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落ちる星と、見上げる者達

第四章


アーカディアは、

まだ落ち続けていた。


 


世界最大の浮遊都市。


 


直径四十二キロ。


 


三千万の命。


 


世界均衡そのもの。


 


その超巨大都市が、

空の上で崩壊している。


 


轟音。


 


悲鳴。


 


崩落。


 


空中道路が裂け、

高層塔群が次々倒壊していく。


 


レンカは、

窓へしがみつきながら震えていた。


 


「……なんで」


 


声が(カス)れる。


 


「なんで止まらないんですか……」


 


誰も答えない。


 


止められないからだ。


 


レヴィアが海を動かしている。


 


グラウスが空を燃やしている。


 


ミカエルが都市全域へ結界を展開している。


 


それでも。


 


落下は止まらない。


 


アーカディアという存在が、

大きすぎる。


 


国家規模災害同士をぶつけても、

まだ足りない。


 


その時だった。


 


アステリアが、

静かに(ツブヤ)く。


 


「……変」


 


銀髪が揺れる。


 


未来視が、

乱れていた。


 


「未来が、

 一つに収束している……?」


 


グラウスが振り返る。


 


「何だと?」


 


アステリアの瞳には、

無数の未来線が見えている。


 


普段なら。


 


人の行動。


 


選択。


 


偶然。


 


それら全てで、

未来は枝分かれする。


 


だが今。


 


未来が分岐していない。


 


一本だけ。


 


真っ直ぐ。


 


“落下”へ向かっている。


 


アステリアは、

初めて寒気を覚えていた。


 


未来が固定されている。


 


違う。


 


“終了が確定している”。


 


その時だった。


 


ゼロが、

静かに空を見る。


 


黒衣。


 


感情の無い横顔。


 


彼は、

崩れ落ちる都市を見ていた。


 


その目には。


 


怒りも。


 


憎しみも。


 


何も無い。


 


ただ。


 


“確認”している。


 


そんな目だった。


 


レヴィアが、

低く呟く。


 


「……やっぱり似てるな」


 


レンカが振り向く。


 


「え?」


 


レヴィアは、

海のような瞳でゼロを見る。


 


「海も同じだ」


 


低い声。


 


「壊れるものは、

 いつか壊れる」


 


その言葉に。


 


レンカの胸がざわつく。


 


レヴィアは続けた。


 


「文明もそうだ」


 


「国も」


 


「人間も」


 


「全部、

 いつか沈む」


 


静かな声。


 


でも。


 


そこには妙な重みがあった。


 


海は。


 


何千年も文明を見てきた。


 


生まれて。


 


栄えて。


 


沈んでいく国を。


 


何度も。


 


その時だった。


 


グラウスが、

舌打ちする。


 


「縁起でもねぇ話してんじゃねぇ」


 


炎が膨張する。


 


だが。


 


いつもより、

荒い。


 


グラウス自身も、

理解している。


 


押し返しきれない。


 


その時。


 


ミカエルが、

静かにゼロへ問う。


 


「あなたは」


 


純白結界が、

崩壊する都市を支えている。


 


「これを、

 何度見てきたのです」


 


世界が静まる。


 


ゼロは答えない。


 


だが。


 


ほんの(ワズ)かに、

目を閉じた。


 


その瞬間。


 


レンカの脳へ、

一瞬だけ光景が流れ込む。


 


燃える都市。


 


崩れる文明。


 


海へ沈む大陸。


 


泣いている人間。


 


そして。


 


その全部を、

一人で見ている黒衣の男。


 


レンカは息を()む。


 


何だ今の。


 


記憶?


 


いや。


 


もっと古い何か。


 


その時だった。


 


ゼロが、

初めて口を開く。


 


「数えていない」


 


静かな声。


 


だが。


 


その一言だけで。


 


議場全体が、

凍りついた。


 


数えていない。


 


つまり。


 


数えることすら、

やめるほど見てきた。


 


レンカは、

ゼロを見る。


 


終焉の覇者。


 


未来の外側にいる存在。


 


でも。


 


その背中だけは。


 


何故か。


 


誰よりも疲れているように見えた。


 


その時だった。


 


都市全体へ、

巨大警報が鳴り響く。


 


【浮遊高度、

 限界値突破】


 


【海面衝突予測:

 四分十二秒】


 


レンカの顔から、

血の気が引く。


 


四分。


 


もう。


 


それしかない。


 


その時。


 


ヤクモが、

ぽつりと(ツブヤ)いた。


 


「……ほんと、

 毎回派手だなぁ」


 


レンカが振り向く。


 


「毎回?」


 


だが。


 


ヤクモは、

もう答えなかった。


 


ただ。


 


崩れ落ちる世界を見ながら、

少しだけ寂しそうに笑っていた。

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