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神愛 ― それいけ華蓮ちゃん ―  作者: 神愛
第2章 臆病者たちの一歩
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第26話 とんこつと秘密の相談

強烈な豚骨の匂いが漂う店内に入り、券売機の前に立つ。


「ここのとんこつがうまいっしょ」


迷いなくボタンを押し、光莉がとんこつラーメンと替え玉一枚の食券を取り出す。


「おー。へば、わも」


棟方のデカい指がボタンを乱打し、替え玉の食券が二枚弾き出された。


(マジか。替え玉ありきなのか?)

(ま、替え玉は後でも注文できるだろ)


小銭を投入し、一番オーソドックスなとんこつラーメンのボタンだけを押し込んだ。


「にひひ。絶対買いに戻ることになるよ」

「マジか」


「僕はどうしよっかな」


券売機の前で首を傾げる湊も、とりあえずとんこつラーメンの食券だけを抜き取った。


「もっと食えー。大っきぐなんねーど」


横から伸びてきた太い腕が、勝手に替え玉のボタンを押し込む。


「っちょ!ちょっとムナ!」


四人で奥のテーブル席に陣取ると、すぐに店員が半券を回収しに来た。

お冷のグラスを口に運ぶ間もなく、厨房から湯気の立つどんぶりが四つ運ばれてくる。


「はや!」


驚いて声を上げたあたしをよそに、光莉は慣れた様子で割り箸を手に取った。


「とんこつはこれが売りっしょ!」


割り箸を割りながら、光莉がニカッと笑う。


「ということで、メリークリスマース!」


唐突なノリに、あたしは半眼で返す。


「ラーメン屋で言うセリフじゃねーけどな」


四人揃って麺をすする音が響く。

濃厚なスープが空腹の胃袋に染み渡った。


「うま!」


(くそ。替え玉……)


「二人は昨日ナニしたのかなー?」


どんぶりから顔を上げた光莉が、ニヤニヤとこっちを見ている。


(うわ。ゲスいのきた)


「な、なんもしてねーぞ」

「うん。ちょっと一緒に寝ただけで」

「っちょ!おめー勘違いされるようなこと言うんじゃねー!」


「え。ちょっと、一緒に、寝ただけ……」


箸を止めた光莉の目が、点になっている。


「ほらみろ!」

「あーあー、一緒に漫喫行って寝落ちしたってだけで!」

「そうそう!」


「ふーん。楽しそうなイブだったんだね」


頬杖をついた光莉が、面白そうに目を細めた。


「その後すぐ帰ったぞ」

「そうそう。何もしてないよ!」


(まぁ、キスはしたけどな)


唇に残る昨日の感触を振り払うように、スープを口に流し込む。


「それより、そっちは――あんま仲良くないって言ってたか……なんかすまん」

「いいよ。別に」


「わ(おれ)も寮さ(に)一人でいであったはんで(たから)一緒だな」


ズルズルと豪快に麺をすすり終えた棟方が、満足げに腹をさする。

その言葉に、光莉の目が獲物を見つけたように光った。


「だよね!この二人の方がおかしい!」

「なんだよ。付き合いたてだしいいだろ」


隣に座る湊の耳まで赤く染まっているのが見えた。


「お前らも二人で何かすりゃよかっただろ」

「えー、昨日とか体めっちゃ痛かったし。よく二人ともデートする気になったね」

「そこは……初めてのクリスマスだし頑張ったんだよ。な?」


湊が小さくコクコクと頷く。


「ふーん、ふーん。ずるーい。いいなぁ」


口を尖らせた光莉が、ちらりと横目で棟方を見た。


「ねぇ、ムナっち、この後デート……」

「あー!わ、午後ウェイトやねば(らないと)まいねんで(いけないから)!」


被せ気味に放たれた棟方の声が、店内に響き渡る。


(こいつはなんで毎回フラグへし折るんだよ!)


「そう……」


(めっちゃ悲しそうな顔してるし!)


