第17話 いい夏だな
【華蓮×御珠個人チャット】
御珠:今年は農業班でBBQをするのじゃ
華蓮:え!?マジで!?
御珠:まじじゃ
華蓮:なんでまた?
御珠:皆忙しいそうじゃ
御珠:ぶっちゃけ、飽きたのかも知れぬ
華蓮:身も蓋もないことぶっちゃけるなよ
すぐさま、農業グループに切り替える。
御珠は余程のことがないと自分のIDを交換しないので、中継する必要があった。
そんな特別なIDを知っている自分に、ちょっとした優越感を感じる。
【農業グループチャット】
華蓮:御珠が海でBBQしたいって
光莉:行く
棟方:行ぐに決まっちゅべ
湊:僕も行っていいのかな……
光莉:ふふ、ウチの水着見て興奮しないでよね
華蓮:え!?水着着んの!?
光莉:海行くなら当たり前っしょ
ベッドにひっくり返ったまま、スマホの画面を見つめて呆然とする。
既読の数字が無慈悲に増えていくグループチャットを閉じ、白っぽい天井をぼんやりと見上げた。
(さすがギャル)
(恥ずかしいとかないのか)
(御珠も……咲良も……当然水着だよな)
(またあたしだけ、砂浜……)
指先が迷うように画面を叩き、ブラウザの検索欄で水着の値段を調べる。
流れてくる煌びやかな画像と、そこに添えられた数字のケタを見て、思わず顔をしかめた。
(……やっぱ高い。一回のために出せる金額じゃない)
深いため息と一緒に、スマホを枕元に伏せる。
静まり返った部屋の中で、さっきのチャットのやり取りが頭の中を駆け巡った。
(……でも、あのメンバーで遊ぶの楽しそうだしな)
(光莉がふざけて、ムナっちが騒いで、御珠がのっかって、湊がおろおろする)
(雪杜と咲良も加わって……楽しくないはずがない)
(何より、カップルだらけの間に挟まる気まずさがないし)
このまま砂浜で一人、膝を抱えて居残り組になるのはごめんだ。
(そうだ。AIに聞いてみよう)
弾かれたように体を起こし、再びスマホを掴み取ってAIアシスタントのチャットを呼び出す。
華蓮:水着高すぎだろ!
AI:泳がないなら速乾ショートパンツ+スポーツタンクで水着っぽく代用できます
AI:海辺で遊ぶならこれで十分です
(これだ!)
答えを見つけた瞬間、無造作に財布を掴んで部屋を飛び出した。
近所のショッピングモールにあるユニクロへと自転車を走らせる。
店内の冷房は少し肌寒かったが、足取りは軽い。
陳列棚を隅から隅まで探し回り、速乾ショートパンツと、スポーツタンクを手に取った。
(合計で5,000円くらいか……)
(まぁ、水着と違って、他にも使えるし)
帰宅してすぐに、買ってきた服を家で試して鏡を見る。
少しだけ照れくさくて、自分の肩のラインを不自然に整えてみた。
(……悪くないな)
(髪も切っておくかな)
ハサミの感触を想像しながら自分の毛先を指で弄り、鏡の中の自分に向かって小さく笑いかけた。
―――
潮騒の音が心地よく耳に届く。
案内された浜田家の庭は、海を背に広がる開放的な空間で、目の前には真っ白な砂浜がどこまでも続いていた。
「……すげ」
「わぁ……」
隣を歩く棟方がポカンと口を開け、それに続くように湊が目を輝かせる。
二人の素直すぎる反応を見ながら、心の中でクスリと笑った。
(あたしも最初はそうなったけど)
ふと、視線を感じて顔を上げる。
この家の主である修一さんが、少し離れた場所で腕を組んで立ち、あたしたちメンバーをぐるりと見渡していた。
「今年はメンバーがガラっと変わったな」
「妾の友じゃ」
修一さんの呟きに、御珠がえっへんと胸を張って即答する。
「へー、御珠ちゃんの。まぁ、ゆっくりしていけ」
修一さんは軽く頷き、柔らかい笑みを浮かべた。
その言葉に、あたしたちは顔を見合わせてから元気よく声を揃える。
「「「ありがとうございます!」」」
あたしたちの声が響き渡る中、修一さんはそれだけ言い残して背を向け、家の中へと消えていく。
広い庭に残されたあたしたちは、しばらくその大きな背中を見送っていた。
(あのおじさん、太っ腹だよなぁ)
―――
光莉が雪杜の姿を視界に捉えた瞬間、ピタリと足を止めた。
「……これが御珠っちの、許嫁……」
瞬きすら忘れたように、じっと彼の顔を見つめている。
「やば。くそかっこいい」
本人は小声のつもりだろうが、その呟きはばっちり全員の耳に届いていた。
スッと、咲良が光莉の横に一歩踏み出す。
その目は、まったく笑っていなかった。
「うちの雪杜に懸想しないでくれるかな」
「これが、噂の彼女……」
光莉は怯むどころか、興味深そうに目を細める。
「過去に雪杜に懸想した者は皆、敗北しておる。
火傷せぬうちに身を引くのじゃ」
御珠が腕を組んで得意げに忠告するが、光莉の口から出たのは気の抜けた返事だった。
「ふーん」
まったく引く気配のない彼女の視線を一身に浴びて、雪杜が居心地悪そうに会釈する。
「は……初めまして」
(おいおい、この組み合わせはまずかったか?)
