第7話
『・・・』
あら?風精霊様が何か仰っています。
・・・はぁ〜。またですか。
私は柵の向こうに目を向けます。私の視線の先には走り去っていく馬車が見えました。
私は馬車の去っていった方向を見ながらどうしたものか考えているとお屋敷からメイドがやってきました。
「エリオット様、お嬢様、家庭教師の先生がいらっしゃいました。」
「わかりました。すぐにいきますので、先に部屋に案内してください。あとお母様に少し時間を頂けるか尋ねておいてください。」
とりあえずあの馬車のことは後回しにして、今は勉強に集中しましょう。
私は膝の上で眠っているエリオ兄様を起こして部屋に向かいました。
「それで今日は何の勉強をしたんだい?」
「今日はアーネンベルク王国の歴史について学びました。」
食事の時間になりました。久しぶりにお父様が一緒です。私はタイミングが悪いわねと心の中で思いながら、お父様と会話をします。
宰相をなさっているお父様は城に泊まりこむことが多いため、一緒に食事をなさることは滅多にありません。そのため、お父様が一緒のときは普段会話がない子供達が相手をすることになります。エリオ兄様はお母様にマナー指導をされているため、私がお父様の相手をすることになります。お父様のことは嫌いではありません。しかしエリオ兄様のお世話をするのは私の生き甲斐なのでこうしてお父様の相手をするのはいつも少々不満がありました。しかも今日はあの馬車を見た日なのでそれを隠そうともしていました。そのため私の空気はピリピリ放っていたのでしょう。お父様は珍しくお母様に会話をふりました。
「ライラは今日何をしてたんだい?」
「今日はサラとお茶を飲んでいました。毎年のことですがこの時期はやはり大変みたいですね。」
「魔法学園に入れなかった子は皆、精霊社に行くからな。」
この世界で魔法は二種類あります。一つは魔力を魔方陣で変換して発動する魔術、もう一つは精霊様に魔力を捧げて力を借りる精霊術です。
魔術は魔獣と呼ばれる生物を研究した結果生まれたもので、魔力は模様を描くと様々なものに変換する性質を利用した術です。魔術は未だ改良の余地があるため国で研究をしています。そのため魔術には国の機密に指定されているものが多く存在します。そのためある一定量の魔力がないと学園には入れなくしています。そうすることで機密が洩れるリスクを下げているのです。
精霊術は精霊様に魔力を捧げてお願い事を聞いてもらう術です。
精霊様とはこの世界の基礎となる存在です。精霊道曰く、『光と闇が生まれて世界が始まった。火、水、風、土が生まれて世界が輪郭を帯びた。雷、樹、金、霧が生まれて世界が完成した』。そしてこれらの10個の要素そのものが精霊王様達でその力から生まれた分身が精霊様達になります。
精霊術は精霊様の存在を感じられれば基本的に誰でもできる術です。しかし精霊様を道具のように扱い怒らせて周りごと吹き飛ばされるということがあります。そのため精霊様がどういう存在なのかから術の扱い、最後のお礼の仕方までと一から丁寧に教えることで精霊様を怒らせない使役方法を身に付けさせます。
こういった術の性質の違いにより魔術はより閉鎖的に、精霊術はより開放的になりました。
魔法が使える人と使えない人とではやはり収入に差が出ます。しかし魔術を教えるのは国内では魔法学園しかありません。そのため精霊術を教える精霊社はたくさんの出仕(見習い)を抱えることになりました。
「それとクララがビナー様にお世話になったからお礼をしてほしいと頼まれました。」
っ!いけません!何とか話題を変えませんと!
「それでクララな「そういえばお父様、お庭のコスモスがとても綺麗に咲いているんです。今度一緒に見ませんか」
・・・
沈黙が痛いです。この場にいる全員の視線を感じます。仕方ありません。しゃべっている人、しかも目上の人の話を遮って話さないというのはマナーの中でも基礎中の基礎。貴族なら三歳児だって知っています。
しかし誤魔化すためにはやむを得ませんでした。私は何も無かったかのように微笑みながらまっすぐお父様の顔を見続けます。
「・・・」
「・・・」
「そうだね。たまには庭を歩くのもいいかもね。今度連れていってくれるかい?」
「っ、はい!私で良ければ喜んで!」
やりました!誤魔化せました!
「それで、」
「?」
「ビナー様には何をしてもらったんだい。」
「・・・」
誤魔化せてませんでした。
「大したことではありません。なので話すほどでは・・・。」
「大したことじゃないんなら話しても大丈夫だね。聞かせてくれるかい。」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
はぁ。どうやら話さないといけないみたいですね。
「実はお屋敷の柵の側にお祖父様の馬車が来てると教えてもらったんです。」