誰も口を開かず、麺をすする音だけが重く響く。

気まずい空気に耐えきれず、あたしは無言で立ち上がり、替え玉の食券を買いに行った。


店を出ると、冷たい冬の風が火照った体を撫でた。


「あー、食った食った。腹ちぇ(いっぱい)。

 へば、まだ明日!」


「ばいばーい、また明日ねー」


大きく手を振る棟方の背中が、駅の方へと遠ざかっていく。

見送った後、光莉がくるりとこっちに向き直った。


「さかもっち。あの、相談が……」


伏し目がちに呟かれた言葉に、あたしは隣の湊を見遣る。


「僕いない方がいい?」

「できれば……」


光莉が小さく頷いてみせると、湊はリュックを背負い直した。


「じゃあ、また明日ね!バイバイ!」


小走りで駅へ向かう湊の背中を見えなくなるまで見つめてから、光莉に向き直る。


「ごめんね?デートしたかった?」

「いいんだ。昨日したし。あんま金ねーし」


(どうしよ、立ち話で済むような感じでもなさそうだし)

(公園とかも寒いよなぁ)


吐く息の白さに、身震いする。


「立ち話も寒いし、どっか入るか」


光莉は視線を落とし、足元の小石をつま先で転がした。


「……じゃあ、ウチ来る?」

「え、いいのか?」


顔を上げた光莉は、いつもより少しだけ声のトーンを落としていた。


「正確には、ウチの家じゃないんだけど」

「?」

「ついてくれば分かるよ」


それだけ言うと、光莉は歩き出した。

何かを抱え込んだようなその背中を、あたしは少し戸惑いながら追いかけた。


―――


住宅街を抜けた先にある古びた一軒家の前で、光莉の足が止まった。

庭先は手入れされておらず微妙に荒れていて、ぱっと見は空き家のように見える。


(なんだここ?誰も住んでないのか?)


光莉は慣れた手つきでポケットから鍵を取り出し、玄関のドアを開けた。


「お邪魔しまーす……って、ウチが言うのも変か」


中に入ると、ひんやりとした空気が頬を撫でた。

埃っぽさはあるものの、そこまで荒れ果てた感じはしない。


「……誰の家だ?」

「お婆ちゃんち。もう誰も住んでないんだけどね」


靴を脱いで上がった先のリビングで、光莉がカチリと電気をつける。

壁際には、古めかしい薪ストーブが置物のように鎮座していた。


(薪ストーブ、渋いな)


「あ、寒いよね。今つけるから」


光莉が部屋の隅にある石油ファンヒーターの電源を入れる。

チチチという点火音のあと、灯油の匂いがふわりと漂ってきた。


「誰も住んでなくても、電気通ってんのか?」

「うん。ウチがちょくちょく来て掃除してるから、止めずにおいてもらってる」


ファンヒーターの前にしゃがみ込み、光莉が両手をかざす。


「空き家って誰も住んでないとすぐに傷んじゃうんだよ」

「へー。なんか聞いたことあるな」


部屋の中をぐるりと見回す。

写真立てや古い家具が、誰かが生活していたそのままの位置に残されていた。


(大事にしてる、って感じだな)


勧められるまま、並べられた座布団に腰を下ろす。


ファンヒーターの温風が広がり、部屋が少しずつ温まってきた。

コトリと、水の入ったグラスが目の前に置かれる。


「水しかなくてごめんね」


申し訳なさそうに笑いながら、光莉が向かいに座った。


「事前に誰か来るって分かってたら用意するんだけど」

「別にいいよ」


グラスの水を一口飲み、改めて正面の光莉に向き直る。


「で、相談って何だよ」


「……ムナっちのこと」


(やっぱり)


「まあ、薄々分かってたけどな」

「やっぱり?」

「分からないヤツいないだろ」


光莉が大げさに両手で顔を覆い、身悶えした。


「うわー、恥ずかしい……」

「で?何を相談したいんだよ」


「ウチ、魅力ないのかな……」

「は?そんなわけないだろ」


指の隙間から、光莉の大きな目がこっちを覗き込んでいる。


「じゃあ、なんではぐらかされ続けてんだろ」

「……はぐらかされ続けてる?」


覆っていた両手を下ろし、光莉は膝の上で指を組み直した。


「実は、入学した時からずっとアタックしてる」

「え、そんな前から!?」

「うん。でも毎回、うまい具合に流されるんだよねー」


光莉は思い返すように、視線を天井付近の宙に泳がせた。


「デートっぽいこと誘っても用事あるとか、部活忙しいとか……

 一回、寮に突撃したこともあるんだけど、ご飯出されて一緒に食べただけで何もしてこなかった。

 おまけに、もう来ちゃダメだって……」


(何してんだよ!大胆すぎんだろ!)