空気がヒリついているのを感じ、あたしは慌てて光莉の隣に歩み寄り、こっそりと耳打ちした。
「お前、ムナっちか、湊狙いじゃなかったのかよ」
「ウチ、オールラウンダーだから。御珠っちも守備範囲だよ」
「は!?」
予想外のカウンターを食らい、あたしは思わず数歩後ずさった。
(女も守備範囲!?カオスすぎる)
(……あたしも守備範囲に入ってないよな)
「きょうは美少女モードなんだね」
突然の性癖暴露を咀嚼しきれないでいると、咲良がからかうように首を傾げてくる。
「なんだよ。きょうくらい、いいだろ」
あたしは少し熱くなった頬から気を逸らすように、ぷいっと顔を背けた。
横から、光莉がずいっと顔を近づけてくる。
「え、眼鏡もしてない!?」
「い、いいだろ」
「髪もちゃんと整えてめっちゃかわいいじゃん!」
「や、やめろってば!」
光莉がバンバンと遠慮なく肩を叩いてくる。
彼女の勢いから逃れるように一歩後ずさりしつつ、あたしは心の中で密かにガッツポーズを決めた。
(あー、もっと褒めてー)
「うむ。そなたは素顔が一番じゃ」
(御珠にも……褒められた……)
御珠までが満足げに腕を組み、深く頷いている。
一気に顔に血が上るのを感じて、あたしは誤魔化すように声を張り上げた。
「さ、肉焼くぞ!肉!」
「ふふ。照れてる」
早歩きでバーベキューコンロへ向かうあたしの背中を、咲良の楽しそうなクスクス笑いが潮風に乗って追いかけてきた。
―――
テキパキと炭をセットしながら、棟方がその場を仕切り始めた。
「へば火ぃ起ごすべ。網はこっちさ置いで」
「にぐは、わが焼ぐ」
「助かるー!」
「助かるー!」
雪杜と咲良がバンザイをして喜ぶ横で、御珠も大きく頷く。
「助かるのじゃ」
(ムナっち、便利キャラになりつつあるな)
やがて火が起き、待ちに待ったBBQが始まった。
すると棟方が、背負ってきたリュックをごそごそと漁り、見慣れた野菜を取り出した。
「学校がら、ガメで来た」
「え!?ムナ、それ学校の……」
湊がぎょっとして突っ込みを入れる。
「朝ちょっとな。どうせだいもわがねね」
予め切ったキャベツとピーマンがばらばらと網の上に乗せられる。
(あの学校大丈夫か?)
