8 訓練場で崩れ落ちて
「「さっきの絶対に人前でしないでください!(するなよ!)」」
宿で夕食を食っている時に、めっちゃ怒られた。
低レベルだと詠唱破棄を使えない人の方が多く、使える人でも使える理屈が分からないらしい。
良いのか…そんないい加減で…と思ったが勝手に考えてみた感じだと、魔法を唱えまくって脳で想像出来るようになったんじゃないかな。
俺は若干違う。そもそも詠唱を知らないし、地球の理科の知識と魔法の併用だ。
元素を理解しているので魔力を酸素や水素などの元素に変換するイメージで火竜の魔法…を使ったつもりだったけど詠唱より2倍は余計に魔力を消費した。
実は詠唱破棄と無詠唱を同じものだと思っていて、無詠唱に掛かる負担分の魔力が消費しているなど露知らず…正しい知識を知るのは大分後だ。
的外れな事に、もしかして無詠唱の欠点かな?…それとも慣れるまでは余計な所に魔力を使ってしまうのかもな~…と考えているとガシッっと横から肩を捕まれた。
「聞いてますか!?」
「はいっ!危ない時以外使わない事を誓います!」
只でさえ近いのに肩を捕まれ更に間近になり、なだめるのに苦労した夜だった。
「よし、今日はお前らの実力を見せてもらうぞ~」
レイグルにギルドが運営している訓練場に連れてこられた。
剣を装備して一通り買った防具も装備して準備運動してみる。
リストガードと手甲が一体になってる簡易ガントレットだ。
見た目は指貫の革手袋なので軽い分、防御力が低めだけど扱いやすい。
次に薄い鉄板が縫い付けられた半袖でジーンズ生地のジャケットと心臓を守るブレストプレート…簡易な胸当てのセット。
靴はブーツっぽいのに爪先に鉄芯と靴底に踏抜き入りの安全靴仕様だ。迷い人…じゃなく召喚者が広めたらしい。
地球から異世界に死んで転生か転移すると、大抵体が異世界に順応して変異するらしく魔法が使えたりするようになるらしい。
俺は例外で、手違いで死んだ為に神様仕様で転生させて特典を貰って転移させて貰った感じだと理解した。
下手にアウラ様の名前を出すと『神の使徒だ!』とか祭り上げられそうだから、雑魚冒険者鍛治師として頑張る所存であります!。
って話が逸れた…
服も冒険者仕様の丈夫めなの2着買って、コートは持ってるのが基本らしく藍色のコートを買っておいた。
「こんな感じか?」
一応買った物は装備した…必要最低限で個人的には微妙。
「練習だから、とりあえずコートは取っておけ…ステラはっと」
コートの役目は森で尖った枝や茂み、遺跡で狭い所を通る時等に傷つくのを防止の為に着けるらしい。
つまり使い捨てか…
ちなみにステラのはコートじゃなくてローブだ。
「先輩らしく準備万端だな…」
「もちろんです!魔法使いは物理的な攻撃が苦手ですから護りの準備は怠れませんよ」
魔法使いは体力がない…なんて事は嘘だ。
地球ではゲームで魔法を遠距離でブッぱなしまくり、ガードが硬いとかバランス悪いだろ!って事で紙耐久にされている。
しかしこの世界は魔法で常時強化している猛者もいる。
しかし、魔力が少ない初心者はそんな高級な防具も強化魔法も使えないので体力にあった防具になる。
だが
「思ってたより魔法使いって重そうな装備つけるんだね?」
「魔力が多ければ身軽な方が良いんですけどね、体力をつける意味でも多少は重めの装備を付ける魔法使いが多いですよ…彼処までいくと別格ですけどね」
ステラに魔法使いの思い込みを無くさせる知識を貰って苦笑しつつ視線を向けた方を追った。
視線の先にはプレートメイル一式をガッチリ着込んで棒?を持った一人が片隅に立っていた…
「えっ?アレ魔法使いなの!?」
「えぇ、持ってるのは魔導棍と呼ばれる格闘にも使える杖ですけどね。魔力が多くて強化魔法とミスリル等の素材を使った鎧なら鉄の半分の重さになるので魔法使いでも着込む事が可能になるんです。因みにあの方が着ているのはミスリル製の鎧ですね。」
色々と感心しているとレイグルから注意された。
「今から訓練だから気を引き閉めていけよ…あと大将はコレ使えっ!っと」
投げられた剣状の物を慌てて受け取った。刹那の剣技を持つ俺には細かく見えた。
「危ないな…で何コレ?」
切っ先の部分が丸く削られ、刃の部分も丸められた鉄板…もとい鉄鞭?を渡された。
「ソレは訓練用の剣だよ。訓練で実剣を使って怪我してたら、ただのバカだからな。って訳で他の訓練してるヤツ見てから見学して、早速やってみようか…」
「レイグル、他の形した訓練剣って無いの?」
親指で示された方に行ったら色々あった。ラッキーな事にシミター型の訓練剣があり、刀に近い剣を掴みとってステラ達の所に戻った。
戻ってからは周りを見つつ、刀も取り出して重さを比べているとレイグルが寄ってきた。
「タルワー?じゃないな、珍しいモノ持ってんな?確か刀だっけか?ソレの練習したくて別の訓練用の取りに行ったのか」
この世界にもタルワーってあるんだな。名前的に転生か転移者が伝えた気がするけど…刀は伝わってないのか?
