黒でも白でもない世界
第三十一章
世界を壊す者
無の世界が、静かに揺れていた。
⸻
巨大存在。
無数の光輪。
世界初期化機構。
⸻
その全てが、
停止している。
⸻
理由は一つ。
⸻
ゼロ。
⸻
管理者個体。
⸻
世界より古い存在。
⸻
その男が、
“人類側”へ立っている。
⸻
巨大存在の声が響く。
⸻
『――最終確認――』
⸻
『――管理者個体:
ZERO――』
⸻
『――世界維持継続を要求するか――』
⸻
ゼロは、
数秒黙った。
⸻
レオニードには、
分かった。
⸻
この問いは、
最後だ。
⸻
もしここで、
ゼロが頷かなければ。
⸻
世界は終わる。
⸻
文明も。
歴史も。
未来も。
⸻
全部。
⸻
やり直される。
⸻
ゼロは、
静かに目を閉じた。
⸻
その瞬間。
⸻
無数の記憶が、
レオニードへ流れ込む。
⸻
燃える都市。
崩壊する海。
砕けた月。
⸻
終わる世界。
⸻
そして。
⸻
その全部へ。
⸻
毎回。
⸻
ゼロだけが立っていた。
⸻
救おうとして。
⸻
壊して。
⸻
また救おうとして。
⸻
何度も。
何度も。
何度も。
⸻
人類は、
毎回滅びかけた。
⸻
戦争。
欲望。
差別。
支配。
⸻
何も変わらない。
⸻
それでも。
⸻
誰かが笑った。
⸻
誰かが、
誰かを愛した。
⸻
小さな希望が、
毎回必ず生まれた。
⸻
その全部を。
⸻
ゼロは、
見続けてきた。
⸻
何万年。
何十万年。
⸻
あるいは、
もっと長く。
⸻
レオニードは、
ようやく理解する。
⸻
ゼロが疲れていた理由。
⸻
この男は。
⸻
“世界の終わり”を、
一人で見続けてきた。
⸻
その時。
⸻
ヤクモの声が、
記憶の奥で響いた。
⸻
『一人で世界守ろうとすんな』
⸻
焚き火。
笑い声。
酒。
⸻
最初の世界。
⸻
まだ。
⸻
ゼロが、
人間だった頃。
⸻
ゼロが、
小さく笑う。
⸻
本当に小さく。
⸻
懐かしそうに。
⸻
「……うるさいんだよ、
あいつは」
⸻
その声だけ。
⸻
少しだけ、
温かかった。
⸻
巨大存在が、
最後の確認を行う。
⸻
『――世界維持継続時、
未来崩壊率99.7%――』
⸻
『――人類自己破滅率、
固定――』
⸻
『――それでも、
継続を選択するか――』
⸻
長い沈黙。
⸻
そして。
⸻
ゼロが、
静かに目を開く。
⸻
金色の片目。
⸻
その奥には、
もう迷いがなかった。
⸻
「選ぶ」
⸻
瞬間。
⸻
無数の光輪が、
一斉に回転を始める。
⸻
世界初期化機構、
起動。
⸻
レオニードが絶望する。
⸻
だが。
⸻
ゼロは動かない。
⸻
逃げない。
⸻
ただ。
⸻
静かに右手を上げた。
⸻
その瞬間。
⸻
無の世界そのものへ、
巨大なヒビが走る。
⸻
巨大存在が、
初めて声を乱した。
⸻
『――何をする――』
⸻
ゼロが、
静かに答える。
⸻
「決まってるだろ」
⸻
次の瞬間。
⸻
世界が、
砕けた。
⸻
無数の光輪。
世界初期化機構。
白銀巨人。
裂け目。
⸻
全部。
⸻
ゼロを中心に、
崩壊していく。
⸻
レオニードは、
言葉を失った。
⸻
この男は。
⸻
世界を守るために。
⸻
“世界そのもの”を壊している。




