黒でも白でもない世界
第二十九章
人類という誤差
無の世界に、亀裂が走る。
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黒でも白でもない空間。
世界が存在しない場所。
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そこへ。
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ゼロの怒りだけが、
色を持って広がっていく。
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巨大存在が、
静かに停止していた。
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『――感情反応、
理解不能――』
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『――人類は全周期において、
同一破滅を反復――』
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『――保存合理性、
確認不能――』
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ゼロは、
何も言わない。
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ただ。
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静かに巨大存在を見ている。
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その目には、
疲れがあった。
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諦めも。
後悔も。
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全部ある。
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だが。
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それでも。
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消えていないものが、
一つだけあった。
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巨大存在が続ける。
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『――戦争』
『――差別』
『――権力闘争』
『――自己破壊』
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『――人類行動原理、
全周期で不変――』
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『――誤差修正不能――』
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『――結論:
再初期化推奨――』
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その瞬間。
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ゼロが、
小さく笑った。
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乾いた笑い。
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「……ほんと、
変わらないな」
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巨大存在が、
応答する。
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『――肯定――』
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『――故に、
終了が最適解――』
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だが。
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ゼロは、
ゆっくり首を振った。
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「違う」
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その声だけ。
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妙に、
優しかった。
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巨大存在が、
静止する。
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『――否定理由を要求――』
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ゼロは、
少しだけ空を見る。
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何もない世界。
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そこに。
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昔の景色を、
見ていた。
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戦争。
崩壊。
滅亡。
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何度も見た。
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数え切れないほど。
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人類は、
確かに変わらなかった。
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欲望。
憎しみ。
争い。
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同じことを、
繰り返した。
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何度も。
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だが。
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それだけじゃなかった。
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焚き火。
笑い声。
誰かの涙。
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死にかけた誰かを、
助けようとする手。
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小さな約束。
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どうでもいい夢。
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くだらない冗談。
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世界が何度終わっても。
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そういうものだけは。
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毎回、
必ず生まれた。
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ゼロが、
静かに言う。
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「人類は、
確かに愚かだ」
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『――肯定――』
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「何度やっても、
同じ失敗をする」
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『――肯定――』
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「でも」
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そこで。
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ゼロが、
初めてほんの少し笑った。
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疲れ切った。
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それでも。
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どこか、
救われたような笑み。
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「毎回、
少しだけ違う」
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巨大存在が、
沈黙する。
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『――誤差レベル:
無価値――』
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ゼロは、
静かに首を振る。
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「その誤差が、
人間なんだよ」
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無の世界が、
静まり返る。
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レオニードは、
言葉を失っていた。
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今まで。
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ゼロは、
終焉の覇者だった。
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世界外の怪物。
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人類を超えた存在。
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だが今。
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初めて。
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“人類側”へ立っている。
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巨大存在の光輪が、
ゆっくり回転する。
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『――理解不能――』
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『――非合理存在確認――』
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『――管理者個体:
ZERO――』
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『――お前は、
何故そこまで人類へ執着する――』
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長い沈黙。
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そして。
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ゼロが、
小さく答えた。
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「好きだったんだろ」
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その言葉だけ。
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あまりにも。
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人間らしかった。




