四、沙希について その2
そしてひと月に二回ぐらいの間隔で
会うようになったのであるが、
だいたい職場から離れた店でおちあって食事をして
そのあと近くのホテルにいくというのがほとんどであった。
いや近くにホテルがあるところで
食事をしたと言ったほうが
正しいのかもしれない。
だから自然と会う場所は数か所に決まってきてしまい、
二人の間で暗号のような合図が決まっていったのである。
しかし私は最初の頃は
そういう決まったコースのようなものに抵抗があり
ある日のこと食事が終ったときに
私が今日はこれで帰ろうと言って席を立つたことがあった。
しかし彼女は素直に帰らなかったのである。
結局私のほうが面倒になって
ホテルに向かうということがあり、
その後は私も観念して
いつもそうするということが
二人のルールのようになったのである。
しかしそんな彼女も前にも言ったように
ラブホテルを好まなかったので
しばしば彼女がシティホテルの予約を取ることも多かった。
そしてときにお互いのスケジュールを調整して
昼間の時間に彼女から連絡のあったホテルの部屋に
向かうということもあったのである。
そういうときは食事やお酒は後からということになった。
そして年に数回旅行するという関係となったのだが、
そういうことがよくも10年近くも続いたものだと思う。
そういう会い方をしていると
同じような流れになってしまうものであるが
それが10年ほとんど
変わらなかったことが今から考えれば不思議である。
ホテルにいるからと言って
すぐに男と女になるわけではなかった。
いつも前回の旅行のことを話してから、
次の旅行についてのことを話すということが
行為の前の恒例となっていった。
その話が長い時もあれば、短い時もあった。
話が途切れると私は彼女にキスをして、
そのことが二人の行為の始まりの合図となった。
沙希との行為はごく普通のものであったと思う。
その順序もまるで儀式のように
まるで長年連れ添った夫婦のように
ほとんど変わらなかったのではないか。