頭の中でツッコミを入れつつ、呆れを隠して息を吐く。


「もう告白すりゃいいだろ」

「でも、ウチから告白する気はないんだ」

「なんで」


ファンヒーターの燃焼音が、静かな部屋に響く。

光莉は少しだけ声のトーンを落とし、膝の上で組んだ指先を見つめた。


「振られるのが怖いから……じゃダメかな?」

「……」


(なんかいろいろありそうだな)


ただの軽いギャルの恋愛相談かと思いきや、思いのほか踏み込んだ空気になっている。


「……そういうことにしといてやる」

「うん。ありがと」


ふっと表情を緩めた光莉が、再び顔を上げる。


「だから、向こうから来てほしいんだけど、ムナっちの方も、なんか重いもん抱えてそうな気がするんだよね」


「重いもん?」

「寮にまで行ったのに、何もしてこないんだよ?」


光莉が身を乗り出し、熱を帯びた声で主張する。


「普通の男ならありえないっしょ」


(そういうヤツ知ってるぞ。雪杜っていうんだけど)


脳裏をよぎったあいつの顔を即座に消し去る。


「だから、付き合うことに何かトラウマあるのかなって。

 さっきも露骨に避けられたし……」


(……ギャルが嫌いって可能性は考えないのか?)


「深く聞いたことないから分かんないけど」


光莉がじっと、縋るような目でこっちを見つめてくる。


「ねぇ、さかもっち。どうしたらいいと思う?」


(あー、めんどくせー!)

(自分から言えない、向こうははぐらかす、お互い何か抱えてる……)

(これもう、あたしの手に負える話じゃなくねーか?)


頭をガシガシと掻きむしりたくなる衝動を抑える。


「……とりあえず、一回ちゃんと二人で話す機会、作った方がいいんじゃねーの?」

「そんな機会、そう簡単にできる?」

「知らねーよ。そこはお前が頑張れ」


突き放すように言うと、光莉が分かりやすくふくれっ面を作った。


「なんか投げやりじゃない?」

「うるせー。自分のでいっぱいいっぱいなんだよ!」


盛大なため息をつきながら、解決策をひねり出す。


(……咲良に丸投げするか。あいつこういうの好きそうだし)


「咲良に相談してみるか?」

「咲良っちに?」


「ああ。あいつこういうの得意だし」

「そうなの?」


目を丸くする光莉に、力強く頷いてみせる。


「あいつ、中学時代に10組くらいカップル作ってるんだぜ」

「へーすごいね」


「午後、御珠と一緒に体育館にいるんじゃねーか?行って見る?」

「うん!行こう行こう!」


パァッと顔を輝かせた光莉が立ち上がる。

部屋には、石油ファンヒーターの規則的な音だけが響き続けていた。


(……早く帰ってシャワー浴びてー)


自分の服から漂う、汗と豚骨の匂いをこっそり嗅ぎながら、あたしはひっそりとため息を吐いた。


―――


腰を上げかけた光莉を引き留めるように、あたしは声をかけた。


「なあ、ちょっと待てよ」

「ん?」

「まだ来たばっかだろ。咲良は逃げねーし」


再び座布団の上にどっかりとあぐらをかき直す。


「……ふふ、いいけど」


光莉が少し嬉しそうな顔をして、元の位置にちょこんと座り直した。


「この家、いつからこんな感じなんだ?」

「んー、お婆ちゃんが死んでから、だから……もう5年くらい?」


(そっか。結構前からこうなんだな)


