落ちる星と、見上げる者達
第五章
終わらない落下
「……またか」
その言葉だけが、
議場へ静かに落ちた。
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誰も意味を理解できなかった。
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だが。
その声には奇妙な重さがあった。
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諦め。
疲労。
倦怠。
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まるで。
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“何度も繰り返された光景”
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を見ているような。
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ヤクモだけが、
少しだけ目を細めた。
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レンカは気づく。
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この男。
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ゼロの言葉を、
理解している。
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都市がさらに軋む。
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浮遊炉暴走は止まった。
だが。
既に浮遊機構の大半が死んでいる。
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つまり。
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アーカディアは、
まだ落ち続けていた。
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窓の外。
超巨大都市が傾いている。
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空中道路が崩落。
空輸港が分離。
高層塔群が連鎖倒壊。
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三千万の人間が、
空の上で死に始めていた。
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ミカエルが歯を食いしばる。
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「避難誘導を!!」
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「術式が動きません!」
レンカが叫ぶ。
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「飛行系全部沈黙しています!!」
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レヴィアの分身体が揺れる。
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「なら海を使う」
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その瞬間。
水が動いた。
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議場外。
雲海のさらに下。
遥か遠方。
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海。
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アーカディア真下の海域が、
渦を巻き始める。
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半径数百キロ。
巨大海流変動。
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海そのものが、
持ち上がる。
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レンカが息を呑んだ。
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「う、海が……」
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レヴィア本体。
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深海一万メートルから、
海洋そのものを操作している。
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ネレイア海洋連邦統治者。
《深海王》。
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彼が本気で海を動かせば、
海流すら世界地図を書き換える。
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実際。
十年前。
南方大海嘯災害。
高さ四千メートル津波を、
単独で押し返した際。
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世界海流は変わった。
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海岸線そのものが、
別物になった。
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そして今。
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海が、
アーカディア落下地点へ集まり始める。
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レヴィアが低く言う。
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「海面衝突を緩和する」
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ミカエルが理解する。
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都市を直接止めるのではない。
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海側を変える。
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数千万都市を受け止めるため、
海を操作する。
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レンカは震えた。
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国家級災害を、
災害同士で受け止める。
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これが。
五大国最強格。
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その時。
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グラウスが前へ出た。
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「なら俺が減速させる」
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炎が膨れ上がる。
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今度は違う。
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都市全域へ熱波が広がる。
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超高層塔の硝子が溶け始める。
雲海が蒸発。
大気が赤熱。
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レンカの呼吸が止まりそうになる。
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「な、何を……!」
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グラウスは空を睨む。
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「下を燃やす」
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単純。
そして狂っている。
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都市落下速度を、
超高熱爆炎で相殺する。
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つまり。
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空そのものを、
爆発で押し返す。
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帝国七英雄第一席。
《炎帝》。
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国家殲滅術式を、
推進力として使おうとしていた。
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ミカエルが目を見開く。
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「待ちなさい!!」
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「他に手があるか!!」
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グラウスが咆哮。
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炎がさらに膨張。
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第二の太陽。
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《神滅焦熱》。
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今度は攻撃ではない。
都市救助のため、
世界最悪の炎が放たれようとしている。
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レンカは呆然としていた。
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怪物だ。
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この場にいる全員。
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常識が違う。
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アステリアだけが、
まだゼロを見ていた。
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未来視が乱れている。
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見えない。
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いや。
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見えている未来全部が、
崩壊していく。
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都市生存率。
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0.4%。
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0.2%。
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0%。
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彼女は初めて、
未来視で“絶対死”を見ていた。
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「止まらない……」
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アステリアの声が震える。
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「この都市は……
もう落ちる……」
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その時だった。
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ヤクモが、
小さく笑った。
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「まぁ、
あいついるし」
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全員が振り返る。
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ヤクモは、
窓の向こうを見る。
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ゼロ。
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黒衣の男。
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終焉の覇者。
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彼はまだ、
空へ立っていた。
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何もしていない。
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ただ。
崩れる都市を、
静かに見ている。
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その目は。
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怒っていない。
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悲しんでもいない。
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まるで。
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“終わるべきものを見ている”
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ようだった。