(まぁ、大量にあるしいっか)
(見つかっても叱られるのムナっちだし)
ジュウッと音を立ててキャベツが焼け、香ばしい匂いが漂ってきた。
「にぐど一緒に源タレさつけで食えば最強だべ!」
棟方が誇らしげにトングを掲げる。
「ほんと源タレうまいよね」
「うまいのじゃ」
雪杜と御珠が口を揃えて頷いた。
「シンプルなのに美味いよな」
あたしも紙皿の肉を頬張りながら、素直にそう思った。
それぞれが紙皿を持ち、肉や野菜を頬張りながら、雪杜、御珠、あたしを中心に話題が弾んでいく。
「雪杜。おまえが“たなこ”推すからはまっちまっただろ。花の話、癒される」
「分かってくれたの嬉しいよ。頑張って切り抜き作った甲斐があった」
雪杜が照れくさそうに笑うのを見て、あたしは思わず目を丸くした。
「やっぱあれ、お前が作ってたのかよ」
「深夜まで頑張っておったのじゃ」
「切り抜き師になろうかな」
(まあ、まだまだ下手だけどな)
ふと視線をやると、湊が笑顔でこちらの話を聞いていた。
(そういや、湊、雪杜とVTuberの話で盛り上がってたな)
「湊も見てんのか?」
「え!?僕!!?」
突然話を振られ、湊が肩をビクッと跳ねさせる。
「た、たなこだよね……うん、見てるよ」
「へー。いいよな」
「う、うん。いいよね」
なんだか挙動不審な湊の返事を聞きながら隣を見ると、御珠と雪杜がなぜかニヤニヤと顔を見合わせていた。
(……なんでニヤニヤしてんだ?切り抜き褒められたからか?)
紙皿に盛られた肉をつついている雪杜を見て、ふと思い出したことを口にする。
「そういや、バイトはいいのか?」
「うん。今日は休みをもらったよ」
「バイト、どんな感じ?」
「まぁ……ぼちぼち……」
雪杜はスッと目をそらし、言葉を濁すように曖昧な苦笑いを浮かべた。
会話が途切れ、ざざーっと寄せては返す波の音だけが空気を埋めていく。
(……何かあったな)
「まぁ、頑張れよ」
「……うん。ありがとう」
少しだけ肩を落としてお礼を言う雪杜を見ながら、あたしは勝手な推測を巡らせる。
(きっと女子が殺到したとか、ストーカーが発生したとかだろうな)
(言わんこっちゃない)
横からスッと、咲良が真顔で庇うように割って入った。
「その話はしないであげて」
「何の話だ!?にぐ食え!にぐ!」
空気を読まない棟方が、網の上でトングを勢いよく鳴らす。
強引な棟方のペースに巻き込まれ、バイトの話題はそれ以上深掘りされることなく、笑い声と一緒に流れていった。
(大学行くためって言ってたな)
(あたしもバイトしたほういいのかなぁ)
少しだけ焦げたタマネギを口に放り込みながら、あたしはぼんやりと自分の今後のことを考えた。
―――
バーベキューでお腹を満たしたあたしたちは、いよいよ砂浜へと移動した。
浜田家でそれぞれ着替えを済ませて集まったものの、女子たちの眩しい水着姿を前にして、男子たちは目に見えてたじろいでいる。
「眼福眼福」
「おめ、毎年こったごとしちゅんず?」
「……」
雪杜が拝むように手を合わせ、棟方は目を白黒させている。
湊に至っては、顔を真っ赤にして視線を泳がせるばかりだった。
「華蓮ちゃん!ついに水着デビューなんだね!」
咲良が弾んだ声で駆け寄ってきて、あたしのショートパンツ姿をニコニコと眺め回す。
「水着って言っていいか微妙だけどな」
「海辺でぱちゃぱちゃして、ビーチバレーできれば十分だよー」
「そ、そうだよな」
(よかった。おかしくないか心配だった)
咲良の言葉に胸を撫で下ろしていると、突如として砂を蹴立てる勢いある足音が響いた。
「うおー!海ー!」
棟方が誰よりも早く波打ち際へ向かって全力疾走し、そのまま海へダイブしていく。
「御珠っちの水着!興奮する!!」
「ぬしには撮らせぬ」
少し離れた場所では、光莉がスマホを構えて御珠を追い回していた。
だが、御珠が残像を残すような謎のステップを踏みまくるせいで、何度シャッターを切ってもブレた姿しか撮れないようだ。
