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神愛 ― それいけ華蓮ちゃん ―  作者: 神愛
第1章 全部こいつらのせい
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第8話 みんな動き出してる

GW某日。

待ち合わせのショッピングモール。

スマホの画面をタップして、時刻を確認する。


(……14時まで20分もある)


早く着きすぎた。


(適当に見てまわるか)


休日のモールは人が多くて鬱陶しい。

賑やかなショップを流し見しながら、あてもなく歩く。

ふと、ファンシーショップの前で足を止めた。


(そういえばあのチャーム、どこで売ってるんだろ)


いつだったか目にした記憶が引っかかって、少しのぞいてから入店する。

パステルカラーの棚を眺めながら通路を曲がったとき、前から来た女の子とぶつかりそうになった。


「あ、すいません」


(……なんか聞き覚えある声)


顔を確かめる前に、条件反射で言葉を返す。


「あ、こちらこそ」


そのままあっさりとすれ違う。

奥のチャームコーナーを探してみたけれど、似たようなものは見当たらなかった。


(まぁいっか)


これ以上探す気にもなれず、店を出る。

集合場所のスポッチャへ向かうことにした。


―――


スポッチャの入り口に近づくと、見慣れた顔ぶれがすでに集まっていた。

人混みの中から、ひときわ大きな声が響く。


「よーっす!久しぶり!」


大きく手を振っているのは颯太だ。


「久しぶり」


あたしも短く返して、その輪に加わる。


「よし全員来たな!じゃあ行くか!」


颯太の号令で、ぞろぞろと受付フロアへ向かった。

並んで順番を待つ間、ぽつぽつと近況報告が始まる。


「東高、バスケ部入ったよ。わりと強くていい感じ。

 なんか勝《まさる》もバスケ始めてさ」


颯太の言葉に、透が目を丸くした。


「瀬川くん?バスケ始めたの?」


「ああ。サッカー飽きたって」


呆れたように笑う颯太の横で、莉子が口を挟む。


「意外とスジがいいんだよ。颯太といいコンビになるかも」


その言葉に、雪杜が嬉しそうに身を乗り出した。


「インターハイ見えてきた!?」


「まあ、まずはレギュラーになるところからなんだけどな」


颯太が照れくさそうに頭を掻く。

そこへ、いつの間にか横にいた御珠がすかさず言い放った。


「世の中そんなに甘くないのじゃ」


身も蓋もないツッコミに、その場にどっと笑いが起きる。


(相変わらず仲いいなあ)


くだらないやり取りを眺めながら、あたしは小さく息を吐いた。


―――


受付を済ませ、賑やかなフロアへ足を踏み入れる。


「さって。何すっか」


颯太が腕を組んで周りを見渡した。


「人数も多いし、ボーリングでいいんじゃない?」


澄香の提案に、みんなが頷く。


「2チームに分けるか」


「ボーリング。初めてです」


史さんが静かに手を挙げた。


「あ、あたしも初めて。やってみたい」


あたしも便乗する。


(御珠、すげー玉投げそう)


「ボーリング。3年ぶりだね」


雪杜が懐かしそうに言う。


「だね」

「妾もじゃ」


咲良が笑い、御珠が胸を張る。

ふと、颯太が過去の記憶を思い出したような、遠い目をした。


「御珠がいると無双しちまうから、ハンデ戦にしよう」

「む。1対9かの」


「別に戦わなくても……」


御珠の極端な提案に、雪杜が苦笑いする。

結局、雪杜、咲良、御珠、あたしのチームAと、颯太、莉子、駆、史、透、澄香のチームBに分かれることになった。


「6対4だ。妥当じゃね」

「妥当だね」

「妥当だ」

「妥当なんでしょうか?」


颯太、澄香、駆が次々と頷く中、史さんだけが小首を傾げている。


(もっとハンデあってもいいかもな)


待機席に落ち着くと、さっきの近況報告の続きが始まった。


「ねぇねぇ。史さん」


咲良が史さんに身を乗り出す。


「何でしょう」


「ハッカソンで一緒に泊まった子、同じクラスになったんだよ」

「すごい偶然ですね」


「うんうん。なんで去年来ないのさって怒ってた」

「ふふ。理不尽ですね」


二人のやり取りは、すっかり打ち解けているように見える。


「高校でも何か大会あるのかなぁ」

「大会は分かりませんが、商業のPC部は夏に合宿がありますよ」


史さんが答えると、横から駆が補足した。


「小説書いたり、漫画描いたりするらしい」

「えー楽しそう」


「コンテストに応募するんだとさ」

「雪杜!私たちもやろうよ!」


咲良が弾んだ声で雪杜の袖を引く。


「え!?勝手に合宿やっていいの!?」


雪杜が目を丸くした。


(夏休みか。農作物ってどうすんだ?)