「ずっと掃除しに来てんの?」


壁際の古い写真立てに目をやりながら、光莉が小さく頷く。


「うん。月に1、2回くらいかな。

 ここ、裏に大っきい畑あるんだ」


「へー」


「今は草がぼうぼうだけどね。昔はもっとちゃんとしてたんだよ」


懐かしむように目を細め、光莉がファンヒーターの温風を見つめる。


「トマトとかキュウリとか、夏になるといっぱい採れてさ……

 お婆ちゃんと一緒に採って、そのまま洗って齧るの好きだった」


(……なんとなく話が見えてきた)


「もしかして農業高校来たのって……?」


照れくさそうな、はにかむような笑顔を向けられる。


「うん……お婆ちゃんの畑、復活させたくて」


(めっちゃいい話だった)


「そっか。勉強できないってのは照れ隠しだったか」

「勉強が面倒だったのも本当だよ。ちょうどよかったってだけ」

「ふーん」


立ち上がった光莉が、棚に飾られていた写真立てを手に取った。


「これ、お婆ちゃん」


差し出されたフレームを覗き込む。

畑を背景に微笑む高齢の女性の隣で、泥だらけの小柄な少女が笑っていた。


「……優しそうな人だな」

「そうなんだよ。めっちゃ優しかった」


写真の表面を指先でそっと撫で、光莉がそれを元の場所に戻す。


「……なんか、この家の話するの、久しぶり」

「そうなのか?」

「うん。この学校来てからは、さかもっちが最初だよ」


照れたように笑う横顔に、少しだけ胸がざわついた。


(なんか、照れるな)


「……別に、言ってもいいんじゃねーか?

 みんなすげーって言ってくれるだろ」


「うん……それだけだといいんだけど……」


石油ファンヒーターの低く燃える音が、静寂に包まれた部屋を満たしていく。


(あーあー、これはこれ以上聞いちゃダメなパターンだ)


「そっか。じゃあ、言いたくなった時でいいよ」

「うん……ありがと」


窓の外から、遠くを走る車のエンジン音が微かに聞こえてくる。


「……よし、そろそろ行こっか」

「おう」


光莉がファンヒーターの電源スイッチを押した。

温風が止まり、部屋の空気が急速に冷え始めていくのを感じる。


(また来ることあんのかな、ここ)


玄関の土間に降りて、冷たくなったスニーカーに足を通す。


「鍵、ちゃんと閉めないとね」


ガチャリと金属音を鳴らし、光莉が念入りにドアを施錠した。


(大事にしてるんだな、本当に)


住宅街の路地へと歩き出す。

吐く息は白く、冬の午後の光はすでに傾き始めていた。


―――


自動ドアを抜け、本日二度目となる市民体育館に足を踏み入れる。


(もう年パスとか買おっかな。売ってるか知らんけど)


冷えた館内を見渡すと、奥のフリースペースに雪杜や咲良、そして久我と話し込んでいる御珠の姿を見つけた。


「あ、いたいたー!」


光莉が頭の上で大きく手を振りながら駆け出していく。

それに釣られて四人が一斉にこちらを振り返った。


咲良が真っ先に気づいて手を振り返す。


「あれ、光莉ちゃんと華蓮ちゃん?」

「なんじゃ、そなたら。また来たのか」


御珠がじろりとこちらを見やる。


「まあ、ちょっとな」

「……お疲れ様」


雪杜が小さく頭を下げた横で、久我が興味深そうにこっちをジロジロと見ている。


「二人も体を引き締めに来たでござるか?」

「ちがうよー。咲良っちに相談があってさー」

「え、私に相談!?なになに!?」


(食いつき良すぎるだろ)


身を乗り出す咲良とは対照的に、御珠が怪訝そうに眉を寄せた。


「妾には相談してくれぬのか」

「お前は口が軽そうだからダメだ」

「なんじゃと!?」


「あーあー、御珠ちゃんはうっかり誘導に乗って漏らしちゃいそうだからダメねー」


憤慨する御珠の肩を、咲良が軽くポンポンと叩く。


「狼だーれだ、で釣られたでしょ」

「ぐぬぬぬ」


(狼?)


