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神愛 ― それいけ華蓮ちゃん ―  作者: 神愛
第1章 全部こいつらのせい
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【閑話】第6.5話 春だなぁ

風呂に入る前。

着替えを出そうとタンスの引き出しを開けた。


(あれ)


中をごそごそと探る。


(お気に入りのやつがない)


いくら探しても見当たらない。


(洗濯出してたっけ?)


いや、昨日畳んでここに入れたはずだ。

ピタリと、手を止めた。


壁の向こう、弟の部屋の方向をじっと見る。


(あいつの最近のあたしを見る目……)


何かを期待するような、探るような、あの気まずい視線。


「はぁ……」


深いため息が漏れた。


(……お母さんに言うか)


重い足取りで廊下を歩く。

リビングの前で、ぴたりと足が止まった。


開いたドアの向こう。

テレビを見ながら、父と楽しそうに談笑している母の姿があった。


(なんて言うんだ)


頭の中でシミュレーションしてみる。


(『隆にパンツ盗られた』……言えるか、そんなこと)


平和な家族の空気を、そんな生々しい報告でぶち壊せるわけがない。

入口でぼーっと立ち尽くしていると、母がこちらに気づいた。


「華蓮?どうかした?」

「……なんでもない」


それだけ言って、あたしは踵を返した。


―――


そのまま弟の部屋の前に立つ。


コン、コン。


短くノックした。


「……なに」


ドア越しに聞こえる、少し強張った声。


(声、ちょっと裏返ってんじゃん)


わかりやすすぎる。


「……気づいてるからな」


低い声で、短く告げた。

沈黙が落ちる。


「は?な、なんの話」


明らかに動揺しているのがわかった。


「それはあげるから、二度とすんなよ」

「は?は?」


扉の向こうで、バタバタと慌てるような物音が響く。

あたしはそれだけ言って、踵を返した。


―――


自分の部屋に戻り、ベッドに倒れ込む。


(……止まらないようなら、お母さんに言う)


とりあえず、今日のところはこれくらいで勘弁してやる。

ぼんやりと天井を見上げた。


(中学2年かぁ)


あの小さかった弟も、もうそんな年齢だ。


(……年頃だよなぁ)


―――


「ということがあったんだけど、雪杜って家でどうしてる?」


休み時間の教室。

昨夜のモヤモヤを、御珠にぶつけてみた。


「なんの話かと思えば、そなたの弟も年頃よの」


御珠は事も無げに言って、窓の外を眺める。


「まぁ年頃なんだけど、他の家でもそうなのかなぁって」


(あたしの家が特殊なだけ?)


「雪杜襲ってきたりしないの?」


あいつだって男だ。

いくら御珠が難しいからといっても、何も起きないなんて信じられない。


「雪杜がそのようなことをするわけなかろう」


「さすが雪杜と言いたいところだけど、絶対無理してるだろあいつ」


あんなに誠実そうな顔をして、裏では悶々としているんじゃないか。


「まぁの」


御珠が少し、声を落とした。


「……ほれ」


ちらっと、手元のスマホをこちらに向けてくる。

画面に映っていたのは、少しだけ露出の多い格好をした御珠の自撮り。


「はぁ!?はぁ!?おま!これ!変態じゃねーか!!」


あたしは椅子から転げ落ちそうになった。


(自撮り……だよな、これ)


しかも、明らかにラインを越えてるやつだ。

顔が、一気に熱くなる。


「かか。溜まったものを逃がしてやらねば、咲良といたしてしまうでの。これで我慢してもらっておるのじゃ」


「何だよそれ!?変態!変態!変態!」


必死に声を抑えながら、あたしは連呼した。


「澄香のようなことを申すの」


御珠は楽しそうに目を細めている。


(……変態)


呆れ果てて、言葉も出ない。

でも、御珠の意外な一面を知れて、なんだか少しだけ、嬉しかった。

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