みんなが楽しそうにしている中、あたしはふと学校の畑を思い出す。


「夏休みは補習合宿あるわよ」


澄香が容赦なく現実を突きつけた。


「マジで?」

「泊まりで勉強!?」


咲良が、うげーっと顔をしかめる。


「お泊り会だと思えば楽しいでしょ」


「さすが進学校だね」


透がなだめ、莉子が笑う。


「咲良、がんば」


「うちもバスケの合宿あるって言ってたな」


颯太の言葉に、莉子が嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ。お泊り」

「マネージャーは気楽だなぁ」

「そんなことないもん!ちゃんと頑張ってるもん!」


莉子がむくれると、颯太が慌てて頭を掻く。


「だ、だよな。わりぃ」


みんなの高校生活を横目に、あたしは隣の御珠に声をかけた。


「うちらは何かあんのか?」

「何も聞いておらん」


「ジャガイモどうすんだ?」

「む。水をやらねば」


御珠は真剣な顔で頷く。


「妾、毎日通うのじゃ」

「本気かよ」


呆れてため息をつきながらも、どこか安心している自分がいた。


―――


ゲームが始まり、まずはチームBの澄香がボールを抱えてレーンの前に立った。


「絶対勝つ!」


気合十分に振りかぶる。


「澄香……力みすぎると外れるよ」

「勝つ気がなかったら勝てないでしょ!」


透の忠告を聞き流し、勢いよくボールを放る。

が、ボールは無情にも右へ逸れ、乾いた音を立てて溝に落ちた。


「なぜ!?」

「言わんこっちゃない」


頭を抱える澄香に、透が苦笑しながらタオルを差し出す。


(あの二人、だいぶ距離が近くなったな)


なんというか、見ているこっちが気恥ずかしくなるような自然な空気感だ。


(交際、順調そう)


微笑ましいやり取りを眺めていると、澄香は気を取り直した2投目で8本倒した。


「まずまずね」


澄香が満足げに戻ってくると、次はチームAの番だ。

御珠が重いはずのボールを軽々と持ち、レーンの前に構える。


「妾の番じゃの」


ピンを見据え、御珠が腕を振りかぶったその時。


「あ!雪杜が危ない!」


背後から、颯太の大きな声が響いた。


「なぬ!?」


御珠が反射的に振り向く。

手からすっぽ抜けたボールが、レーンへゴンッと大きな音を立てて転がった。

そのままガターへ。


(……分かりやす!)


「御珠ちゃん!」

「……く。騙されたのじゃ」


咲良が声をかけると、御珠がワナワナと肩を震わせる。


「よっしゃ!作戦成功!」


颯太がガッツポーズをして喜んでいると、雪杜が慌てて御珠のそばに近寄った。


「御珠、大丈夫?落ち着いて」

「ぐぬぬ。あやつめ」


御珠は雪杜に寄り添われながら、悔しそうに颯太を睨みつける。


「次は冷静にいくのじゃ」


気を取り直しての2投目。

御珠が再び構えに入った瞬間、またしても横槍が飛んできた。


「雪杜がナンパされてるぞ!」


御珠の肩が一瞬、ぴくりと跳ねる。

けれど今度は振り向かず、冷静に腕を振り抜いた。

ボールは綺麗な軌道を描き、ピンを全て弾き飛ばす。


スペア。


「……妾に同じ手は通用せん」


息を吐いて振り返った御珠の顔は、どこか強張っていた。


(……抑えた。でもぎりぎりだったな)


あやうく2球連続で落とすところだった。


「ストライクじゃなかったね」

「悔しいのじゃ」


咲良の言葉に唇を尖らせた御珠だったが、その後は完封だった。

自分のターンが回ってくるたびにストライクを連発し、得意げに腕を組んでみせた。


「どうじゃ」

「……くっそ。3年前より進化してる」


颯太が頭を抱えて悔しがるのを、あたしは横目で鼻で笑ってやった。


―――


ゲームが中盤に差し掛かった頃、待機席で咲良がこっそり耳打ちしてきた。


「ねね。いい人いた?」

「は!?いい人!?」


予想外の質問に、思わず素っ頓狂な声が出た。

一斉にみんなの視線が集まる。


「ひゃ。そんなに驚かなくても」

「相変わらず世話焼きねえ」


肩をすくめる咲良に、澄香が呆れたように言う。


「で、どうなの?」


咲良が目を輝かせて、ぐいぐいと距離を詰めてきた。


(……田中)


