鍛冶屋町ではないので目立ったが何処か控えめな音が気になった。
迷い人探しが気になりながらも音に吸い寄せられると、驚く事にお目当ての迷い人が鍛冶をしている場面に出会ったのだった。
真剣に何かを打っていた姿に屋根の上で俺は見入った。
完成するまで、あっという間だった。俺が知っている鍛冶師と打ち方が違うのもそうだが、スピードに驚かされた。
周りに釜戸等が無いのに魔法を使いながら形を整えナイフの形になっていくのだ。
そして俺は知らず知らずの内にナイフを掴み、ハッとした。アイツはにナイフを打って貰いたいと思っていた。
そしてアイツは打ち終わって刀身に何かを細工し宿屋の主人に渡していた。
遠目からでも出来上がった物の存在感を感じた。
「あの領域で作れるのに出来たのはキッチンナイフかよ…イカれてんな」
そう、たかがキッチンナイフで異次元とも言える出来なのだ。
思わず笑みが溢れた。
屋根から飛び降り、更に驚かせられたのは主人が捌いているガゼルフィッシュの角が柔らかい物と同じような刃の食い込みを見せた時だった。
自分の思考の中で切り落とされる角の映像が何度も流れ、俺は意を決した。
宿屋に入り話しかけた。
「ふ~ん、お前さん面白い物が作れるんだね」
ガタッっとステラが警戒した
「おっと悪い悪い、俺だよ。カンカン聞こえて興味が湧いてね。あと約束の『肉』ね」
なるべく平静を装い、ドサッっと一塊の肉をテーブルに置いた。
昨日狩った権利として肉を無理やり解体して貰った。そして食ったが、この肉はかなりの旨さだった。
それでも惜しくない位に、ナイフへの期待値が上がり金貨まで置いたがアイツは飯を食いながら質問をしてきた。
俺も只欲しかった訳じゃない。
来月に控えた昇格の為にも欲しかった訳だった。だがそんな理由すら吹っ飛ぶ魅力があの鍛冶の腕にはあった。
「来月のギルドランク昇格試験でシルバーに上げてぇんだ、だから頼む!」
頭を下げた瞬間に雰囲気が変わった気がした。
「失礼を承知でステータスを見せて貰っても良いですか?」
絶好の機会を逃すべきじゃない!と思いステータスを出すと、じっくり見始め次に出るであろう言葉を待った。
だが返事は期待を裏切られた。
「あ~…多分今の俺には無理です。」
「なっ!何でだ!金が足りねぇのか?!」
俺は思わずパニックになったがステラ横から補足して来た。
「レイグルさん…カズキは昨日冒険者になったばかりよ?多分さっきの包丁が今の限界って意味だと…」
そしてステラはチラチラ迷い人の男を伺いながら最後まで言いウンウン頷く迷い人。
そして迷い人はまたしても驚きの提案をしてきた。
「雑魚のレベル上げに利用されて見ませんか?まずはソコに入ってるの作るんで俺の腕を見ません?」
自分自身を雑魚と言ったのも驚いたが指先と視線は俺の武器の鞘に隠している『投げナイフ』を指差した事はもっと驚いた。
正直バレた事がなかったと言うのもそうだが、ますます愉快になってしまった。だが…
「…何でここに武器があると思った?」
初心者を気取った暗殺者…と言うことも可能性がないわけではないので警戒しておく。
「貴方のジョブで自分だったらソコに隠すと思うから…でしょうか、懐に入れたら自分に刺さりそうですし」
驚いたが正直改善策まで話すと思わなかった。実際に懐にいれて部屋で痺れて動けなくなったことがあった。
今では良い思い出だが探索中だったら死んでた。
ここまでで俺は大分気に入ってしまっていた。理屈じゃなく本能的に…
「お前さん、余程の策士か本当のバカだな?乗ってやるよ!ステラ、面白いヤツ拾ってきたな」
鍛治師な雑魚と気弱な魔法使い
そして…こそ泥な猫もどきのパーティが出来た瞬間だった。
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