いや…日本人が転生するとは限らねぇし、こんなもんかな~と思っていたので嬉しい誤算だった。
「刀…あるの?」
俺の様子が代わったようでレイグルは怯んだが答えてくれた。
「あ…あぁ、あるにはあるけどな。作れる鍛治師がいなくてなあんまり売ってねぇぞ」
やっぱりそうだよな…と考えていると『あと値段が高ぇ』と付け足された。
基本的に刀を作るとしても自分用だし、フォルマが適正価格?で魔法剣の価値を教えてくれたし買い叩かれる心配もないだろう。
気を取り直して訓練用の通常剣型を軽く振る。
意外とずっしりしているが重すぎる事もないので振り回して子供の時に棒切れでよくやった左右八の字に振る。
一通り振り回して遊んでフッと周りを見たらレイグルが興味深そうに見ていた。
「ん?俺、何か変なことしてた?」
「いや…踊ってるみてぇな動きするなと思ってな」
…分からなくはない、どれだけ剣を振れるか?どれだけ伸ばせるか?どれだけ曲げられるか?どれだけ動かせるか?
コレを流れるように意識して動いてみると踊ってるように見える…
正確には『舞』だな
「剣を振った経験があまりないからね、あらゆる振り方を想定しても損はないと思ってね」
苦笑しつつ思い出すのはゴブリンと戦った時だけど、油断して死にかけてる。
それにあらゆると言っても自分が倒れた状態はやってない…というより汚したくない。
「ふ~ん、ソレじゃぁ…早速やってみようか」
レイグルは嫌な予感をさせる笑みをニヤリと浮かべた。
「えぇっ!この訓練場にいる奴等じゃ練習にならないって?!」
次の瞬間にいきなり叫び出したのだった。俺は一瞬唖然としたが慌てて止めた。
「おい!新入りのようだが意気がってるらしいな!いっちょ俺等の手解きしてくれや!」
ゆっくり声の方を向くと怒気に染まった男達が10人ほどいた。
「レイグル!何してくれれんだよ!俺は雑魚だぞ!」
「大丈夫だって…お~い流石に1対1だよな?」
頷いている男衆。顔が怖い。
「くっそ~…覚えてろよレイグル…」
「ハッハッハ!まぁお前さんなら勝てるって、大体レベル同じっぽいし」
若干ビビりながら男衆の前に出た。
「おぉ~おぉ~好き勝手言ってくれてんじゃねぇか!流石泥棒は言う事が違うねぇ」
男衆がドッと嗤った。
レイグルをチラッと見ると頭を掻きながら『また始まったよ…』という表情をしていた。
俺は訳も分からず頭を傾げていると対戦相手その1が得意気に講釈をし始めた。
「なんだ?知らねぇのか?ソイツは仲間を見捨てて、その双剣を手に入れたんだぞ?」
まぁレイグルは盗賊系ジョブだし実際にそういうヤツもいそうだけど…
「ソレは無いな、俺の友達を悪く言うのは辞めてくれ。さっさと始めてくれ」
俺はレイグルを気に入ってるし、俺の客第一号だし…何よりイラついてきた。
「待ってたぜ…コレでも食らえ!」
走ってきて横凪ぎに剣を振ってきたが、ブンッっと空を切る。
刹那の剣技のお陰で見切る事が出来ているけど…如何せん俺の能力が低いのでやっと避けれている。
5度、6度と剣を避けていく毎に慣れていくがキツい。
レイグルめ、ギリギリなの分かってて対戦させたな…チラッと見ると笑ってる。
くっそ~…と思っていると男1に隙を取られた。
「余所見とは余裕だな!」
雑魚なのに俺は余所見なんて高等テクニックを使ってしまった。
結果は剣を飛ばされてしまった。
慌ててタルワー型を構える。
「おいおい…剣もマトモに使えねぇのにソレを扱える分けねぇだろっ」
嘲笑いながら宣言され周りの男衆もドッと嗤う。
そしてボソッっと呟いた。
「弱いヤツほどよく吠えるな…」
一人に聞こえる程度の声で
案の定、顔を真っ赤に染めて血走った目で振りかぶりながら走ってきた。
「てんめぇ~!ブッ殺してやる!」
効果てきめん過ぎて焦った。
けど正直剣道しかやった事ない俺には荷が重いが正眼に構え、此方からも攻めないと勝てないと背水の陣で迎え打った。
相手は右上から左下へ斜めに振り下ろすだけだったので剣を右に傾け相手に合わせた。
受け流す為に傾けた剣の腹を相手がなぞっていく。そして擦れる音を発し、ただ怒りのままに振り下ろした相手の剣を受け流していった。
そのまま勢いが止まらない男1を剣を操り、左上から振り向き様に無防備な背中を横一線で強かに切伏せ、吹っ飛んでいった。
見事なまでに顔面スライディングを決め込んで二回転目から横にゴロゴロ転がり止まった。
吹っ飛んでいった相手を見ているけどソレどころじゃない。心臓バクバクで息も荒い。そして興奮と若干の震え…
「っ!…はぁ…はぁ…レイグル!初訓練で…コレは…厳し過ぎない…?」
あと汗が止まらない。
「ほれ、あと9人残ってるぞ~」
「レイグルのバッカ野郎~!…」
十本組手ならぬ十本剣劇をさせられたのだった。
20分後…
訓練場に11人倒れていた。正確には一人だけ四つん這いで息も絶え絶え、なんとか10人を倒しきった俺だった。
「俺…やりきったぜ…やっぱり刀の方が合ってるかも…」
そのまま意識が闇に飲まれ崩れ落ちたのだった。
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