「てことで、ちょっと相談に乗ってくるね」


咲良がニシシと笑って踵を返す。


「自主練してて」

「いいのあれ?」

「いい。いい」


地団太を踏んで悔しがる御珠を完全に放置して、咲良はズンズンと歩き出した。

あたしたちは顔を見合わせ、その後を追ってラウンジの方へと向かった。


―――


自販機コーナーの横にある、人気の少ないラウンジの丸テーブルに三人で腰を下ろした。


「よし、誰も聞いてないし、話して話して」

「実はね……」


自販機のブーンという低い稼働音が響く中、光莉がぽつりぽつりと話し始めた。


入学当初から棟方にアタックし続けていること、寮に押しかけたこと、そして毎回うまくはぐらかされてしまうこと。

すべてを聞き終えた咲良が、腕を組んでふーっと息を吐く。


「……ムナっちくん、かぁ。

 ふふ。夏のお泊りの時には“どっちでもいい”とか言ってたのに」


「それは、その……告ってきたら付き合おうと思ってたのはホントで……」

「まあ、いいけどー」


ニヤニヤと笑う咲良の前で、光莉が耳まで赤くしてうつむいた。

咲良は顎に手を当て、探偵のように目を細める。


「あの子、そんなに脈なしって感じでもないと思うけどな」

「え、そう?」


(ま、普通に考えりゃ、かわいい子が自分にアタックしてきたら嬉しいよな)


「うん。今の話聞いてて思ったんだけど」


咲良がテーブルに身を乗り出し、光莉の目を真っ直ぐに見据えた。


「寮に突撃した時、追い返しはしたけど、ご飯出したんでしょ?」

「あ……うん」

「本当に興味なかったら、たぶん玄関先で終わらせてると思うんだよね」


(言われてみれば)


確かに、棟方の性格なら興味のない相手にはもっと分かりやすく線を引きそうだ。


「そ、そっかなー」

「ただ、なんていうか……」


咲良が視線を落とし、自販機の明かりを見つめる。


「わざと遠ざけようとしてる感があるよね」

「わざと?」


「うん。こんなかわいい子が近づいてきたら、普通大喜びで受け入れるよね。

 でも近づいて欲しくない。でも無下にもできない」


ゆっくりとした口調で、咲良が推測を組み立てていく。


「本人も相当悩んでるんじゃないかな」


(……なるほど。さすが咲良だ)


あたしは思わず深く頷いた。


「ということで、本人からなんで拒否するかの理由を引き出さないことには、話が進まないと見た」

「それって難しくねーか?」


「そう。難しい。なので作戦を練ります」

「何するんだ?」


腕をまくり上げるような仕草を見せ、咲良が唇に人差し指を当てる。


「うーん、一番手っ取り早いのは光莉ちゃんが告白しちゃうこと」

「え、でもウチ……」

「それは嫌なんでしょ?」


光莉がこくりと小さく首を縦に振った。


「うーん。すぐには思いつかないなぁ。

 ちょっと時間ちょうだい」


「いいよ。そんな焦ってないし。

 ちょっとみんながクリスマス楽しんでるの見て、寂しくなっただけだから……」


強がるように笑う光莉に、咲良がドンと胸を叩いてみせた。


「分かった。まっかせて!私、MQPなんで!」

「なにそれ」

「お前、まだそれやってんのかよ」


「マジキューピットだよ。20組くらいくっつけてるんだから」


ドヤ顔で言い放つ咲良の顔を、呆れ半分で見つめる。


(10どころじゃなかった)


「じゃぁ、私、戻るね」


「おう。頑張れよー」

「相談乗ってくれてありがとー」


ひらひらと手を振りながら、咲良がフリースペースの方へと駆け出していく。

その後ろ姿が見えなくなるまで見送ってから、光莉が不安そうに口を開いた。


「大丈夫かな?」

「あいつに任せとけば大丈夫だ。たぶん」


根拠はないが、そう言ってやるしかなかった。

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