世界崩壊
第三十二章
管理者の終焉
世界が、砕けていく。
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無の空間。
巨大光輪。
世界初期化機構。
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その全部へ、
ヒビが走る。
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ゼロを中心に。
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まるで。
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“世界の優先順位”が、
塗り替わっている。
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巨大存在が、
初めて明確な異常反応を示した。
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『――管理権限崩壊確認――』
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『――世界基盤損傷率上昇――』
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『――停止要求――』
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ゼロは止まらない。
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黒衣が、
静かに揺れる。
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その姿は、
どこか寂しかった。
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レオニードは、
理解してしまう。
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この男は。
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今までずっと。
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“世界の側”だった。
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管理者。
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観測者と同じ側。
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だからこそ。
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世界へ干渉できる。
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世界を書き換えられる。
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終わらせることも。
守ることも。
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全部。
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だが今。
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ゼロは、
その側を壊そうとしている。
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巨大存在の声が、
激しく乱れる。
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『――何故だ――』
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『――管理者個体:
ZERO――』
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『――何故、
そこまで人類を庇護する――』
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『――非合理――』
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ゼロは、
静かに空を見る。
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何もない世界。
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でも。
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彼には、
見えていた。
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人類。
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泣き笑い。
争い。
愛。
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終わっても。
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何度でも。
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立ち上がる生き物。
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ゼロが、
小さく呟く。
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「お前達には、
分からないよ」
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そして。
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ほんの少しだけ、
笑った。
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「馬鹿だからな、
人間は」
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その瞬間。
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無の空間が、
さらに砕ける。
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巨大存在の輪郭が、
崩壊し始めた。
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『――管理基盤損傷――』
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『――維持不能――』
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『――最終処理移行――』
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次の瞬間。
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巨大存在の中心から、
膨大な白光が放たれる。
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世界消滅級。
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いや。
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もっと上。
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存在そのものを消去する光。
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レオニードは、
本能で悟った。
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終わる。
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これは。
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何も残らない。
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だが。
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ゼロは、
逃げなかった。
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静かに。
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真正面から、
その光を見ている。
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その背中を見て。
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レオニードは、
初めて思った。
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この男は。
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怖かったんじゃない。
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疲れていたんだ。
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世界を何度も見送って。
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一人だけ残って。
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何度も。
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それでも。
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人類を嫌いになれなかった。
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だから。
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ここまで来た。
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ゼロが、
小さく息を吐く。
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そして。
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初めて。
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本当に初めて。
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どこか、
安心したように笑った。
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「……もう、
終わりでいい」
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その瞬間。
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ゼロの身体へ、
無数の光が走る。
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金色の片目が、
ゆっくり砕け始める。
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巨大存在が、
初めて叫んだ。
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『――管理者個体消失反応――』
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『――停止しろ――』
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『――ZERO――』
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だが。
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ゼロは、
静かに右手を振った。
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まるで。
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誰かへ、
別れを告げるみたいに。
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その瞬間。
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白光が、
全部消えた。