「え!?え!?どうなってんの!?」
「ぬしのスマホが呪われてるのではないかの」
涼しい顔で言い放つ御珠を他所に、今度は咲良の甲高い声が響く。
「田中くん、ほっそ!!肌白!!かわいい!!」
視線の先では、ラッシュパーカーを前開けで羽織った湊が、みるみるうちに首まで赤く染まっていた。
「ち、ちがっ……」
「えー!ほんとに白いし!農作業してても日焼けしないの!?」
「帽子……ちゃんとかぶって……日焼け止め塗ってるし……」
顔を覆うようにして身を縮める湊を見ながら、あたしは冷静に目の前の光景を分析する。
(あいつちゃんと日焼け対策してんだな)
(ムナっち真っ黒じゃねーか)
(てか実は女ってことはなかったみたいだな)
湊の上半身を見れば、当然ながら平らな胸と男らしい骨格がある。
そんな漫画みたいな展開、現実にあるわけがないのだ。
―――
「ビーチバレーをするのじゃ!」
砂浜に降り立つなり、御珠が高らかに宣言した。
急遽始まったチーム分けの結果、御珠、雪杜、咲良の三人と、棟方、湊、光莉、そしてあたしの四人チームで戦うことになった。
簡易的なネットを挟んで向かい合う。
試合開始直後、高く跳び上がった御珠から強烈なアタックが放たれた。
すかさず棟方が長い腕を伸ばしてブロックに入り、どっ、と鈍い音が砂浜に響く。
「ふむ。なかなかやるの」
「手、痛でぇ……」
ブロックした手のひらをブラブラと振りながら、棟方が顔をしかめた。
(颯太が3年くらいかかってたのに。ちゃんとブロックできたのかよ。すごいな)
試合が再開されると、御珠の作戦が露骨に変わった。
棟方のブロックを警戒してか、彼以外を狙い始めたのだ。
湊に鋭いサーブが飛ぶ。
慌てて腕を伸ばすものの、全く間に合わない。
さらに光莉へ連続してアタックが叩き込まれる。
「ちょ!ちょっと!ウチばっかり!」
悲鳴を上げる光莉のカバーに入ろうとするが、あたしの足も一歩及ばず追いつけない。
(なんなんだあいつの動き……)
「おめの動ぎどうなっちゅんずや!」
「のほほほ」
砂まみれになって抗議する棟方を、御珠が余裕の笑い声で躱す。
結局、試合は圧倒的な点差で御珠サイドの圧勝に終わった。
(まぁでも……)
(いつもは見てるだけだったし)
(こういうの……悪くないな)
膝についた砂を払いながら、自然と口元が緩む。
ふと、水際からバシャバシャと水をかけ合う大きな声が上がった。
見れば、棟方が湊に向かって大量の海水を浴びせているところだった。
「つめたっ!!ムナ!!やめて!!」
「ぶははは!!」
逃げ惑う湊と爆笑する棟方。
しかし次の瞬間、御珠が信じられないほどの大波を起こして、棟方を頭から海中に沈めた。
「どやって波、おごしてるんずや!」
「妾、力持ちだでの」
むせ返る棟方を見下ろして、御珠が得意げにふんぞり返る。
(たぶん水遁の術だな)
あたしの中では、すっかり御珠=忍者の末裔の図式が出来上がっていた。
アホな考察を繰り広げていると、横から光莉に思い切り水をかけられ、あたしは思わず大きな声を出して笑い転げた。
―――
白く立ち込める湯気の向こうから、はしゃぐ声が響いてくる。
ここは浜の家の立派な温泉。
その女湯の広々とした湯船に肩まで浸かり、あたしたちは大きく息を吐き出した。
「なんなの、このいたれりつくせり!めっちゃ楽しいんだけど!」
光莉がバシャバシャとお湯を跳ねさせながら、興奮気味に声を上げる。
「ねー。雪杜のおじさんに感謝」
「感謝じゃ」
咲良がにこやかに同意すると、御珠は深く頷き、そのまま男湯とを隔てる高い壁の方へと向き直った。
「雪杜ー!感謝しておるぞー!!」
「っちょ!何してんの!うける!!」
いきなり大きな声で叫び出した御珠に、光莉がお腹を抱えて笑い転げる。
すると、湯気の向こう、高い壁のあちら側からすぐに声が返ってきた。
『僕も感謝してるよー!』
「え!?返ってきた!許嫁すご!