ふと、棟方の背中におぶさっていた田中の姿が脳裏をよぎる。


「……いない」


あたしは慌てて首を振った。


「えー!本当に?」

「ほんとに。御珠に振り回されて毎日それどころじゃないし」


照れ隠しに声を張ると、隣でジュースを飲んでいた御珠が反論した。


「妾は真摯に農業を学んでおるだけじゃ」

「告白してきたやつにアッパーかましてただろ!」

「はは!なんだそれ!さすが御珠!」


あたしの暴露に、颯太が大笑いする。


「あれは、あやつが悪いじゃろ」

「まぁそうなんだけど。もうちょい穏便にだな」


ぶうぶう文句を言う御珠をなだめていると、不意に雪杜が向き直った。


「華蓮」


いつもより真面目なトーンに、思わず背筋が伸びる。


「いつも華蓮がそばにいてくれてるの、すごく助かってる。ありがとう」

「……な、なんだよ。照れるだろ」


いきなり改まってお礼を言われ、あたしは居心地悪く目を逸らした。

すると、御珠があたしの腕をぎゅっと掴んできた。


「華蓮。妾のそばから離れるでないぞ」

「なんだよ急に」

「あやつ。何か企んでおるかもしれん」


御珠が警戒するように、佐竹のことをほのめかす。


「御珠。華蓮を守ってあげて」

「当然じゃ」


雪杜の言葉に、御珠が力強く頷く。


「はぁ。大丈夫だっての」


過保護すぎる二人に、あたしは深いため息をついた。


「もう。次の投球誰よ! 早くしてよね!」


澄香の急かす声が響く。


「はーい!私ー!」


咲良が元気よく立ち上がり、再びゲームが再開した。


やがて最終フレームが終わり、モニターに結果が表示される。

接戦の末、チームBが5点差で勝利した。


「やった!勝ったー!」

「やった!」


颯太と澄香がハイタッチして喜ぶ。


「あの囁きがなければ、勝ってたのじゃ……」


御珠は悔しそうに、しばらく得点表示を見つめていた。


「6対4での勝利を喜んでいいか悩むな」

「勝ちは勝ちだろ」


複雑そうな顔をする駆の肩を、颯太がバンバンと叩く。


「ごめんね。僕たちがもう少し頑張ってれば」

「よい。勝負とはこういうものじゃ」


雪杜が謝ると、御珠はすっかり負けを受け入れたように頷いた。


「にしても290点てすごくない!?御珠ちゃんかわいいしプロボーラーになれるよ!」

「将来安泰?なのか?」


興奮気味の咲良の言葉に、あたしは首を傾げる。


「妾、目立ちたくないのじゃ……」

「ほんと矛盾してるわね」


うんざりしたような御珠に、澄香が的確なツッコミを入れた。

賑やかな笑い声が、絶え間なくフロアに響いていた。


―――


スポッチャのフロアを抜け、モール内を出口へ向かって歩いていると、颯太が申し訳なさそうに振り返った。


「楽しかったな!集合、遅い時間にしてごめんな」

「いいよ。部活大変そうだもんね」

「これだけの人数で集まれただけでもラッキーだよ」


雪杜と咲良が笑って返す。


「夏に集まれるかしら?」

「お互い都合つけるの難しくなってきたよね」


澄香と透が、少しだけ名残惜しそうに顔を見合わせた。


「僕は海の家でバイトするよ」

「ほんとにやるのそれ?」


雪杜の突然の宣言に、咲良が呆れたような声を出す。


「うん。大学行くならお金必要だし」

「妾も心配じゃ……」

「御珠がバイトする方が心配だよ」


雪杜が本気で心配そうな顔をした。


(へー。雪杜バイトすんのか)

(ぜってー事件起きるだろ)


雪杜のトラブル体質を知っている身としては、不安しかよぎらない。

すると、横から史さんが静かに口を開いた。


「私はもうやってますよ」

「おい。バラしていいのか?」


慌てる駆をよそに、史さんは淡々と答える。


「いいです。私も就職に向けて社交を身につけないといけませんので」

「わー行く行く!どこでバイトしてんの!」


咲良がテンション高く食いついた。


「ファミレスです」

「え!?もしかして制服あったり!!?」

「はい」

「……あちゃ。バラしちゃった」


頭を抱える駆の横で、雪杜が何やら遠い目をして想像を膨らませている。

すかさず、御珠がぷりぷりしながら雪杜の脇腹を小突いた。


(制服プレイとか考えてそう)


声には出さず、あたしは冷ややかな視線を送る。


(史さん変わったな)

(逞しくなったというか)

(駆の影響が大きいのかな)


出会った頃の危うさが抜け、今の史さんはどこか堂々として見えた。


(バイトかぁ)

(専門学校っていくらくらいかかるんだろ)

(とっとと就職した方がいいんじゃねーか?)


みんなの話を聞いていると、あたしも無意識に自分の現実と向き合わされる。

やがてモールの外に出ると、外はすっかり夕方の光に包まれていた。

改札やバス停の方向へ、それぞれの足が散らばっていく。


「じゃなー」


短く手を振り、あたしも一人、家路へと歩き出した。


(みんな将来に向けて動き出してる感じだったな……)


心地よい疲労感と共に、夕暮れの空を見上げる。

ふと、今日ここに着いたばかりの頃に聞いた、あの声が頭をよぎった。


(……なんかあいつに似てたんだよな)


ファンシーショップの前ですれ違った、女の子の声。


(あいつ、実は女とかじゃないよな?)

(そんな漫画じゃあるまいし……)


くだらない想像に行き着いて、思わず小さく首を振った。


(そうか、お姉さんだったのかも)


自分の中で勝手に納得のいく結論を出し、あたしは再び前を向いて歩き出した。

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