黒でも白でもない世界
第三十章
好きだった世界
「好きだったんだろ」
その言葉が。
無の世界へ、
静かに落ちた。
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巨大存在は、
沈黙している。
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理解できない。
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そんな反応だった。
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『――不合理――』
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『――人類は、
全周期で自己破滅を選択――』
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『――保存効率、
極低――』
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ゼロは、
少し笑った。
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「効率ねぇ」
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懐かしむみたいに。
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遠い昔を、
思い出すように。
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レオニードは、
何も言えなかった。
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この会話は。
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世界の根本だ。
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人類ではない存在達。
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世界を管理する者。
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そして。
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その中で、
たった一人。
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ゼロだけが、
人間側へ立っている。
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巨大存在が、
再び問いかける。
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『――管理者個体:
ZERO――』
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『――記録照合――』
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『――お前は過去、
複数周期で世界終了を選択している――』
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『――何故、
今周期のみ拒絶する――』
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沈黙。
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ゼロの目が、
少しだけ揺れる。
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レオニードは、
初めて見た。
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この男が、
過去を痛がる顔を。
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長い時間。
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やがて。
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ゼロが、
小さく息を吐く。
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「……飽きた」
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巨大存在が停止する。
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『――意味不明――』
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ゼロは、
空を見る。
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無の空間。
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何もない。
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でも。
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彼には、
見えていた。
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過去の世界。
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終わった文明。
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死んでいった人達。
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そして。
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何度も。
何度も。
何度も。
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世界を終わらせた、
自分自身。
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「終わらせても、
結局同じだった」
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静かな声。
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「また始まって」
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「また人類が生まれて」
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「また争って」
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「また滅びかける」
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レオニードの背筋が凍る。
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つまり。
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ゼロは。
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“世界終了後”すら知っている。
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巨大存在が応答する。
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『――故に、
再演算が必要――』
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ゼロが、
ゆっくり首を振る。
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「違う」
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「何度も見て、
やっと分かった」
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その声だけ。
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妙に、
穏やかだった。
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「人類ってさ」
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ゼロは、
少し笑う。
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「放っといても、
勝手に足掻くんだよ」
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その瞬間。
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レオニードは、
アーカディアの人々を思い出した。
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崩壊都市。
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泣きながら、
誰かを助けていた人達。
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瓦礫を持ち上げていた兵士。
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逃げずに、
最後まで術式を維持していた術師。
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確かに。
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人類は愚かだ。
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争う。
壊す。
奪う。
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でも。
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それだけじゃない。
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ゼロは、
静かに続ける。
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「毎回、
誰かが笑う」
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「毎回、
誰かが守ろうとする」
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「毎回、
誰かが未来を信じる」
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「……だから」
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そこで。
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ゼロの目が、
ほんの少しだけ柔らかくなる。
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「全部無かったことにするのは、
なんか違うだろ」
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巨大存在が、
長く沈黙した。
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初めて。
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“思考”しているように。
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やがて。
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『――理解不能――』
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『――管理者個体:
ZERO――』
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『――お前は、
人類へ汚染されすぎている――』
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その言葉に。
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ゼロは、
小さく笑った。
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「あぁ」
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そして。
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どこか、
少しだけ誇らしそうに。
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「多分、
そうなんだろうな」




