四、沙希について その1
沙希と初めて出会ったときは
とても背が高い女性という印象が強かった。
彼女は私と背丈がほとんど同じで
女性としては長身であった。
彼女は学生結婚をした同い年の夫がいて、
二人の幼い娘の母親であり、
しかも下の娘を産んで
まだ1年も経っていなかったと記憶している。
というのはその時期は勤務時間が軽減される制度があり、
上司である私はその届書を見ていたからである。
そういう子育てに忙しい時期であったはずであるが、
彼女には不思議とそういった生活感みたいなものが
欠落していたような気がする。
たまに昼食をともにすることがあって話をすると
話題も豊富で、頭の回転も早いのに驚いたこともあった。
そして着こなしもよく顔立ちも彫が深い美人
という評判であり、
要するに彼女は多くの男性からは注目されるような
条件を備えた女性だったのである。
そのように彼女は目立つ容姿をしていたが、
服装はどちらかといえば地味な趣味の良い服装をしていた。
のちに彼女と初めてベッドを共にして下着を外したとき
想像していたより豊かな乳房が私の目の前に
こぼれ出たのを見てびっくりしたぐらいであるから
彼女はいつも抑えた服装をしていたことになるのだ。
しかし別な女性と恋に落ちていた私は
全く沙希には関心がなかったのであるが、
それが彼女の自尊心にとって
許し難いものであったのかもしれない。
断っておきたいが私は女性に特に持てるほうではないし、
プレイボーイでもない。
しかしこの時期は例外なのか
後から思うと
彼女は私に婉曲ではあるが、
何度か働きかけてきたような気がするのだ。
彼女が私の部下で会った時期は1年足らずであり
すぐに別な職場になったときに声をかけてきたのだった。
しかし当時の私は付き合っていた女性とは別れていたが、
まだ引きずっていて彼女の申し出を断ったのである。
彼女と付き合うようになったのは
知り合ってから5年ぐらいも経っていたのであった。
それはようやく前の彼女との痛みが薄れてきたことと
プライドの高い彼女が
ずっと私のことを思ってくれたということに
ほだされたということかもしれない。
そして初めて私のほうから彼女を呼び出して、
奈良の旅に誘ったのであった。