ウチもやろっと」
光莉は面白がってザバッと立ち上がると、御珠の真似をして壁に向かって両手を口元に添える。
「ゆっきー好きー!」
「はぁ!?なに言ってんのあんた!?
てか、ゆっきーって何よ!」
突拍子もない光莉の叫びに、咲良がギョッとして目を見開いた。
壁の向こうからは、少し困ったような、だけど呑気な声が響いてくる。
『僕に惚れないでー』
「っちょ、自惚れすぎ。うける」
ケラケラと笑う光莉を、御珠がジト目で睨みつけた。
「光莉よ。調子にのるでない」
(もう黙って温泉に入ってろよ)
あたしは呆れ果てて、もう一度湯船の縁に頭を乗せ、天井を見上げて静かに目を閉じた。
ふと、湯気の向こうで咲良の胸元に何か光るものが揺れているのに気づく。
「……それ、なんだ?」
「え?」
咲良が首元に手を添える。
「えへへ。これ、御珠ちゃんにもらったんだ」
「勾玉……?」
「うん。春休みに。離れても守ってあげられるようにって」
「へー」
「雪杜とも一緒なんだよ。いいでしょ」
(なんかいいな)
(絆って感じがする)
「ふむ。咲良は特別だでの」
御珠が満足げに腕を組むと、横から光莉が食いついた。
「えー、なにそれ。ウチも欲しい」
「ぬしはダメじゃ」
「いいじゃん!ケチ!」
「これは家族の証じゃ」
「ウチも家族になるー」
光莉が御珠に抱きつく。
御珠が眉をひそめ、湯けむりの中で静かに、圧を放った。
「これ、やめぬか。乳房を押しつけるでない」
しかし光莉はやめなかった。
それどころか、興味津々といった手つきで御珠の胸元に手を伸ばす。
「あ……ん……な、何をしておる!妾の乳房を揉むでない!」
(これ、あっちにも聞こえてるよな)
あたしは何も言わなかった。
―――
潮風が少し冷たくなり始めた夕暮れの砂浜。
見上げれば、空は燃えるようなオレンジ色に染まっていた。
「めっちゃ楽しかった」
光莉が両手を大きく伸ばして背伸びをする。
「僕も」
「わも」
湊と棟方も、それぞれ満足げに頷いた。
みんなの笑顔につられて、あたしも素直な気持ちを口にする。
「まぁ……悪くなかったかな」
「楽しんでもらえてよかったよ」
雪杜が優しく微笑み返してくれた。
ふと、波の音に混じって、ドンッと遠くから太鼓の練習をする音が風に乗って流れてくる。
「夏祭りかぁ。今年はどうする?」
雪杜の問いかけに、御珠が砂を蹴りながら即答した。
「飽きた」
「だよね。もういっかな」
雪杜も苦笑いしながらあっさりと同意する。
「え!?私、巫女のバイトなんだけど!?」
一人だけ置いてきぼりを食らった咲良が、悲鳴のような声を上げた。
「頑張って」
「えぇ……」
彼氏からの軽いエールに、咲良は肩を落として情けない声を漏らす。
「あど二日くれーで、枝豆ちょんどいぐなるど」
棟方が思い出したように空を見上げて呟いた。
「収穫じゃな」
「楽しみ!」
御珠と光莉が顔を見合わせてパッと表情を輝かせる。
「いいなぁ」
羨ましそうに呟く雪杜を、御珠がビシッと指差した。
「雪杜も来るのじゃ」
「いいの?」
「まぁ、いんでね?」
雪杜の控えめな確認に、棟方は鷹揚に頷いた。
「ダメだよう」
湊が慌てて口を挟むが、棟方は気にせず話を続ける。
「朝早えはんで、おぐれるなよ」
「あど、汚いでもいい恰好してこい」
「私も行く!」
咲良も負けじと元気よく手を挙げた。
ワイワイと騒ぎ続けるみんなの姿を見ながら、あたしは一人、心の中でそっとツッコミを入れる。
(夏祭りの代わりに、収穫祭になってるし)
遠くの太鼓の音が、波の音に混じってゆっくりと遠ざかっていく。
(……いい夏だな)
夕陽に照らされたみんなの横顔は、なんだか少しだけ大人びて見えた。




